バレンタイン星花

・星花
バレンタインは、一年に一度だけの特別な日。
特別な人に。
大切なことを、たくさん。
困らせるなんて心配をしないで、言葉を伝えていいの。
好きです、とか。
いつもありがとう、とか。
これからもよろしくお願いします、なんて。
いいことを。
大丈夫なのです。
ちっとも恥ずかしがらなくてもいい。
遠慮しないで。
自然に言葉が出てきてしまうから、っていう理由で
全部任せてしまっても。
バレンタインだよ。
勇気がなくても
まけないで!
そんな日だと
家族みんなが張り切っているので。
それはいいな!
と。
星花も、特別なお兄ちゃんに!
照れずに愛を伝えなければなりません。
豪傑じゃなくたって
きっと、問題ないよ!
みんながしているから。
誰だってできる。
星花もきっと。
バレンタインに
夢にまで見た告白を!
いざ!
だけど、特別な日だからといって
星花は別に、急に特別な子になったりしない。
ふつうの
お兄ちゃんの妹。
もしかして
お兄ちゃんは、星花にチョコをもらっても
よかったな。
くらいで
ふつうのよろこび。
なのでしょうか!?
やっぱり、星花にもらうより
もっと立派で迫力がある
関羽様にチョコをもらったほうがうれしい?
おおごえで
すきですー!
って。
絶対、星花には出せないようなものすごい声でいうよ。
そしたら星花は
まけてしまうよ……
ということであれば。
星花、かんがえました。
もっともっと
よろこんでもらおう!
よろこんでもらうには
まず、相手の気持ちになって考えることからはじめるのが
第一歩だと聞きました。
私のお兄ちゃんは……
ホタお姉ちゃんのお料理が好きで
どんぶりものは、がっしり抱えてかきこんで食べてしまうの。
おとこのひとなのです!
それから、お兄ちゃんは
小さな子と遊んであげるのがたぶん好きみたい。
おおよろこびで
あさひー!
あーちゃんも
あっばー!
ふたりは抱き合うの。
何者も引き離せない、熱い絆です。
この世には、そんなに激しい愛もあるなんて!
というわけで、これ。
手作りチョコともうひとつ。
いつでも童心に帰って
星花が遊んでもらう券!
もしも、おうちで何か大変な事件があって
天地がひっくり返って
夕凪ちゃんが逃げてしまって
星花がむずかしくかんがえこんで
うーん、
こんな時に孔明様がいればなあ!
もし、星花が立派な吹雪ちゃんみたいだったら
もっとお兄ちゃんの力になれるのかなあ!
怖い顔をしてうなっていたら
この券で。
たちまち笑顔になって、お兄ちゃんは安心するという
そういう券です。
いつでも使ってください!
星花はどこにでもいる女の子で
困ったことがあったら普通に落ち込んだり
ときどき考えすぎて、いい知恵がまわらなくて
童心に帰る券……でいいのかな、とうなったりもしますが。
でも、関羽様でもできないことで
世界中のどこの誰でも真似ができない、星花だけの一番の自慢は
お兄ちゃんの妹で、誰より一番近くで
ずっとおそばにいられる家族だということ。
お兄ちゃんは劉備様ではないけれど
でもそれよりも特別な──
星花といつも一緒にいてくれる家族なので。
チョコを受け取ってもらえて
普通に喜んでもらうだけでもうれしい。
それで、もっとたくさん喜んでもらいたくて
悩んでしまって
明日は恥ずかしくなってしまうくらいのものしか思いつかない
幼い星花でも、
お兄ちゃんにだったら
星花が考えた一番のせいいっぱいを
今年も、これからもずっとあげていいんだよ。
そういう絆で結ばれた
家族に生まれたので。
今年は星花のチョコが家族一喜んでもらえるほどじゃなくて
お兄ちゃんが、星花の力で世界の一番の幸せ者にならなかったからって!
これからも、たいして立派な星花にはならなくても。
たぶんずっと一生懸命になることはやめないで
いつも一番をあげたい気持ちは変わらないと思います。
毎年バレンタインに困らせるばかりで、お姉ちゃんたちみたいなことは何もできないのですが
今日が一年に一度の
何かが起こる日かもしれないと
夢を見ることは、みんなと同じように
星花にもできます。
だからこれからのバレンタインも
不思議な力で、星花は勇気を出して
お兄ちゃんに好きだって、いっぱいに伝えられる
今年もたった一日だけ。
恥ずかしがらないでチョコを贈ることができて
星花はほっとしました。
よかった、臆病な星花はお兄ちゃんにチョコをあげられたんだなって。
ふー。
よかった。
あとはお兄ちゃんが少しよろこんでくれたら
星花はそれで、もう望むものは何もない大満足かもしれないです。