『スナイパー』
きらきらした目が
狙っている。
もうあんまり
のんびりしてはいられないの。
自己主張が強い女の子は
はしたないとか
一人の意見ばかり続けていて
嫌われそうだとか
怖がっていてもどうにもならない。
まず最初は
心の中で揺れるかすかな声に
耳をすます。
素直になるの。
大事な意見
見つけなきゃ。
まずは
一番の味方になって
守ってあげなくちゃ。
とくとく言ってる胸の奥で
揺れる炎は
今、何色をしている?
風が吹いたとき
消されないように
守ってあげてる?
無理だとあきらめないで
決め付けないところからはじめたら
もしかして。
ダメなものは
やっぱりダメだったけど。
でも、無理そうな意見は全部かなわないのか、
というわけでもない
マリーちゃんが続けてきた情熱的で
地道な活動が
やがてみんなの心を動かしていたよう。
こういうこともたまにはあるのね。
近くにも動物園があるから
いいじゃない。
春休みの混みようで
小さい子が多いのに大変に決まってる。
たまたま通りがかった私のほうも
聞き飽きたくらいなのに。
じっと見つめて
狙いすまして
ハートをつらぬくタイミングを
粘り強く、探っていたの。
あきらめないって
大事なこと。
動物図鑑は破壊力抜群。
女の子の胸は
どうにも、打ち抜かれずにはいられないらしい。
本当に
そういうものなのかしら?
私がいいと思っているものだって
誰かにわかってもらえるはずじゃあないかって……
いいけど。
とりあえず、確かなことはひとつ。
着々と同志を増やしたマリーちゃんが
燃える魂で
ついに、春休みのおでかけの行き先を
全員一致の決着でつかまえたということ。
まあ、最後には
そこまで言うなら仕方ない、くらいにあきらめていた人も多かったような
そんな様子もあったかもしれないけど。
反対意見に根気強く一つ一つぶつかっていって
この一年間
同じ幼稚園の妹二人を
よく面倒見てあげていたのも評価してもらえたから。
人が多い時期、
大変な旅路になるとはわかっているけれど
ついにみんなが決断した行き先は
動物たちの楽園
上野動物園。
パンダのいる天国。
私たち家族から見たら
あのふわふわしたかわいい生き物が
まるで天使ということになるらしい。
ふうん……
大変な人ごみを我慢してまで見に行くものなのかしらね。
私はそこまで興味がないから
たぶん、興奮した小さい子たちが迷子にならないように
気をつけて見張っている役目を任されると思うの。
同じ仕事を覚悟して
結局、自分は疲れに行くようなものだろうと
覚悟している海晴姉様は
春休みの早いうちにしておきたいことを済ませておこうと
やっぱり狙いを定めて
いまのうちに存分に
お昼寝の時間、
おうちの愛らしい家族たちにお付き合いしてもらっておこう!
というわけで
いそいそと、みんなに仲間に入れてもらえそうなかわいい毛布を選んでいる。
幼稚園くらいの子と
中学生くらいの子と
高校生くらいの子と
大学生のお姉ちゃんと
四人くらいまでなら一緒に包まってもいい大きさで
かわいいのはどれだろう、って。
女の子らしい趣味でも、男の子っぽい感覚でも
包まれたら幸せいっぱいの
夢を詰めた一枚の毛布になる予定の
候補がどっさり
山になっている。
あさひが喜んでごちゃごちゃにしているわ。
のぼっているつもりなのかもね。
あさひの希望は登山だったのかしら?
富士山なら夏がシーズンね。
それも大変そうだけど……
まだ先の話。
まったく海晴姉様ったら、どんなお昼寝のビジョンを思い描いているんだろう?
これから先の春休み、うんざりするほど混雑したところに行くんだから
家にいる時間までそんな思いをしなくてもいいのに。
それから、
私にもすすめるの。
早いうちに、希望があったらためらわないで狙っていかなきゃ
後になって
春休みは短すぎた!
なんて言わないように。
そんなこと最初からわかってるもの、
計画的に狙いつつ。
その瞬間を目指して行こうよ。
楽しい思い出は、いくらあったって困らない。
だから今できることを
全力で。
そうしたらいいって
私にも。
いいわよ。
春休みくらい、のんびり過ごしたいっていうのも
ちゃんとしたひとつの希望でしょう?
なかなかそううまく
一人になれない家族の数だけど
でもまあ、しばらくは。
いい子にしていないと
おでかけがなくなってしまうかも?
が、切り札に使えるかもね。
ううん、使うつもりはないけど。
あんなにはしゃいでいるのに水を差すのも気が引けるし……
でもまあ。
しばらく落ち着いた気持ちでいさせてもらいたい願いも
ぎらぎらしながら求めなくたって
わかってもらえると思う。
これからきっと大変だから
今のうちに、って。
春休みは時刻表を開いて旅に出るの。
邪魔をしないでね。