吹雪

『リブラ』
猛暑日の温度が続く毎日。
それでもたまには午後から薄く雲が広がり
わずかに気温が落ち着く日もあるので
そんな時には、揃って庭に出て
日が傾き始める頃には、ちょうど立木の影がかかる花壇に集まり
一日の分量の水をあげて
菜園になっている花壇の隅で、協力してきゅうりとなすの収穫を行います。
たいてい十人以上は人数がいるから
一人に付き一本。
あとは寝かせて、様子を見てから。
それでも大きくなりすぎたきゅうりが残っていたら
立候補した子から順番に
収穫する優先権があります。
八月一日は夕凪姉が。
五日は青空が最初に手をあげて
立夏姉と麗姉が続く順番。
どうやら、いつのまにか自然にローテーションができているようです。
ふだんから好んでいくつもきゅうりをとる子は
次第に、他の子に譲ろうとする傾向が
この菜園での活動において頻繁に観察される。
だから涼しい今日などは
暑いときにはめまいを起こしやすくて活動が不安定な私だったり
そもそも、直射日光の強い庭には普段から出ることのないユキの仕事になります。
こういう協力して行う作業は、全体のバランスを考える必要はあまりないのでは?
行動的なメンバーが率先してリーダーシップをとっていけば
私たちが後を追いかけるだけで、円滑に活動は進む。
だけど、先頭に立ってみんなを引っ張る役目の氷柱姉が
今日は吹雪ちゃんとユキの番!
残ったキュウリの前で、有無を言わせず宣言したものだから。
普段から参加する機会の少ないユキは状況を把握するまでに時間がかかり
ずっと戸惑ったような声を出しっぱなし。
みんなに場所を空けてもらって、前を薦められたときも
きょときょと。
大きすぎるキュウリを、一人で両手でつかまえて
さっきは教えられたとおりに手際が良かったのも忘れたように
どうしよう!
あってる?
あわてて落としそうになっていたものだから
まるで動揺がまわりにうつって行ったみたいに
一斉にばらばらのアドバイスや掛け声が飛んで、あまり助けになっていなかったと思う──
それなのに。
いったん落としたきゅうりを
後でよく洗ってから食べないと!
と、見せてまわっていました。
なぜかそんなにうまくいったわけではなくても、ほこらしげに。
慣れていないことなのですぐには上手にできないものだし
ユキには突然に降ってきた役目に感じたようだし
もちろん下手でも何も問題ないのは、みんなの仕事を見てわかっていたことで。
それでもやはり
うれしそうにはしゃいでいる。
そんなにだろうか。
なぜなのか。
薄い曇り空とそよ風は穏やかで、突然の雨の気配もなく
夕方にかけては、気温も優しく
ユキがきのうよりも元気に過ごせた日。
長い夏休みには
いつもより少し過ごしやすい午後も来るものだから、と
食事の準備の時間にだいぶ遅れて野菜を運んだ私たちを
待っていた蛍姉が逆にフォローしてくれたのは
ほとんどはしゃいで時間を浪費していた自覚のある私たちとしては
笑って身を縮めて見せるしかなかったのだけど。
たまには夏の庭でユキがはしゃいでいたのだから
こんな日もあるのだ、と
収穫の際の効率的でない工程を深く考えずに受け入れることができた
私としてはとても貴重な体験でした。
やはり、いつもより気温が落ち着いたのがよかったのか。
このまますぐに夏の盛りが通り過ぎてしまえば、
と考えるのは
いくらなんでも八月上旬が過ぎたくらいの時期の希望としては無理がありすぎる。
せめて明日くらいはまた、と願えばいいのか
それともやはり暑さ対策を整えて準備しておくほうが適切なのか
どちらともつかない考え事。
今日は頭の回転がいいはずなのに
解決しないままの謎は、また数多く増えていくようです。