果南SS

今アニメPVで近くにあったのがミュースタだったから見ました。これを練習して踊れるようになるまでを考えるともう本当に大変そう。小学生でテレビを見て踊れる花陽のクラスの子と凛すごいな! 小学生だから、それっぽく踊れるだけかな。女の子すごい……小学生のほうが意外とこういうのあっというまに覚える? みたいなことを考えてはいました。SSとはあまり関係ないかもしれません。
またナチュラルに梨子ちゃんのことを忘れていました……少し付け足しましたが、フォローになっているかどうか……すみません。

『ストライクスカイ』
教えてもらって、曲に合わせて。
そうしたらもう、全身で奏でる音が聞こえ出す。
べちゃっ!
そう、べちゃって。
千歌! 大丈夫?
だけど、その時にはもう駆けつけてくれる友達が千歌のすぐそばにいて。
梨子ちゃんがいて、私の立場はこれからもうなくなるのかな? なんて考えていたら。
「ああっ、ルビィちゃんが!」
つぶれているのはもう一人いた。
ダンスを少し教わったくらいで、そう簡単にできるようにならない、普通の子。
「えへへ、また転んじゃった」
照れたふりで笑ってみせる顔が、素直な感情じゃないのはわかる。
だって心からの笑顔なら、今日もぎらぎらのお日様の下でそんなに陰を作ったりしない。
「私やっぱり、そんなにアイドルに向いていないのかなあ」
冗談めかしてそうつぶやいてしまうと。
もう、うっかりこぼれる涙を止められなくなってしまうのが。
「大丈夫だよ、ルビィちゃん!」
ほんの数日前までの、見慣れた幼なじみの顔だったような気がするけど。
今日は少し頼もしいみたい。
新しい友達が見守っていてくれるから、いつもより元気なのかもね。
やさしく微笑んでいる梨子ちゃんは、そんなに元気をあげるっていう雰囲気じゃない穏やかな子なのに、不思議だね。
それに、後輩が増えたら、やっぱり自覚が出るのかな?
それともリーダーとして、気を張っているだけかな。
またすぐにつぶれてしまわないといいけど。
「少しくらいアイドルに向いていなくたって──」
妹みたいに小さな子を励ます言葉を持っていたなんて。
もうずっと幼い頃から付き合ってきて、初めて見る珍しい顔。
ついこないだ、この幼い顔はずっと変わらないままだなって思ったばかりだったのに。
「だってこのグループは、リーダーの私だってアイドルに向いていないもの!」
それは励ましなの? むしろ絶望的な状況じゃないの?
「最初からアイドルに向いている人なんて、普通はいないよ。たぶん今のこのメンバーにだって誰もいないけど、みんな憧れて始めたのは同じだよ」
私は、憧れてじゃないけど。
まあそんな細かいことは今はいいよね。
千歌が「そうだよね?」って顔で助けを求めるような目をしてこっちを見てくるので。
そこは、穏やかで優しそうな梨子ちゃんではまだ支えてあげられないところかなって思いながら。
「そうだね」
ひとことでひまわりみたいに明るくなるわかりやすい笑顔。
「そうだよ! もともとアイドルに向いている子なんて、普通あんまりいないよ!」
「そう、最初からかわいい生まれで、そのせいで神にも憎まれて仕方がない、このヨハネちゃんくらいよね」
「……あんまりいないよ!」
「いや、だから」
そもそもアイドルに向いている典型的な子ってどういう感じだろう?
美人だとか、かわいいと表現するよりは、なんとなく説明が難しい、輝くカリスマみたいなものがあって。
弱気になんてならないで、いつも言い訳で自分をごまかすようなこともしない。
目を背けたりすることなく周りをきちんと見ることができて、でも、本当はしっかりした自分を持っていて、いざというとき、大事なことは譲らないしっかりした芯の強さもあって……
「なぜか複雑そうな視線を感じるのですけど」
「それは、視線に複雑な感情がこもっているからじゃないかなあ」
「だからなぜ複雑な感情になる理由があるのかと聞いているのです」
「うーん、たぶん私が、ダイヤちゃんがアイドルに向いていないと思っているからじゃないかな」
「どういう意味ですか! いきなり何の脈絡もなく失礼な!」
アイドルが似合いそうな性格なのに、なんでだろうね?
そうしていると、少しぼんやりしているような幼なじみの顔は。
海のかなたの遠い島で育つと聞いた入道雲を見つめて、知らない遠い南の国を想像していたときのようなその横顔。
そんな知らない国が、ひとつ県境を越えた、かつて自分も通り過ぎたことがあるほど近くにあったんだと、星屑が舞うステージを見つけたときと同じように、この人だったらって輝いていた相手を見ていたのは、ついさっきのこと。
何度しつこく声をかけても、のらりくらりと逃げられてしまうけど。
「いつか、マリーちゃんも仲間になってくれるといいね」
「うん」
たった一瞬だけ私の顔を見て、びっくりしたようにまたたいて。
自分の気持ちを、この人がわかってくれるのは当たり前なんだって思い出したみたいに。
私だって、いつでもわかるとは限らない。
でも、たまにはね。
ずーっと隣にいると、わかってしまうときもあるというだけ。
この子はわかりやすいほうだし。
というか、千歌くらい気持ちが顔に出て、わかりやすい子はそんなにいないと思うし。
隠し事も何もできない、全てが表に出てしまう。
きっと楽しそうにキラキラしているときには、みんなに力をあげることだってできるだろうけど。
それがアイドルに向いているかどうか、私はわからない。
もし、千歌が私の知らない力を持っているとしたら、これからのアイドル活動の展開は予想できないけど。
それとも、まだ持っていない何かを千歌が今から見つけるのだとしたら。
「ほら。ルビィちゃんに言ってあげたいことがあるんでしょう?」
「そう、そうだったよ! ルビィちゃん、えーと……あの……これから千歌はがんばる!」
えっ千歌が?
