小雨

『夏の花』
お天気が心配だった夜の花火大会。
なんとか降らずにいてくれて
少し肌寒いそよ風の中で見上げる空。
明日は夏休みもとうとう最後の一日になるから
もう夏も終わってしまう感じがします。
お兄ちゃんはもう見ましたか?
暑い日差しを耐えてきたお庭の花も
一生懸命に背を伸ばした毎日を終えて
今日の朝はそっとうつむいていたこと。
小さな菜園の収穫もそろそろおしまい。
だんだんと葉っぱが力なくうなだれて
何もかもがぎらぎらと熱を持っていた毎日が
ゆっくりと過ぎ去ろうとしている。
もうすぐ秋が来たとき、
葉っぱの色が一斉に変わりはじめたら
夜空に輝く光が咲いているこんな景色みたいに
忘れないようにしたくてじっと見つめて
変わっていく実感が少し怖いまま
やっぱり小雨は臆病だな、
しっかりできるようになったらいいのになって
ぼんやり考えて。
いつか、みんなで花火を見た今の景色を思い出したら
今年もいろいろ大変なことはあったけど
いい夏だったな、
いろんなことが小雨には抱えきれないほどあったな、
そんな感じも今みたいにじんわり胸の中に広がっていくのでしょうか。
大きな音が体を震わせて届くたびに
まわりで口を開いて笑っている家族たちも
その瞬間、きれいな色に染まっている。
みんなも暑かった夏を無事に過ごせてよかった。
珍しい浴衣姿と、肩を包むショールや大き目の上着も鮮やかで
夏が終わってシーズンの終わりを迎えたみたいにしおれているのは
小雨ひとりでいいみたい。
本当は小雨だって、もうすぐ戻ってくるいつもの学校の生活に向けて
気持ちを切り替えていかなくちゃいけないの。
夏の最後にしぼんで消えてしまう種類の花と違って
小雨は人間なのだから!
小さくて頼りなくても、お兄ちゃんの妹としてここにちゃんといます。
ゆっくり入れ替わっていく花壇の手入れも小雨に任されたお仕事だし
ちょっぴりセンチメンタルにばかりなってはいられない。
枯葉の季節が来ても小雨は自分に重ねてつまらないことを言ってしまいそうだし
気をつけないと。
しんきくさくなってしまったらさみしいもの。
また海晴お姉ちゃんにぽんってお尻を叩かれて、しっかりねって心配かけてしまうの。
朝のお天気番組で
いつも早起きでえらい我が家の小雨ちゃんも元気を出していきましょう!
そんなふうに言われてしまうかな?
小雨のとりえは早起きくらいしかないんだし。
でも本当に
こんなに楽しい時間が、雨でおしまいにならなくてよかったと思います。
小雨はしとしと薄い雲の差す雨だけの音に包まれるのも落ち着くんだけど。
こういうきわどいお天気の日は
迷惑をかけたら申し訳ない!
とそわそわすることもあるので。
もし、小雨の名前がもう少し華やかなおひさまだったとしても心配は変わらないし
今と何も変わらずにじめじめしっとりしてしまうんだろうなあと悲しくて。
せめて明るい花火が開いているときくらいは
落ち込まないで顔を上げていようって思っているのに。
小雨は変わらなきゃ。
変われないだろうな。
どんなきれいな花火が見上げるいっぱいに開いたって、たった一人で堂々巡り。
それでも、なかなかしおれたりはできないから前向きに。
自分に言い聞かせたり。
もっと陽気に楽しめたらいいのに。
でも、今日はこれが小雨の精一杯の前向き。
だから情けなく見えたって今日の小雨はこれでいいって
涙をこらえていれば。
夏の終わりのきれいな花火が開いたときに
いつも明るくて楽しいみんなみたいに
今は、小雨もいつのまにか笑っています。
お兄ちゃん、今年の花火大会も楽しいですね。
家族そろって見ることができてうれしい……
今度はうれしくて泣きそうなくらい。
お兄ちゃん、今年の夏もいつも一緒にいてくれてありがとうございました。
いつも助けてもらうことばかりの小雨でした。
どれくらい成長したら、もう少し迷惑をかけないでいられるんだろう?
まだまだちっともわからないままですけど
小雨はどうにか無事に夏休みを終えて
できればがんばっていけたらいいな、という小さな野望を胸に抱いて
二学期を迎えようとしています。