春風

『まんたんエネルギー』
春風はあんまりできることが多くなくて
怖がりで泣き虫でとても弱くて
王子様のことが好きでたまらない
きっと、将来を誓うにはまだ小さい女の子。
春風はもう、心の中ではとっくに決めているのに。
いつからか胸の中で揺れていた幼い若芽が
知らないうちにぐんぐん伸びて、広がる枝には青い若葉。
自分ではどうしようもないほど大きくふくらんだ夢は
もうずっとあなたに永遠の愛を
手を伸ばして差し出そうとしているというのに。
でもまだ今も子供で臆病な春風は揺れている。
いつもいつも弱い春風が
あなたに迷惑をかけてしまうかもしれないと。
ああ、せめて王子様がもう結婚できる年であったなら
何もかも忘れて心のままに結ばれてしまえたのに。
神様はどうして春風をお姉さんに決めてしまったのかしら。
王子様もおかしいと思いませんか?
運命が少し春風に意地悪をするの!
ずっと尽くしたいと思っているのにな……
それともせめて
年齢も何も関係ないと
たちまち、あなたがさらってくれたなら。
深く情熱的な
虫の音が鳴る夏の夜にまぎれて
たくましい腕で奪われてしまうなら
春風もあきらめるしかないって覚悟を決めるのに!
ちょっとくらいお姉ちゃんだからって
少し怖がりだからって
もう春風にはこの人しかいないのだから。
ずっと昔からそうなる予感がしていたのだと。
早く早く気持ちが決まってしまえばいいのにな。
そんな揺れる春風でも
夏休みはできることがあって。
なんと春風の王子様は
暑さで少し大変だなあって困っているという!
そんな──
王子様のお体が弱ってしまっているだなんて
春風は考えただけで涙がこぼれてしまう。
エプロンのすそがどこもぬぐうところがなく濡れてしまうまで。
ああ、王子様がそんなことになってしまうなんて
なんて春風は力がないんだろう!
今すぐに駆けつけたいの。
春風の全てをあなたに差し出してでも
助けになりたいの。
だから春風は今日はまんぷくごはんを作りたくて
王子様に好きな食べ物を尋ねては
とくいです!
にがてです!
はねたりうなだれたりしていたのです。
考えると不思議なの。
私が身を捧げて全てを尽くしても
とても知ることができないほど大きなあなたも
暑い日にはちょっと疲れたみたいに
眠っていたり
元気をつけるために春風のお料理をさしあげたいと思ったり
こんなにまぶしい人なのに
どうしてときどき、こんなにかわいい人なのか。
春風が尽くしてあげたいの!
守ってあげたい……
何でも言ってください!
そんな時には少し
春風があなたの側にいていい理由ができたようで
早い鼓動に胸は熱くなる。
やった!
春風、王子様に必要とされていると
思ってもいいのかな?
たまにはそんなことを願ったって
ばちは当たらない?
明日はついにみんなの予定が揃い
楽しいプールへのお出かけの夢が叶います。
だから王子様が
たとえ明日は盛り上がって遊んでへとへとになってしまったって
後で春風が慰めてあげられることがあるのかもしれないし!
お疲れを吹き飛ばしてあげられるようなアイデア
ずっとあなたを見つめていると思い浮かぶのかもしれないのだし!
だから春風は願います。
明日は家族みんなが楽しく過ごせる日になって
あなたにとってこの夏一番の
大切な毎日の何物にだって負けないくらいの思い出を
春風が協力して作り出していけるようになれたら。
それは春風にとってもいつまでも輝く
大切な思い出になるはずなので
今日は春風をおそばにおいて
あなたのための特別なおもてなしで力をつけていってください。
でも、特別に愛を込めた唐揚げで夕凪ちゃんたち小さいみんなもがっつり元気になって
明日は大変な日になってしまうのかしら?
そのときは帰ってきてから王子様のお願いをきくのが
春風の明日の本当のお仕事になるのでしょうか。
楽しみですね!
春風がわくわくしすぎて
このまま子供みたいに眠れないなんてことがなくなるように
おまじないをかけてもらえるよう
お願いしてもいいですか?
どんなおまじないが効きそうなのか。
それは、せっかくだから今夜
これから二人で考えていきたいんです。