果南視点で、クロスオーバーっぽいSS。クロスオーバーする相手はラブライブではなくてセクシーダンスガイユビキタス大和ですが

ジャイアントホノカチャン』
「大変だよ果南ちゃん! この近くで、穂乃果ちゃんを思わせる人を見たって情報が!」
興奮しながら部室に飛び込んできた千歌は
「きっと、私たちが初めて投稿した曲の動画を見てくれたんだよ!」
「でもあれは善子ちゃんのミスでアップロードできてなかったそうだけど」
「えっ!? じゃあなんで来たの!? 私たちの何かを感じた!?」
「チカが手紙を出したりしたとか」
「そんなそんな、おそれおおい!」
意外なことを言う。
「思いつきで書き上げたファンレターは、後で見直して恥ずかしくて机にしまってあります!」
書くことは書いたんだ。
「それはともかく、これは穂乃果ちゃんを間近で見るチャンスだよ。ひょっとしたら話ができるかもしれないよ。それで誘われて、私、μ'sに加入してしまうかもしれないよ! そうしたら、同じ学校を一緒に守りたい仲間が9人いるんですって言って、みんなも入れてもらうよ!」
「マリーちゃんもチカにとってはメンバーになってるんだね。それから……まあいいや」
夢は大きいほうがいいよね!
「さっそく行ってみよう! さっきは校門の近くにいたって……」
これはまたチカが何かしでかさないか心配になるよ。ついていってあげなきゃ。
チカに何かあったら、私が守ってあげるからね。
校門まで行ってみると。
この学校の生徒たちが遠巻きに取り囲んでいる、まわりの集団よりも頭ひとつ分くらい大きな、いや、さらに大きな、言われてみれば穂乃果ちゃんを思わせる髪型と服装の、堀りの深い顔の濃い人が「オッソイナー。ウミチャン、マダカナー」とカタコトでつぶやいている。
「やっぱり、アイドルはオーラで大きく見えるね」
「うん、明らかに大きいね」
そして間違いなくあれは別人だね。チカを守ってあげないといけない気持ちが強くなるよ。
「アッ! キット、アノクルマダヨ!」
と、近づいてきた車を正面から受け止めてひっくり返して中の人を引きずり出すと「アッ、マチガエチャッター、ゴメンネー。デモ、オソイナー、コマッタナー」と困っているよう。
「ソコノカワイイコタチ! ミチヲキキタインダケド!」
「えっ私ですか! どうしよう果南ちゃん、声をかけられてる!」
そうだね、大変なことになったね。
リオデジャネイロニイクニハドノデンシャデスカ」
「うーん、このあたりは駅が近くにないから電車のことはわからないよ……」
たぶん駅が近くにあっても答えはわからないと思うよ。
「エエーッ! ココハヌマヅノチカクナノ! マチガエチャッター」
「間違えて来ちゃったみたいだよ、果南ちゃん。どうして穂乃果ちゃんが来てくれたのか、謎が解けたね」
「穂乃果ちゃん……なのかな……」
「あの、穂乃果ちゃん! 私たちもスクールアイドルを目指しているんです! 私たちの歌を見てもらえませんか!」
「イイヨー」
こっちの準備がいいかどうかわからないけど……
部室まで戻り、這いながらドアをきつそうに潜り抜ける怪物をチカが紹介する。
「穂乃果ちゃんだよ!」
それはどうかなあ。
ジャイアントホノカデース」
梨子ちゃんは一瞬考え込んだ様子の後、チカちゃんがいいならそれでいいかという感じの優しい笑顔になったよ。
ヨハネちゃんは「ぎゃあー何か本物が来た! ごめんなさい! 私本当は違うんです! あなたの仲間じゃないんです!」と、それはもちろん知ってたよ。じゃなくて、相手は悪魔じゃないと思う……自信はないけど。
はなちゃんが「むかし夢で見たのはこのことだったんだ……いつかこの日が来ると思っていたずら」と意味深なことを言う。真剣に両手を合わせて拝むけど、その反応でいいの?