「だからルビィちゃんもきっと元気が出て、えーと、やるぞ! あれ、どっちを見てるの?」
「あ! 千歌ちゃんも、果南ちゃんも見て!」
嘘みたいにルビィちゃんが元気になった、というか、違う形で動揺が激しいというか、何か驚くことでもあった?
「花丸ちゃんが……」
「うん、花丸ちゃんが?」
「なんだかすごい!」
なんだかすごい花丸ちゃんを見てみると。
くねくね。
この踊りは……
「今練習したダンス──じゃないね」
ただ、まったく違うものでもないような気がする。
これはもしや……
花丸ちゃんが口ずさむのは。
「盆踊り?」
「だと思うの!」
お寺の娘としては、夏祭りを手伝う機会も多いだろう。
横で同じリズムに乗っている曜ちゃんのお父さんも、地元に信頼されて、お祭りの行事なんかで役員を引き受けているみたい。
地元の信頼……
「何ですか? また複雑そうに人の顔を見て」
「うん、いや、まあいいや」
古くから続いているというのに立場を奪われつつあるらしい最近の黒澤の家がちょっと心配になったなんてことを言うのもなんだし。
「何ですか、意味ありげな沈黙は! いったいどういうことですか!」
結局、言っても言わなくても怒るんだ。
それにしても、盆踊りでアイドルのダンス。
花丸ちゃんも曜ちゃんも、二人とも器用だね。
……慣れてるだけかな。
注目されているのに気がついて、にっこりして。
調子に乗って歌う声のボリュームを上げたら、うん、聞き覚えのあるお祭りの歌。
千歌と二人で小さい頃からよく踊ったから、たぶん私たちにとっても踊りのルーツ。
これだったんだ。
上手にアイドルらしいダンスができないわけだ。
「和のリズムは、アイドルのダンスに合わないって聞いたけど」
と、感動したように真剣に見つめる千歌とルビィちゃん、それに梨子ちゃん。
梨子ちゃんもリズムに乗るのはまだ苦手みたいだったし。
感銘を受けている三人には悪いけど。
この踊り、適当だね。
やっぱりこれは──
インダストリアルはわからないけど、たぶん誰よりも頼りになりそうな子。
「もっと、ちゃんとリズムを取れる子が引っ張ってくれるほうがいいのかもしれない」
「そうですわね。別に私がやりますと言ったわけではないのになんですかその顔は! まあ私がやりますと言うつもりでしたけど!」
じゃあ、この顔で合ってたんだ。
「練習しますから。今日すぐにできないなんてこと、関係ないと思います」
そうだね。
「千歌、今はいないマリーちゃんのことを考えるより、すぐ隣でがんばっている仲間たちを見ていてあげなきゃいけないね」
「うん!」
「リーダーとしてできること、いっぱいありそうだよ」
「うん! えっと……ヨハネちゃん!」
「え? 私なの?」
「そう! ヨハネちゃん、悪魔とかそういうのはちょっとどうかと思うんだ!」
「えっ今そこなの!? そんなに普段から気になってたの?」
そんなにだめかなあ……って、がくーんてなるヨハネちゃん。
「だって、悪魔は人をたぶらかす悪いものでしょう? だめだよ!」
よく知らないふう。それでも真剣になれるのは千歌の優しいところであって、たまに思い込みが激しいところというわけでは……あるけれど。まあいいや。
「ああ、そういうこと。まあそうね。悪いわね。変ってことじゃあないわよね。ていうか、私だってね。普段からこんなに神様に見捨てられたりしなかったら、考え直すことだってあったかもしれないわよ! 悪いのは絶対! 私じゃない! もーん! いつもいつも運が悪いのは、神様のいたずらなの! ちっとも私のせいなんかじゃない! もーん!」
盆踊りの歌に乗って、遠く叫びが消えていく。
「ただ私がかわいすぎるせいだもん……」
つぶやきは空まで届かないで消えていく。それってやっぱりヨハネのせいってこと?
目が痛くなりそうなくらいに青い、早くも夏の始まりを告げるような初夏の空は、大急ぎでもう暑くなりはじめて。
潮風が届くこの町に、南からの風が伝えている。
海も太陽も、もうすぐ輝くときが近づいて、千歌の元気はあふれはじめた。
なんだか、巻き込まれる子がいつもより多くなったのは予想外だったとして。
また時はめぐり、まぶしい季節がもうすぐやって来る気配を見せている。
今年の夏も、私たちの町はとても暑くなりそう。