小雨

『小さい秋』
どこか物悲しいメロディーも
ちっちゃな子が歌えば見ているだけで楽しい。
今日は教えてあげていたユキちゃんと、すぐに覚えた虹子ちゃん。
見つけた秋はどんなものだったのだろう?
小雨がぼんやり見逃してしまいそうになりながら
あまり自慢できる視力じゃない眼鏡越しにどうにかつかまえた景色は
新鮮なサンマやなすや
いい匂いがする準備だけでみんなが喜ぶキッチンの蛍お姉ちゃんの
がんばってる横顔だったり
気がつくとすぐに家の外が暗くなっている
たちまち落ちる夜の早さだったりして
夕方の冷たい風が吹く前に
小雨もおうちに帰らないと!
なんだか焦りがちな薄暗い帰り道に
あたたかな家が
昨日よりもだんだん恋しくなるように変わっていくみたい。
もう九月の半ばは、残暑のつもりで過ごすにはすっかり遅いけれど
まだそんなに指先が凍えるような寒さというほどでもない。
いつのまにか冷たい水を使う洗い物で手が荒れがちで
保湿が大事、なんて話をはじめる時期ではあるけれど
それでもまだ全然
深まる秋、やがて近づく冬の気配を感じるには
いくら窓の外を一人で眺めてゆっくりするのが好きな
落ち着いたような地味な小雨だって
さすがに早すぎる。
あまりにも夕暮れがふけていくのがあっというまだから
なんだか今までよりも夜が来ることまで怖くなって
暗さを余計に感じているのかもしれない……
本当はそんなに急いでもいないつもりの秋なのに
小雨が勝手にびくびくしがちなだけなのかも、
なんだかいつもの年よりも寒さがやってくるまで期間が短かそうな気がするのは
ただ単に、臆病に一人で思い込んでしまっているせい。
だんだん変わっていく季節がうれしいんだって思えるみんなみたいでいられたらいいのに
立夏ちゃんもおなかが減る季節だーって喜んでいるし
麗ちゃんがそのおなかをぽんぽん叩いてる。
そんなに入るものなの?
って笑ってる。
何でできているんだろうねって話をしても
でもごめんね、小雨は怖いのが苦手だから暗いのばかりが気になってしまうみたいで
たまにうわのそら。
うまく返事ができないでいる。
薄くてあまり明るくない優しい色の置き時計を
夏までなら落ち着いて見ていたはずなのに
このごろは針が回るのが早いみたいに不安で
窓に落ちる薄暗がりと交互に見比べながら
秋になったなあ……
つぶやいてしまう。
とてもセンチメンタルだって笑われてしまうの。
でもたぶんそうではなくて、ただ大した理由もなく怖いだけなのだと思います。
やがてこうして時計を早回しするような夕暮れのペースにも
毎日の生活を合わせていけるようになって
きのうよりまた時刻が繰り上がったようなせわしない夜の気配が当たり前になれば
小雨もうまく予定を立てて
安心できるように、だんだん慣れていくのかも。
特に落ち込んでいたりしているわけじゃなくて
変わっていく景色に浸っているようで、別にそうでもなく
どちらかというと右に左におたおた慌てている感じが近いようで
どうしていいか戸惑っているだけ。
たぶんもうすぐ、季節の変わり目の発見が
色とりどりの小さくて面白い歌声になる時期を過ぎて
もう少し小雨は、寒くなっていく季節をきちんと受け止められるように
季節は当たり前みたいに私たち家族の生活を
ちょっとだけ細かいところで変えていく。
それを充分に納得するまで
小雨の中でも
たぶん、おうちのみんなの中でも
もうしばらく続く、秋の変わり目探し。
寒い季節が来る予感で備えるて
寄り添いあって、明かりをつけることに慣れていけるように
本当は次の季節が、ゆっくりと小雨が気づくのを待っているいうことを
これからもみんなに教わっていく時間。
急いでも焦っても、なかなかまわりと同じペースで新しい毎日に進めないけれど
それでも小雨はだんだんと、一歩一歩順調にとは言えないもつれる足でだけど
優しくて明るい家族のみんなに連れて行ってもらっている。
そんな気がする。
激しい夏から、涼しい風を感じて深まる秋へと
変化の季節を歩いています。