『変わりなく』
くるくる入れ替わる予感。
夏空に雲がかかったと見れば
涼しさの気配を期待してしまう。
庭の緑が日差しをさえぎるような気がして
探している、さわやかに踊る風の通り道。
今日は、体力に自信のあるヒカル姉さまが
夏には負けられない、みんなに涼しい場所を見つけ出すんだって
一日中、ちびっこたちを引き連れて駆け回り
適度に休憩を取りながらも
日が傾き始める夕方には、ついにダウン。
ソファで居眠りしているヒカル姉様を
わいわい妹たちがうちわで扇いであげている。
探していた場所は見つからなかったけど
お疲れ様。
大騒ぎをして、ありがとうのさやさや扇ぐうちわ。
これでも起きないのね……
気持ち良さそうな寝息。
夕方になって、ようやく心なしか温度が落ち着いてきたような
まだ全然、家の中は熱がこもってたまらないような……
そのうち涼しくなりそうな予感は、幻だったの。
夏の日は容赦がない。
だらしないことが嫌いで、きちんとしていたい氷柱姉様があきらめ、
尽きない体力を自慢していたヒカル姉様が早い眠りについて
我が家で夏の暑さに対抗できるものは
もう一人としてありはしない。
太平洋高気圧がやがて勢力を弱めて落ち着くまで
いつかくるその日を、ゆっくり気長に待つしかないの。
のんびりしながら。
半分眠るような午後を過ごして、夏休みは過ぎていく。
わずかにかすめる、これでいいのだろうかという疑問も
すっかりとけて
だらだら流れていく。
さよなら、毅然と過ごした日々。
背筋を伸ばして誇らしく、まっすぐ正した姿勢にさよなら。
明け方の日が差す直前の色をした、お気に入りの制服も今はクローゼットの奥。
涼しげな白と水色が、引っ掻き回された奥から取り出され
立夏ちゃんのタンスの前では顕著に散らかり
私のあたりも、充分に整頓されているとはいえない状態。
その点、小雨ちゃんは完璧。
現在我が家で唯一、積み重ねる毎日のしっかりした態度を崩さない。
無理をしすぎて体を壊さなければいいけれど……
もう暑さに抵抗するのをやめて、早くだらだら過ごしても……
いいのに。
ね。
話に聞いたところによると
がさつな男にしては、まあ努力のあとがうかがえるほうだった部屋も
蛍姉様が洗濯物を届けに行った後で
たいへんたいへん
片付けてあげたいよー!
それを聞いて、春風姉様が様子を見に行って
尽くしてあげたいのにー!
断られたのって、相談してきたの。
王子様にわかってもらえるいい方法はないかしら?
どんな時でも、あなたのことを思っているのにと。
私に言われても、相手が違うと思うの。
別に誰のことだって、いつも思っていたりはしない。
それなのに。
どうしちゃったのかしら、春風姉様。
やっぱり暑さで判断能力が低下しつつあるみたい。
夏は必ず終わるのだし……と言っても、待っているわけにはいかないのかもしれない。
こんな暑苦しい内容の相談、もうどうにかしてよって思うし。
雲が影を作ってくれて
もくもく沸きだしたら、さーっと夕立でも降れば気温も変わると思うけど
ここ最近の毎日を見た感じだと、そう期待もできないようだし
やっぱりあれかな。
扇風機。
だってエアコンは、なかなかすぐには取り付けるわけには行かない。
その点、扇風機はえらいと思うわ。
スリムな体でしっかり立ち上がったら、すぐに仕事をはじめて
涼しい風を運ぶの。
部屋中、すみずみまでは……まあ、無理かもしれないけれど
そんなことを言い出したらきりがないもの。
手が届くあたりまでだとわかっていても、着実に風を届ける
それだけでいいの。
私たちは、それでいいなと思うの。
みんなでママと交渉中。
一つ増やそう!
買いに行ってもいいんじゃない?
そして、明日までに考えておくね、ということで
ママが決断を下す、運命の日はそう。明日。
やっぱり……
何かしらお手伝いが必要になるかな?
ここで一気にまとめて、庭の草むしりとか。
このままだと、まだしばらく変化なく続きそうな、暑い時間。
お手伝いが終わったら、少しひんやりした風を浴びて
少しの間は落ち着いた毎日を過ごすのもいいと思うけれど。