『なにいろの?』
明日は雛祭り。
日本全国、この日は一般的に
雛人形を並べたり
ちらしずしを用意したり
お雛様のコスプレをしたりして
女の子の成長を祝うお祭り。
我が家もかなり女の子が多いから
どうやら世間の風習に合わせて
キッチンはずいぶんカラフルな色に散らかり、
ああ、ちらしずしの準備なんだな──
今日はクライマックスのようね、
そんな感じ。
うつわも華やか。
どこにこんなにあったの?
クリスマスの時にも思ったけど
今度は和風で統一した食器が
向こうの箱と
手前の箱と
夕凪ちゃんが皿洗いのお手伝い中にうっかり腰掛けて
あっ、
こわれものだからあぶないわ。
声をかけたら
それは
たいへんだあー!
ばねがついていたように飛び上がった
どうも、ふたにからくりが仕掛けてある可能性もある箱。
冗談だけど。
ともかく、足元に注意する必要がある環境になったのは本当。
女の子たちがお雛様に変わる衣装も
右の壁にも、左の壁にも
派手な模様。
めがちかちか。
これでも、しまっておく場所がなくて
はみだした分だけ。
まあ
年に一度のことだし。
こういうお祝いは
縁起物ということで。
毎年毎年まったく必要以上にはしゃぎたがる行事になるのは
いったいどうしたものかしら、と思うけど
もうすぐ春が来ようとしている
今、この時期だけのことだもんね。
おうちの中にお外より早く春が来たみたい、って
色とりどりの模様の前でくるくる見て回る小さい子たちがいると
しかたないなあ。
この子たちのためのお祭りなんだから
喜んでくれるならいいか、
一日だけの辛抱だから。
そう思って。
面倒くさいけど
雛祭りはそういうものだから
着物の着付けも
がんばって手伝わなきゃ。
年に一日だけ。
普段はどうもあんまり、女の子らしい趣味の子じゃなくても
むりやり。
なんだかわけのわからない型にはめて
一応、見た目だけは
ピンク色の枝を飾るお祝いにふさわしく変わる。
女の子たちの健やかな成長を願う日に
私も手をつかまれて引きずられて
押さえ込まれて、強引に着付けをされて
目を回しているうちにいつのまにかお祝いをされている一人に
この日はどうも
数に入れられてしまっている。
まぜまぜ。
めまいがするほど常識はずれに並んだテーブルに
こっちの席が開いてるよ、
お皿に取り分けよう!
大勢いるから、こういう日は大皿のお料理が並ぶ習慣。
みんなでそろって
おめでとう、
ずーっと幸せでいられますように。
目がくらむ色とりどりの空間で
願う日は、たいていこんなふう。
ひとりひとり
ここにいる全員が
これからやがて
きれいで、やさしくて
いつも元気な──
大人になるまで。
遠いその日、また小さな愛しい人たちがいたら
たぶん今よりも
こんなに楽しい時間よりも
まぶしい笑顔で
せいいっぱい、祝ってあげられるようになるまで。
みんながそんな素敵な日を迎えられますように。
今は祈るだけしかできないから
せめて、できる限りの力で。
それが三月三日。
女の子のために用意する
桃の節句の一日。
でも、気の毒だけど
そんなお祝いの中で
たぶん肩身が狭いのは
お祭りに参加している、たった一人の男の人だと思うの。
別に──
あなたのことは、この日に限ってはお祝いはしないから。
だからちょっと
私も、いつもよりも気にして
疎外感を持つことがないように
ときどき見ていてあげようかと……
普段あまり縁がない雰囲気に
どことなく落ち着かなくて
むずむずする気持ちは
私も良くわかるから。
たぶん明日も
こんなに
派手じゃなくたっていいのに、って
そわそわしてしまうだろうから。
せめて普段どおりしている人に
声をかけたらいいんじゃないかな、
と思って。
だから、待っていて。
まちがっても、普段使わない頭を使いすぎて目を回している立夏ちゃんたちが言うように
お兄ちゃんもさみしくないように
つかまえて転がしてひっぺがして
お雛様に着せ替えさせよう!
なんていう誘いには
乗らないように!
くれぐれも
普段どおりにしていてくれたら、
と願う人が
いるかもしれない、ということ。
忘れないで。