小雨

『すすめ!』
麗ちゃんは
いつも、一人で泣いている。
ような気がする。
そしていつも一人で怒っている。
でもあんまり
一人でいるときに
笑ったりはしないので。
あれ、麗ちゃんは
一人でにこにこしていることが
たまにある……?
ともかく、麗ちゃんは
大勢の家族の一員なんだから
もっとみんなに相談して
頼ってもいいはずなの。
それはもちろん
小雨はまったく頼りにならないかもしれないけど
でも話を聞きたい。
一人で笑っていたら
小雨もびっくりしてしまうし!
そういう理由じゃないですね。
それは、すぐびっくりする小雨が問題だっていう話で。
うれしいことがあったら
大好きなみんなにわかってもらうって
とってもいいことだと思うし
悲しいことがあったら
しんきくさくていけない! と思っても
本当に本当につらい気持ちがしてしまう小雨は
どうしてもこぼれる涙が隠しきれなくて
後から考えたら、全然たいしたことじゃなかったはずなのに
どうして泣けてしまったんだろう?
慰めてくれたお兄ちゃんや
話を聞いてくれる麗ちゃんがいるから
小雨はいつも、笑顔に戻れます。
一年中
寒くて重ね着をする日も
むしむしする暑さに舌を出してへばってしまうときも
小雨には家族がいてくれるの。
麗ちゃんも
話を聞いてあげたい家族がいること
伝えたいのに
無力な小雨ですね。
三月には鉄道会社のダイヤ改正があるんだそうです。
それで、今年の三月には
とっても有名で歴史の長い列車がひとつ
引退して、なくなってしまうから
少し前に話題になって、切符の争奪戦もあったんだって
そんなお話。
あれ? 三月から臨時運行になって
八月に引退、
だったかな?
とにかく、今からはもう小学生に切符が取れるわけないし
子供が乗りに行けるわけがないんだし。
小雨に話してもらえたのはそこまで。
落ち込まないで、って
無理な話ですよね。
小雨のほうが暗くなって
慰められてしまったよう。
三月からは、北陸新幹線も開業。
今度の列車の引退後にも
北海道行きを考えるなら、この先を見据えて本格的に北海道新幹線も準備を進める頃。
これから始まる列車なら
きっと、すぐに早く大きくなって
乗りに行けるんだ、
って言ってた麗ちゃん。
小雨は何の言葉もかけてあげられなくて
ただ、つらいことがあった麗ちゃんにも
すぐに元気になってほしいだけなのに。
家族が集まるごはんのときくらいまでには。
麗ちゃんも、家族みんなのこと好きみたいだから
みんなが集まるとき、
さみしくてつらくてぺしゃんこになりそうだなんて
小雨だったら、自然に涙が出てきてしまうくらいなのに。
でも、
これは小雨が泣き虫だっていうだけの話かもしれないですね……
肝心なとき、
一番慰めてあげたい麗ちゃんが悲しそうにしていても
何も言えない小雨は
ただ、
お兄ちゃんなら何とかしてくれるかもしれない、
お兄ちゃんが毎日家族でいてくれて
小雨は元気でいられるんだから。
いくらなんでも、お兄ちゃんだって列車の廃止をやめさせるわけには行かないって
その時だけは、麗ちゃんも笑顔を見せてくれました。
まだちょっと悲しそうだったけど。
麗ちゃんは、早く大きくなって
好きな電車に乗りにいけるようになるんだ、って。
そんな麗ちゃんを見ていて、小雨が思ったことは。
きっと、麗ちゃんはあの速い速い電車に乗って
ずっと遠くにあるような
自分が大人になった時間へ
今すぐに、走って行きたいんだなと……
あれ、時間が逆転しているような?
なんだかおかしいですね?
でもその時は、小雨はなぜかそう思い込んでしまったんです。
麗ちゃんを励ましてあげたくて夢中だったから。
また、わけのわからない話で麗ちゃんを混乱させてしまったのかな。
あんまり急いで大人になろうとしなくたって
ゆっくりだったって。
小雨も、もっと早くしっかりした大人になりたいと
早足で駆けて、不注意ですぐ目の前の電柱にぶつかったり
もののたとえだけど
そんな毎日を過ごしてきたけど
ぶつけたおでこを押さえている小雨の横から
そっと手を差し出してくれたお兄ちゃんが
急がなくていいよ、
いつもそばにいる。
困ったときは必ず助けに来るからって
言ってくれる、
そんな毎日を過ごしているから。
小雨はもう、あんまり焦って
転んだりぶつかったりすることも少なくなったような気がするから
麗ちゃんも。
お兄ちゃんのことを頼りにしたら
家族なんだから
一生懸命助けてくれるよ、
それが当たり前だっていうみたいに。
だから小雨のことも、お兄ちゃんのことも
悲しいことがあったらもっと
麗ちゃんの気持ち、伝えてくれていいから
って。
小雨の話は、とりとめがなさすぎて
伝わったかどうかわからないけど
麗ちゃんが大切で
つらいことがたくさんあっても
いつも元気でいてほしい、っていう気持ちが
言葉でうまく表現できなくても
伝わっていたらいいなって
小雨は願っています。