『おえかき』
夏休みには
絵を描いて提出する宿題。
おにわを描いても
家族を描いても
こねこを描いても
なんでもあり。
ありったらあり。
お友達と遊んだ思い出だっていいし
いとしのあまいアイスクリームだっていいんだし
みんなではいるおふろの時間でもOK。
……
紙がふにゃふにゃになっちゃう?
それにしたって、季節は夏。
今ならではの景色、描きたいな。
と思う子がいっぱいいるのは自然なことでしょう?
このクーラーのきいたリビングから見えるお庭だって
秋になれば緑の枝も葉を落とす。
せつなく積もる落ち葉のセンチメンタル。
ふー……
こんなにぎらぎら暑くて、本当にそんな日が来るの?
もう八月も半ば。
そろそろ真っ白な宿題を前に、あわてはじめた子がいる中で
蛍は今日も夏のさわやかなお着替えのために
縫い子のお仕事。
中等部にお絵かきの宿題がなくて
時間があってよかったような
さみしいような。
空いた時間でサテンリボンをつけて
はしごレースをつけて
ギャザーを寄せて
裾を上げて。
穴あきにはアップリケ。
どこで転んで、こんなに穴だらけにして帰ってくるんだろう?
すごい勢いをつけて走っているみたいなの。
これはきっと、うちの子たちはいつもかけっこ一等賞ですね。
頼もしい後進たちが
たちまち蛍を追い抜いていくその背中は
今日はお庭を前に水彩絵の具を広げて並ぶの。
途中で外に飛び出して、水撒きのお手伝いに行っては
濡れた服で帰ってくる子のどれだけ多かったことか!
そのたびにホタが
ひゃーって驚くものだから
みんな楽しそう。
遊んでもらっていると思っているみたいなの!
そんなあ……
ホタ驚くのそんなに得意じゃないよ……
吹いてあげて着替えさせてあげて
ちょうど今出来上がったばかりの夏服。
かわいいな!
たのしー
夕凪ちゃん、くるっとまわって!
虹子ちゃん、足元濡れてるよ気をつけて!
ほら、ころんだー……
お絵かきの宿題は
すすんだかすすまなかったかというと
どちらかというと進まなかったらしいというのが蛍の意見。
みんなの主張は違うようだけど。
天気予報だとこのあたりは曇る気配もあるらしいから
明日曇ったら、続きを描いてもまぶしい日のお庭を絵に残せなくなるね?
茂る青葉の色も、白い紙では真夏の太陽の下で輝いているのに
周りがすこーし薄暗くなっちゃうの?
晴れているのか曇っているのか
どんな日の夏なんだろう!
これ!
みたいな?
お外にいるお兄ちゃんは
小学生のみんなには、こんなに大きく見えたのでしょうか?
端っこで顔を出している猫はかわいいのにね。
そしたらこの続きを描くなら
暑くてもお兄ちゃんはお外に立っていてほしいものなのかしら……
ちっちゃい子が無理なお願いをするようだったら
蛍は明日は
お庭に飛び出してお兄ちゃんのそばで飲み物をお届けするのかなあ。
おうちにいて見ているだけでいいって
がまんできるはずだったのにな。
そうしてずっと近くにいたら
かわいい妹みんなに
そこにいたらじゃまだよー!
って、おこられる?
たまにはみんなから
こらーっておこられて
しゅーんとする蛍がいても
夏休みの思い出だもの。
後でお兄ちゃんと笑ってお話できるよ。
蛍がちょっといたずら心。
ときどきそんな日があってもいいと思います。