『ふたりきり』
気がつくと
次第に──
全てを染めて眠りにいざなう闇が
降りてくるまで時間がかかるようになっているから。
今日のおつかい当番は
ただふたり。
ゆっくり帰ってきても大丈夫なので
学校帰りに時間が空いている子がいたら
立候補してください、
と。
灰色に曇る景色を窓の外に見ながら
朝食の時に話し合いになったから
こんな天気なのに大変難儀なことだ、
だからこの私が、
きっと疲れて帰ってくる弟や妹たちをいたわって
かわいがってあげる方法を何か
今のうちから何か考えておいたほうがいいのではないか?
うん。
おつかいをして帰ってきた感心な子の前に
いつも家族のことを考えて、待っていた人の迎えがあるというのは
これはなかなかすてきな思い付きではないだろうか。
美しい情景に見えるのではないか。
まるで、いつか運命の通りに宇宙が終わってしまうとき、
走馬灯のように思い出す長い長い気の遠くなるような時間の中に
一瞬わずかだけでも、
私たちの家族が不意に止められずに
こみ上げるままに任せたうれしそうな声の
ただいま、
その一言が消えゆく世界のかすんでいく視界の隅に
そっとかすめることがあってもいいのでは、
と思ったのだ。
早めに帰って
あったかいホットケーキでも焼いておこう、
おつかいを済ませた子には山盛りだな。
そんな手以南に
蛍も賛成してくれた。
じゃあ、おやつの支度に帰ったら
小豆トッピングのホットケーキを準備しておきます!
と、力強く。
あれ……
なんだか、私は誰よりも時間の余裕があるということになって
だから、真っ先におつかいを任命されるべきとして
もう決定した事項として淡々と処理が済まされ、
まず一人目は良し、と喜んでいるらしい蛍のうれしそうな息遣いが
小刻みな鼻歌も混じってくる事態。
これはいったい?
結局、男手も必要だろうと二人での買出し。
うーん、
私はデートをするなら
もう少しゆっくりできるところが好きなんだ。
雨の日だから、回るところは少なく済まそうとか
そういう現実的な話し合いは
まだ若木なまま、未熟で青い二人の密会を彩るには
なんだかどうも
お互いだけにおぼれる二人とはならないな。
いいけど。
それはまた、別の機会にしておこう。
待ち合わせた帰り道、二つ並べた傘の距離を保って歩いたあと
乗り込んだ電車の
ロングシートには、空きが一人分。
オマエがそれを私に勧めたのは
レディファーストだとか
年長者への尊敬もあるのだろうけれど
でも私は
せっかくだから
混みはじめた夕方の電車で
仕方なく周りと距離をとるようなふりをして
二人だけは
近づいていく。
そんなふうに立ったままでいるのもいいと思ったから。
わからないやつだな、
と責めたのは
何も、嫌いだからなんてことはないというくらい
オマエだってもうわかっているはずだけど。
あまり理解していないみたいに、自分で席を取って私を呼ぶものだから。
もう少し、教えてやるべきことが多い
小さくて無邪気で
たぶんこれから、まわりの大人にかわいがられて育っていく
伸び盛りの弟なのだなと
また今日、改めて気がついた。
電車の中で伝え切れなかった私の考えが
本当は、どういうものであったのか
今夜、隙を見て二人だけになったときを狙って
話をしてやったら。
オマエは驚くだろうか。
うすうすは感じているのかな?
二人で果たした仕事にかこつけて
反省会でも何でもいいから
不自然に思われない名目で、私の部屋へやって来たら
たぶんオマエは、この私から
今日も多くを学び、知恵を得ることになるだろう。
愛するものが、伸ばした根から水を吸収するように
健やかにいる毎日を
すぐ間近で見られる喜びは、わずかに早く生まれた姉の特権として
これから先、いつまでも堪能させてもらうつもりだ。