ヒカル

『9月を歩くと』
久しぶりに、だいぶ容赦なく日光が照りつけて
気温が上がった一日。
いつ以来になる?
帽子なしでは過ごせなかった夏のような日差し。
学校から帰ったら、妹たちの見慣れた麦藁帽子姿。
いつもの景色がなぜか久しぶり。
夏がいったん眠ったみたいに、暑さを潜めて沈んだ毎日に
もうまるっきり秋だと思い込んでいたら
これだから。
スポーツドリンクばっかりでは喉が渇くし
麦茶も今日は足りないみたい。
急いで作ったアイスコーヒーは、冷蔵庫の中でまだ充分には冷えてないけど
氷もなくなってしまったからこれで。
まあ、なかなかいける。
あんまりこだわらない舌なので。
というか別に
水道の水をがぶ飲みでもまったく問題ない……
でもそれもうっかりすると、おなかがたぷたぷで動けなくなるな。
夏場の水分補給ってどうしていたっけ?
ついこの間のことなのに忘れてる。
まだ夏は終わってないみたいなのに。
目が眩むような光がさんさん跳ね回る道路。
車も自転車も汗をかいているようにきらきら反射をさせて
ただ歩くだけの下校も徐々に体力を奪う道のり。
きのうまで軽快に進んでいた足取りを緩めて自分で適度に調整。
こうして暑い日々が続いたら、もたないから。
早くみんなの顔を見たくても気持ちを抑えて。
緊張を感じたときにする深呼吸を意識したりとか
普段歩く道の目印に見つけた、ガードレールの継ぎ目まであとどれくらいか
ゆっくり一歩一歩数えて
いち、に。
わずかに歩幅が昨日とずれるのは
長く伸びた街路樹の影でペースが狂うから。
ふたたび目覚めて戻ってきた暑さに見つけた変化のせい。
足元に並んで刻み込まれる影は、前はもっと狭い範囲に丸まっていたような。
木の根元まで身を寄せて仲良くくっついていたのが
ちょっと冒険して遊びに出かけた先。
人の歩調を勝手に乱してしまう。
額から流れる汗の感じも何も変わらないはずの夏の景色は
よく見れば、入道雲よりも低くうろこ雲がかかっている空。
半袖のシャツですれ違う人たちも
白や水色の明るい色に照らされていたソーダ水みたいな街並みが
知らないうちに落ち着いた色合いの秋の装い。
そんなに急いで衣替えをする必要ないのに。
まだこんなに汗ばんで、湿気が貼り付くみたい。
ゆっくりでいいのに──
疲れたら、昼寝を予定に入れながらでもいいくらいじゃないかな。
なんて思って顔を上げたら
高いところにあったはずの太陽がもう知らないうちに傾きはじめている。
これじゃあゆっくり体を休めるわけにいかないみたい。
まだ暑いのになんだかずるい。
誰もがみんな急にぱぱっと
変わる季節の支度を整えるのが得意なわけではないのに。
テーブルで減っていくアイスコーヒーを継ぎ足して、何も変わらない顔をして
グラスを並べて座る家族と
たまに話が途切れたら同じ部屋を通り過ぎるそよ風を一緒に感じている時間を
もう少し重ねながら
真夏の名残と小さな秋を行ったり来たりしながら心の準備をする
それくらいゆるやかでちょうどいいのに。
願ってみたら、夏の終わりをもうちょっと先に留めておけるのだろうか?
なかなか難しい、無理なことを言っているだけのような気もするな。