立夏

『傘を差して』
お休みの間でもよく会って
おうちを知らないお友達の目撃談やら
夏のジューシーなおやつの一押しやら
きびしい宿題の進行状況やら
お出かけ先の候補を探す
町で見かけたあらゆる変化の噂話やら
あれもこれも話しても
日が傾いて涼しい風を感じる夕方になっても別れがたいのは
ただ単純に、学校で顔を合わせる時間が少なくなったからなんだって
そう思っていた暑い毎日。
見渡す限りの何もかもがぎらぎらして明るくて
どこにも普通も当たり前も溶けた特別な季節に迷い込んだから。
ふだん会えないのが理由なので
さよならがつらい、
でも仕方ない。
明日はまだ学校じゃないね、何するのって
いつまでも終わらないみたいな
たまに待ち合わせたお友達同士のお話。
汗をかきかき人通りの多い街並みを歩いて
涼しいお店に逃げ込んで
友達のおうちにも押し寄せて
えんえんときりがない
とりとめもないだらだらした会話。
そういう時間に確認する友情だって
間違いなくあるはずだ。
信じてる!
そんなお話を続けながら過ぎていった夏休み。
久しぶりに集まったから
話題が尽きないで
あまりにも尽きないままで
放課後の教室に残った一団は
ときどき用事でメンバーが抜けたり入れ替わったり
暇人がいっぱいの一年生のお休み明け。
帰って何しよう?
どうせ久しぶりの学校に疲れた後。
寝るだけでは?
ごろごろするだけでは?
だらけることにかけては自信がある子が
用事を済ませて戻ってきて
実にならない話はいつまで続く?
どのあたりが一区切りなのかわかんないよ。
じゃあそろそろ……からが長いよネ!
夏休みで会えなかったからだ!
と思っていたけど
新学期が始まって三日目にもなると
もう言い訳は通じないかもね!
ていうか
あんまり長く会えなかった気がしないね!
すぐつながる。
休みの間にこんなことがあったよーって
あーわかる、
わかるわかる。
うちは特に何にもなかったよー、
あーわかる。
よくわかる。
たいていの場合
そんなに説明しないでも伝わる!
なんだこれ?
ぜんぶじゃん!
本当にわかってるのか!
うーん
わかってないかもしれないね?
それだけを話して確認した後で。
まあいいやってなったらすぐ。
あーわかる。
ってなってるし!
リッカも言ってるし!
しょうがないやつらだなあ。
まあいいや。
って。
たったそれだけの話をひたすら
新学期になってから三日間
放課後に何時間も!
今日、誰かが気づいて言い出して
みんなでそろってがーんってなって。
まあ、よくあるよね。
あるある。
夏休みのせいじゃなかったんだねー。
特に今日なんて
夏休みに集まれなかった人数だし
せっかくだから帰りにどこかへ出かけよう、
って盛り上がっても
夏に行きたかったウインドウショッピングは
わずかに季節を外したし
たぶん欲しくなるしお金がないし……
じゃあ、何か食べて帰ろうか。
うーん
お休みは油断して食べ過ぎる傾向。
まったく、誰か一人くらいは
夏バテでやせた子はいないのだろうか!
都市伝説なの?
夏バテ。
しょうがないな。
体型に文句を言ってても変わらないし
ちょっと体を動かすか!
カラオケとか、バッティングセンターならすぐいける?
なんて話し合っていたら
ぽつぽつ窓を叩く音がするから
じゃあいいや……
まあ、ここで声を出すのも体力使うもんね!
教室にいるのと変わらないよねー
やばい、みるみるやせられる。
井戸端会議でキレイになっちゃお!
……
雨がいけないんだ!
学校も本格的にはじまって
青春を無駄にするのもいかがなものか。
そろそろぱっとしたこと
何かしたいよねー。
だからオニーチャン!
リカは週末はおでかけしたいので
お天気がまた変わりやすいようだったら……
傘を用意して隣にナイトがいてくれて
いざとなったらすっと開いて差し出してもらえたらな。
ついてきてくれると気合が入ります!
いきなりだけど
予定、大丈夫そう?
やっぱり一年生の集団に付き合わせちゃうのはつらい?
現在の話しあいによれば
第一候補は映画館!
特に見たいものが
あるというわけではないが!
変更はききます!
いいアイデアが出るという気はしないが!
あまい恋愛映画がやってるといいなー。
ベタな内容の映画だって
王道でいいと思います!
そういうのを求めて行く
恋人たちと
恋人未満たちのために。
もしお出かけできる都合がつくようだったら
もう恋人のつもりで行っても大丈夫だからね!