『次の日の朝』
楽しんだ雛祭りが終わったから
今日は後片付け。
マリーが主張するには
おうちの女の子はいい子ばっかりなんだから
お雛様をしまうのが遅れても、お嫁に行き遅れるなんてことはない!
だそうだけど。
まあ、いつまでも出しっぱなしにしておくものじゃない。
ちょっと場所をとるし。
いつ暴れんぼうがうっかりぶつかっていってしまうか
油断できたものじゃないというのもあるし。
そういうわけで、早めに箱に片付け開始。
朝からというのは
学校の支度もある忙しい時間だけど
そこは、予定して昨日から先に学校の準備をしておいた春風が
お嫁にもらってもらうなら
早いほうがいいからと。
片付けるのが早いと、お嫁に行くのが早いものなんだっけ?
そういういわれはあっただろうか?
とにかく、春風の指導で協力して
てきぱき。
昨日はいたずらをして桃の花をつっついていた春風の細い指が
ずいぶん力強く、お雛様を箱に入れて
ひもでまとめて押入れのほうへ。
また来年。
それまでお雛様がくれた女の子パワーで
たくましく、元気に。
みんながすぐにお嫁に行けるように張り切って行きます、
という春風。
なんだか昨日より
気合が入ったみたい。
何かあった?
だってほら。
着物が一番似合うのが誰か
我が家でただ一人の男の人の意見を
なんとなくタイミングが合わなくて
私は聞いていないから。
やっぱり春風だったのかな。
急に春を迎えたような?
明るくなって
女の子らしく片付けも上手になって
かわいいのは知ってるけど、ゆっくりつぼみがひらくように
たぶん、昨日までよりもきれいに変わっている
雛祭りの力。
そういうものが
一番女の子らしい春風に押し寄せて
さなぎが
蝶に。
ほっぺたが
桃色に。
鍛え上げた筋肉が
走り出して──
女の子らしさの筋肉?
それで、オマエが
春風のことを
何か。
変わってしまうようなことを言ったのかもしれない。
すっかりもう元に戻れなくなるような。
そういうことがあっても
おかしくなかったような
薄もやの、ぼんやりあたたかになりはじめる季節。
昨日のお祭りの熱がまだ少し残っていて
はしゃいでいるようにも見えるし
もう少し時間が経ったら
自分が変わりはじめる瞬間を
好きな人が見ていてくれたという理由で
もう、心の底でもらわれていく準備をすませた
今までとは別の新しい春風なのかもしれないし。
お雛様って
霊験あらたか?
こんなにも。
でも、それでも私には効き目がなくて
どうも、家の仕事に役立てるのも
蛍が多く作りすぎてだいぶ残ったメニューを
オマエと二人で並んで競うように
詰め込むことだけかもしれないけど。
朝から食べ過ぎて動けなくなって
遅刻するってせかされるのは
あまり役に立ってるとは言わないかな。
私のカバンもオマエのカバンも
今日は、春風が気を利かせて用意してくれた。
うれしそうに。
それなのに私たちときたら
帰ってきてから晩ごはんを楽しみに
同じメニューでも飽きずに喜んで、
雛祭りで一番うれしかったのは料理だったみたいな。
あーあ、
とうとうなくなっちゃったな!
ちらしずし。
普通は、あんなふうにあつあつチャーハンみたいに皿の上で大盛りお山になんか
しないはずの。
二人で分けて
なかよく、
いい子にして半分こ。
これならお互い不満もないって笑ったのに。
終わってしまうと
寂しいものだな。
雛祭り。
来年になったら
また、大盛りをお皿二つに並べているだろうか。
今年の雛祭りに
ばいばい、
おやすみ。
また明日からは
普通のご飯の大盛りを
蛍が用意してくれて
チビたちが笑う。
お兄ちゃんとヒカルお姉ちゃん、食べすぎって。
いつもの日常。
天気はしばらくの間、変わりやすいみたいだけど
だからって体調を崩したりしたら、
お雛様に叱られてしまうだろうから
気をつけないと。
少し体を動かしたくなったら
いつでも呼んで。
私はずっと
待ってるから。
またこれからも、昨日までと変わらないみたいにして
一緒に走りに行こう。