『夜のしずく』
冷たい雨の音が
ぽつぽつとやまず降り注ぎ、
見渡す限り彼方まで世界を潤して
薄暗い透き通るような闇に染め、
夜が来るのも手助けするように
今日は、穏やかな天の光も羽を休める時が早く。
私たち家族は、小さな明かりの元に集う。
太陽の活動に比べたら
ほんの小さな、ストーブの控えめな設定温度。
もう春だからそんなにあげる必要もないという意見が多い。
そうだな……
あたためきった部屋できんきんのアイスを味わう
冬ならではの楽しみも
もう、来年までお預けなんだな。
せつないことだ。
世の無常を感じるな。
全ては移り行き
やがて消え去るのみ。
それが定め。
溶けて消える冬の雪が教える通り。
ちょっと席を外してこたつに残したアイスが
たまに部屋を夢中になってあさったあとほこりだらけの珍しい本を手に
ほくほくぽかぽか頬も暖かく感じる心地で帰ってくると
ああ……
あれは悲しいものだな。
飲んではみたんだが。
やはりなにか、期待していたのと違うもので。
これも、すべて形を持つものであれば仕方がないこと。
宇宙が始まり、いつか終わるまで変わらぬ定めの通り。
でもまあ
春が来たなら、それなりの楽しみもあるものな。
続く雨に
花はだいぶ散ってしまったが
窓を開けて、小さな妹たちが駆け回る景色に
ゆっくりと体が温まる飲み物を
いったい今の目的は味わうことなのか、包んだ手の中から暖を取ることなのか
自分でもわからなくなる時間。
肌寒い風を感じるのに
うららかな日差しは
もうすぐ、気持ちのいい風が吹く季節が近づいていることを知らせている。
耳元でささやく妖精のようなまぶしい、生まれたての春の光。
冷たい風に負けないつもりで踊っていた
あれは、いつのことだったかな?
こう寒い日が続くと
新生活だとかそういう面倒なことは置いといて
家でのんびりするのもいい時期なんだと
天が教えているような気もするな。
まあ点の活動にどのような意図を読み取るのかも私たちの自由なんだが。
海晴姉は、家にこもっているしかないこの天気を利用して
片付けするのがおすすめ、とのこと。
そうなのだろうか……
おすすめされてもな……
やはりこういうのは
その気になる時期、というものがあるのではないかな。
年度の移り変わる春休みはちょうど良かったな。
オマエも貴重な男手として
みんなの手伝いで駆り出されていたようだし。
どれだけ働いて汗まみれになっても
まったく疲れを感じないような顔をして、手を引かれてあっちへこっちへ忙しそうに。
やはりこの天気は
今くらいの時期、休むのも良いだろうということではないのかな。
あれはいい連休の日々だった。
またのどかな時間が、すぐにやって来ないかな。
春休みの難点と言ったら
いつもは学校にいる子たちが有り余る元気を誰彼かまわずぶつけてくるのは
だいたいオマエが喜んで引き受けてくれるから
私はそれを眺めているだけで
面白いような、ちょっと寂しいような……
やはり、私もたまにはぶつけてもよかったかな。
両手を広げて
大声で呼びかけながら
愛している、
いつもオマエを一番に思っている、
大好きなんだと
全速力で加速をかけて、全体重を乗せて
押し倒してしまうのは
うーん、
春休みの感じとは違うかな?
いつ、私にそのようなときが訪れるのかは知らないが。
きっといつか来るんだろう。
そうしたい、という気持ちが
やがて大きくなりすぎて、自分ひとりでは抱えきれなくなる頃。
そう、私もこの宇宙では取るに足らない小さいかすかな塵でしかないのだから
とても両手に収まりきらない気持ちを抱えることくらい
いつかは必ずあるのだ、
と思う。
他の何物も目に入らないみたいに駆けて行って
逃げられないように捕まえて、降伏するまで折り敷いてしまうまで
あとどれくらいなのか──
今日が雨でよかったな。
少なくとも、今すぐに衝動が爆発する可能性は少ない。
どれほど泥まみれになって帰ってこれるか競うような家族たちに混じって
どうなってしまってもかまわないと思いつめるまでには
今日はまだ、
あわただしかった変わり目のときを過ぎて
こたつでのんびり、あったかくしていたらいいのではないのかな、と
言い訳してごまかせるような気がするから
おそらくは、まだ先の話。
いつになるか分からないが
たぶん楽しい瞬間になると期待している楽しみ。
ゴールデンウィークくらいには
衝動を抑える理由が、何も見当たらないだろうか?
それとも、もっと早く
暖かくなってくるのなら
もしかしたら──
私はこのこたつから出ていいのかどうか
自分でもまだわからない。
いつになったらしまうのか、
家族会議で話題になるときに
早く私を衝動から解放したいというのなら
オマエのとるべき道はすでに決まっていると
言えるような
そうでもないような──
まあ、今日のところは誰もがゆっくりしていていいはず。
こんな冴えない天気を利用して
静かに考えるとしよう。
この雨が早くやんでほしいという気持ちは
私の中にも、探せば少しくらいははしゃいで跳ね飛んでいるのが
見つかるかもしれないな。