『探し物』
ないなあ……
どこにもない。
あんなものを持ち出して、どこで誰が使う必要があるんだろう。
ただのアルミホイル。
キッチンのいつもの棚から旅をして
いっさい何も他の場所で使い道はない気がするわ。
なんだか前に吹雪ちゃんが何かの実験で使うって言ってたかな……
でも、今はお友達のところに出かけているみたいだから
よそに出かけて行ってわざわざ科学実験を始めるような子じゃないと思うし。
そもそも必要があったら
キッチンの主である春風姉さまや蛍姉さまに一声かけていくはずなのに
それもないという。
ママのいただきもので持って帰ってきたさつまいもの束が
すでにキッチンで出番を待っている。
まだ?
って言ってるみたいに場所をとって存在を主張して
水洗いが済んだてかてかの体をさらしながら。
もうしばらく退屈そうに待たせてしまうから
適当な雑誌でも取り揃えてお待ちくださいってお願いしたらいいくらい。
まあそれは冗談。
気を紛らわせていないとやっていられないつまらないお仕事だわ。
手分けをして心当たりを探しても
最初からないもんね。
典型的なキッチン用品が
必要なときにこれだけピンポイントでなくなるような心当たり。
結局、ぐるぐる同じ場所を歩いてそのへんにあるじゃまものをひっくり返して回るだけ。
クッションとか。
ふかふかしたスリッパの影になっていないか。
テーブルの下を一応のぞいたりして。
ごそごそしていたら、あーちゃんが後ろから同じポーズで追いついてくる。
ここかなあってきょろきょろしていると
友達ができたと思ったのかあわてて後ろから迫ってくるの。
そんなに急がなくても逃げないのにね。
というかもう大人だから這って歩いて逃げようとしてもそのへんにぶつかるもの。
おまけに狭いところを探している最中だから。
落ちて転がったらぶつかってしまうかもしれないの!
危ないから潜り込まない!
わからないみたいだし。
だめー!
って追い返そうとした手のひらを
もぐもぐ。
汚いから!
ほんとうにもう。
あるべきものがひとつないというだけで
これだけばたばた落ちつかないのだから仕方のないものね。
予備を買い足す必要もないほどの下ろしたて。
すっきり新品同様があったはず。
使い慣れた安定のお気に入りが
あったはずの場所に、そこだけねずみにかじられたみたいにすっぽりない。
これが時代劇だったら
剣術の秘伝書が盗まれた痕跡のようにわかりやすく見つけたすきまは
実際に、大事なものがあったはずなのにな……
秘伝書ほどじゃないけど。
別に今すぐでなくても、また買い足しておけばいいって話したのはそれはそうだけど。
さつまいもはもうちょっとおあずけ。
もうご飯の準備は順調に進んでいるから、
これだけあっても急にメニューに組み込むのも難しい。
臨機応変って、結局は意味のない言葉ね。
計画的な進行に勝るものはないのが結論としか言えない。
まあ……
春風姉さまと蛍姉さまは何か面白いことでもあったみたいに
そんなに全部順調で計画的に進んだことなんてなかなかないよ!
明日までにはおいもの使い道を考え出さなくては。
笑ってる。
ふつうだって。
なかなかうまくいかないものね。
でもキッチンのお仕事って
こんなに毎日一生懸命そこらじゅう這い回っているものなのかなあ?
それはそれでどうも大きく改善の余地があるような……
でも、普段はきちんとしまっておいてあるものがたまたまなかっただけだから
いつもここまではないのかな?
だんだん蛍姉さまも
しまっておいたつもりだけど、もしかしたら思い違いで最初からなかったような?
とか言い出しはじめて
もうしっかりしているのかそうでなくてもいいのかわからなくなってきたから
大変なお仕事
いつもご苦労様です!
と、今日だけちょっとお手伝いした立場からの意見でした。
おしまい!