「すごい筋肉ですね! 触ってもいいですか?」
「モチロンダヨ。ダンスヲスルトキ、キンニクハトテモダイジダヨー」
そして高飛び込みナショナルチーム級である曜ちゃんに「アナタハチョットキンニクガタリナイネー」と強烈なことを言う。人間じゃないレベルの筋肉がアイドルに必要なのか、アイドルに詳しくない私にはよくわからないよ。
ルビィちゃんはこれはもうトトロに近い幻想の生き物だと思ったみたいで、びっくりしたようにぺたぺたさわってダイヤちゃんに引っ張り戻されていた。
「私たちの曲を見てもらおうよ! ミュージックスタート!」
チカの宣言で、メンバーの一部が恐怖でぎこちない動きのダンスが始まる。
「イイヨー、トッテモカワイイヨー。デモモウチョット、コウシタライイッテトコロガアルヨー」
「アドバイスをもらえるんですか!」
「タトエバ、ウタノハジマリハオキャクサンヲアタマカラバリバリタベテヤルクライノツモリデチョウドイイヨー」
私たちは何を目指しているんだっけ?
「ソレカラ、アイドルニアコガレル、コドモノトキノジュンスイナキモチ、ワスレタライケナイヨー。ダレデモコドモノコロ、ヒトヨリデカイヘビニマルノミニサレソウニナッテ、アイドルノウタニユウキヲモラッテオオヘビヲタオシタアトカワヲハイダコトガアルデショ」
秋葉原って苛酷な町なんですね」
チカ、たぶんその人は秋葉原の人じゃないよ。
「デモ、アイドルヲメザソウトシテドリョクヲハジメタラ、ソノトキカラモウ、ダレモガカガヤクアイドルダヨ」
「本当ですか!」
「ワタシダッテ、イツモジョウズニオドレルワケジャナインダヨ。マイニチレンシュウシテ、ウマクデキナクテ、ナイテシマウコトバカリダヨ。ホントウハ、ジュンスイナキモチヲワスレナイアナタタチノホウガ、トッテモカガヤイテイルトオモウヨ」
「そんなこと……」
「デモ、ワタシガクジケソウニナッタトキ、タイセツナナカマガイル、ソウシンジテイルンダヨ。スクールアイドルニヒツヨウナコトハソレダケダヨ。キットコンナフウニワタシガヨワキニナッタトキ、ナカマタチガササエテクレルンダト……」
その時、どこからともなく歌が聞こえてくる。
ダッテ カノーセー カンジ ガ ンガー
カタコトのあまり日本語に聞こえなくなっていく歌が、おそらくLet' Go! に近い意味だと思われる咆哮になったとき、天井板を踏み抜いてジャンアントマキチャンがやってきて、筋肉の膨張で床板をぶち抜いたジャイアントエリチャンが立ち上がり、掃除用ロッカーの中にいたらしいジャイアントノゾミチャンがロッカーを粉々に弾き飛ばし、黒板をパタンと忍者屋敷みたいに回転させてジャイアントニコチャンがあらわれ、その黒板をこっぱみじんにしてジャイアントリンチャンがあらわれ、Tシャツの胸にジャイアントパナヨと書いていあるジャイナントハナヨチャンが黒板のかけらを踏み砕いて、窓ガラスを破ってというか飛んで近づいてきた衝撃波だけで窓ガラスを破壊した勢いでそのまま窓側の壁ごと粉砕したジャイアントコトリチャンのおかげで開けた視界の向こう、大きな青い海を真っ二つに裂く勢いで近づいてくるジャイアントウミチャンの「ホノカ!」という叫びがとどろく波頭にも負けずに響き渡り、もうμ'sとは関係ないただのジャイアンツが集結して、素敵なダンスで校舎の破壊を始めたよ。
やがて更地になった校舎跡に立つ私たちは、どこへともなく走り去ったジャイアンツを見送って、
「さすがに本物のスクールアイドルのダンスは、迫力が違うね」
「迫力だけじゃなくて他にもいろいろ違うところがあったかもしれないね」
そしてこの事態になってもなお、チカちゃんがうれしそうで自分もうれしいみたいな柔らかな笑顔を見せてくれる梨子ちゃんは実はすごい人なのかもしれない。
いったい何が起こったのかまったくわかっていないようにきょとんとしたルビィちゃんが、ダイヤちゃんにすがりつかれている横で
「やっぱりヨハネってついてないと思うの……」
あれは自然災害みたいなものだから、運ではもう、どうにもならない気がするね。
ジャイアンツたちの去っていった方向に手を合わせるはなちゃんと、敬礼をする曜ちゃんでどっちが正しい対応なのか私にもよくわからないよ。