吹雪

『行ったり来たり』
数日の間、暖かい日が続いて
春の兆しが
私たちの住む、全国的に見れば小さな町にも
足音を聞かせつつあるのではないか、
そう考えていると。
重く厚く層を成すねずみ色の雲が
日差しをさえぎると
地上の生き物たちは、震えることしかできないようで。
今日は──
まだ変わりきらないまま
見慣れた冬服は
落ち葉の季節からずっと
家族を守り続けている。
それでも平均的には
暖かな日に近づきつつある時期。
もうしばらく、冬の寒さが続いて
手を擦って息を吐きかけている姉を見つけて
それなのに
私の肩に重ねられる上着
どうも、
いちばん寒そうな格好だからというので
キミが。
私よりも、もっと震えている人がいるのだから
もう少し良く
まわりを観察していたらいいのに。
現在持ち合わせる知識をもとにすると
どうも心配になってしまうのは
薄着の私。
らしい。
どうやらもっと、家族の寒がりたちや
私の体のことをよく知ってもらう必要があるようです。
明日は土曜日なので
買い物に出かける予定を立てている姉妹は
指先にひとつ穴が開いた手袋を見つめて
買い換える?
そろそろ、いらない?
暖かくなるまで
どのくらいだろう?
真剣に話し合っている。
新聞の天気図を広げて
海晴姉のところへ持って行って、
これからしばらくの天気を教えてもらっている。
でも天気予報を試みる
全てのものに立ちはだかるのはカオス理論であって。
扱う情報量があまりにも膨大で
地球の裏側で羽ばたいた蝶の影響が
どれほどのものなのか
それさえわからない。
しかめっつらを寄せ合わせて
天気図に目を凝らして
頬をくっつけあっている。
何か、
もともとそういう生活環境を持つ生き物のように
自然に、
くっついてひとつに丸くなって
寒い季節を過ごす知恵?
それともあれは
本来、衣服によって体温調節を行う人間にとっては
イレギュラーな状態であるのか。
二人三脚みたいに歩幅をあわせて
次々に集まって丸くなっていたら
もはや、狩猟も農耕も困難であるために
ある程度余剰の生産量を頼りにして発展する
高度な文明はなかったはずだし
いや、それとも
これが一時的な生産力の余裕がもたらす
発達し、変化する文化の形態であると言えるのか。
この状態が恒久的なものでないことの証拠に。
まもなく、その場にキミがあらわれたら
まとまっていた子供たちは生態を変えて分散し
新たな環境に適応する挑戦をはじめて。
また、宇宙全体としてみればエネルギー消費が拡散して
局地的には平均的に減少の方向に向かう物理法則に従い
安価に手袋の穴をふさぐための試みとして
蛍姉の裁縫教室が開かれることが決定したために
まだ寒い日が続くのかどうかわからない季節、
服の買い物はいったん延期。
ということになったのは自然の成り行きで
たぶん、顔を赤くして
お裁縫のお勉強が好きで
いいお嫁さんになれるんだと
お兄ちゃんにいいところを見せてあげたい
女の子たちが、ここにいっぱいいる!
だったら蛍ははりきっちゃう!
と、強烈なエネルギーを消費しているようだった蛍姉の呼びかけと
それに応える大騒ぎが
とても宇宙の自然法則に則っているように見えないのは
疑問だったのだけど。
まあエントロピーの法則というのは、
非常に広い観察範囲を長い目で見た場合に適応されることなのだから
世界の一部で極端に大きなエネルギーの動きがある可能性も
また、現代的な理論によって予測できる。
明日の家の中を観察することは
今まで知られていた宇宙の法則に何か一石を投じる発見があるのではないか、
あるいはないとしても
想定外の結果の積み重ねもまた
科学の柱石なのではないか。
明日は私は、一日家にいると思います。
あまり気温が上がらない予報の日で
もし、寒そうにしている姿に見えるようなら
とりあえず、一言声をかけてもらえれば
私のその時の状況を、考えている最中の不確かな内容も含めて
詳しく説明できるはずなので
よろしくお願いします。