氷柱

『ステップアップ』
やさしくする
とか。
相手のことを考えて
とか。
そんな立派なお題目は
とうてい、強情でめんどくさい私の性格とは縁がないって
みんなも知ってる。
私も知ってる。
誰だって疑いもしない
わかりきった前提。
なので
テレビのチャンネル争いをしていても
判断は私にゆだねられる。
旅番組と
フィギュアスケート
両さん恋物語
どれがいちばん
私たちの食卓にふさわしいのか!
……
テレビばっかり見てると馬鹿になるわよ。
考えるまでもなく下品な番組ばっかり。
テレビ欄を見て検討するだけで
世の中は──
まともに頭を使う気がない人が大部分だって気がするわ。
裁定を預かった審判の使者としては
ニュース──
で、いいんじゃないの。
いや、このごろ物騒な話題が多いかな。
そもそも、テレビのニュースなんて
情報を得る目的ではどうも踏み込みが足りない気がするわね。
もう少し踏み込んだ内容なら
新聞、
ネット、
情報誌、
科学雑誌
いろいろね。
うーん、ただどれも……
結局は
話のタネにすぎない程度で
自分の身に付くというのはどうも違う。
吹雪ちゃんは百科事典を眺めるのが楽しくて
雑多な情報を集めているけど
それよりもできれば
大きな目的を2、3ほど提示して
意識して道をたどって行くことで
短期的にも長期的にも自分の身に付いたものを実感しやすい、
という考えはあるから。
そのへんちゃんと考えて
立派な大人になろうとすれば
得るものはある。
日々を漫然と生きるのでは
ふらふらだらしなく
根っこがしっかり張っていない草みたいに
風に吹かれたら飛んでいく
軽薄な下僕みたいになってしまう!
反面教師にするのでなければ
せっかく住み着いた下僕も立つ瀬がないわ。
誰にでもあいまいな笑顔ばっかり浮かべてふわふわしていないで
しっかりね!
こうなったらいけない見本が
いつでも目の前にあるのは
ある意味で教育的なような
やっぱりそれはだめなんじゃないかって気もしてくるような
だめ人間がのっそりもぞもぞ
春眠に堕する姉や妹に引きずられ
断れなくなる様子は
これはやはり
どうしてもやはり
やはり──
しつけが必要だわ!
まあテレビの話はいいのよ。
そんなの見るよりもっとちゃんと
することがあるわけでしょ。
晩ごはんの後でも遊びたくて仕方がないような
イソギンチャクみたいに群れになってくっつきあうような
まあ
こういうふれあいで子供は社会を学んでいくの。
下僕もその辺考えて
小さい子相手は教育的な影響も考えてしっかりね。
ともかくね。
毎日毎日、姉の判断を仰ぐ事件はいっぱい起こるわけで
けんかして誰が悪いとか
話を聞いてみたら誰も悪くないとか
ときには、どちらももっとしっかりしなさいとか
まあそんなことばっかり言ってもどうしようもないわけだから
げんこつして
おやつをあげて
添い寝してあげて
毎日そんなふう。
春休みは特に
ひっきりなしに
大声が響き渡るものだから
急いであちこち駆けまわって
有能なご主人様はへとへとよ。
問題は
下僕がこの優秀な主人に尽くす態度が
春休みになって以来
どうも小さい子の世話で足りなくなりがちなので
自分を見直しなさい、
こんなあなたでも見捨てないで期待をしている人が
家族にだって一人くらいはいるかもしれないんだから、
と、いうことと
それから、動物園行きの予定がある4月2日は
どうも週間天気予報では曇りがちで
降水確率もおそらく降らないだろうという微妙なライン。
これは晴れているうちに、予定を早めてもいいんじゃない?
そう言われても準備とかいろいろあるわけだし、
ねえ。
みたいなことを相談されて
明日には私が真面目な回答をみんなの前で披露することになっているの。
気が付いたら霙姉様の前でそういう約束をさせられていた……
じゃなくて、私の中の責任感がどうしても
この議論を見逃せないと主張していたの。
たぶん。
霙姉様の思い通りになったなんてそんなこと。
まあとにかく。
こういうのは人に話すことで
自分の中で考えがまとまったりもするものだから
私はそんなに
予定通りでいいんじゃないかな、
ちびっこたちのお料理レッスンも着々と進んで
これからいよいよ目玉焼きからのステップアップ!
を目指している様子だし
時間の猶予があったほうがいいかもね。
あと一週間で終わりの春休みなんて
本当に短い気がする。
私の本心を言えば、こんな短いお休みくらい家でゆっくりしたらいいじゃない、
疲れて眠ってしまうくらい遊んだら
それなりに大人たちでまったりできるのにね、
と思ったけど。
あなたなら真剣に小さい子の相手をして
一緒になって眠ってしまうのかもね。
そう思うと
なんだかこっちまで気が抜けて
まじめに考えるのがばかばかしくなってしまいそう。
これは決して、いい傾向ではない気がするわ。
下僕が日ごろの態度を反省するまで
昼寝しすぎて睡眠充分の頭に
たっぷり言い聞かせるいい機会かもしれないわ。
見ていたんだから。
言い訳はできないわ。
あなたが無駄な惰眠をむさぼる時間を割いて
もう少し付き合ってもらわなくちゃいけないと
私の中で渦を巻く知性が
どうしても、ってたった今決めたの。