夕凪

『おおかぜ』
強い風!
おそろしいあらし!
自然のちから。
どっひゃー!
ひゃー!
びゅびゅー!
ううっ
さ、さむーい!
さむいさむい
よー!
よー!
よー……
夕凪
こおっちゃうよー!
指先が、ひえひえ!
さわってみて!
びっくりしてみて!
お兄ちゃんのちっちゃな夕凪のこと
愛情を込めて
あっためてみて!
ほっか
ほかーん。
夕凪はお兄ちゃんに触ってもらうと
すーぐあったかくなる
ほかほかあわてんぼう。
お兄ちゃんも寒かった?
夕凪で
あったまってみる?
風の冷たい日。
放課後は、校庭も人が少ないから
やったー
ひとりじめ!
夕凪と
星花ちゃんだけのもの!
おともだち
みんなのもの!
って、手を引っ張って
さんねん・よねんチームがサッカーボールを追いかけまわして
鼻の先がきんきんになるまで
全然気にならなかったんだけど。
汗をかいた服をぱたぱたしたら
風が
ひえひえーっ!
あれ?
もしかして今日って
めっちゃ寒くない?
かなり……
これは相当……
というか
風、強くない!?
さっきからだんだん人数が減ってきているのは
雲の動きが速くて、曇りがちでもうすぐ暗くなりそうだからかなあ
と思っていたけど
これはどうも
ただもうひたすら
がたがた
ぶるぶる
寒いから、
理由はただひとつ
それだけらしい。
またひとり
校舎に飛び込んでいく!
上着を羽織って
おーい……
そろそろこのへんで
風邪ひくなよー
とぼとぼ。
いつもだったら
らんぼうな
おとこのこも!
おしゃれな
おんなのこも!
首をひっこめて逃げていく。
ちょっとやそっとの寒さではへこたれず
長い冬を乗り越えてきた仲間たちが、とうとう
おうちに向かって
手を振って、いそいそと帰っていく。
あったかい部屋を求めて、急ぎ足。
暖房、効いてるかな?
こたつにもぐろうかな?
お風呂を沸かすのは
まだちょっと早い時間かなあ──
ボールをちょろちょろ転がしながら、
のぼり棒に触って
ひえてるー!
はしゃぎながら、
思いをはせる。
だんだんみんなも
恋しくなってくるのは
おうち。
星花ちゃーん!
夕凪たちも帰ろう!
決めた、そうしよう!
とっぷり日は暮れた、
お兄ちゃんだって帰ってきてるよ!
おやつの前に
手を洗わなきゃ!
きっと、ほめてくれるよー!
氷柱お姉ちゃんみたいに
ほんの最近まで、おやつに一直線に飛びつく野生の生き物だと思っていたら
おいもを洗ってから食べるおさるくらいには進化したらしい、
なんてひどいこと
お兄ちゃんは言わないよ!
夕凪のかっこいいお兄ちゃんだもん。
夕凪がそのまま
えへへーってとろけるくらい
あったかーいおうちの中。
お兄ちゃんがいるから!
夕凪がとろーり
やわらかくとけてしまっても
お兄ちゃんのせいだから、しかたないことだけど
でも、おやつがチョコだったら大変だー!
とけちゃう!
とけて、どこにでもくっついて
そこらじゅうに残るチョコのにおいで
いつでもおなかがすいちゃう!
そうなる前に、急がなきゃ!
だから、はやくかーえろ。
今日は帰ってから
お兄ちゃんがいつも寒くないように
てのひらサイズに変身したほかほか夕凪をポケットに入れて
どこにでも持っていけるマホウ
完成するまで
お兄ちゃんに協力してもらうんだー。
放課後、ずっと教室にいた小雨お姉ちゃんが
サッカーが終わったのを見て
帰ろうか、って出てきたから
冷たーい手をつないでびっくり
星花ちゃんと夕凪ちゃんがこんなに寒くなっていたなんて思うと
小雨はおどろいて心臓が止まってしまう!
おおげさな!
星花ちゃんと笑っちゃった。
だいじょーぶ!
帰ったら、あったかいお部屋が待っている。
夕凪のマホウを育てる家。
けんきゅうしつです!
みたいなもの。
お兄ちゃんがいる家だから
どんなマホウもすぐできて
明日は、お兄ちゃんのポケットでいつでも夕凪が
くすくす笑っている。
一日中ぽっかぽかでいられること
まちがいなしです!