綿雪

『おかえりなさい』
もうすぐ?
そろそろかな。
つんととがった時計の針が
ちくたく
ちくたく
はたらいて
もうまもなくですって教えてくれる。
長い針が上から下へ
また上へ回るまでなのか。
短い針のどっしりと重々しい
長い裾を引きずる女王様みたいな歩みが
もうすぐやがて
お昼になるとお知らせするまでには
もしかしたら。
せっかくお休みの日なんだもの。
氷柱お姉ちゃんが早くお部屋から出てきてくれたら。
何日かお熱で寝込んで
今はもう、少しやつれてしまっているかもしれない顔を
それでもようやく取り戻した元気で
いっぱいにして
見せてくれるまでは
あとどれくらい?
それとも
ユキが急かしすぎ?
これはたとえば
家族旅行に出かけるとき
早く早く、の玄関のほうからの声を遠くに聞きながら
ユキのとなりには
忘れ物がないかもくもくと落ち着いて確認する、
どんなときだって大人っぽい麗お姉ちゃん。
と、それに
ユキと一緒にカバンの中身をチェックしてくれる氷柱お姉ちゃん。
みんなに声をかけてばたばたお顔を赤くしていても
いつもユキがいてほしいときに。
何か必要なものはなかったっけ、
不安になったとき。
何も言わなくても、氷柱お姉ちゃんがすぐに飛んできて
準備しよう!
ユキもそろそろ一人でしっかり
できるようになったかな?
って。
そんなこと言われたら
ユキだって吹き出してしまう。
ちゃーんと
できてます!
見ていてね?
袖をつかんで、いつも忙しい氷柱お姉ちゃんがどこにもいかないようにお願いして。
カバンはかんぺき。
だってユキは落ち着いているほうだもの。
子供だけど、どちらかというとせいりせいとんは得意なほう。
急に飛び出したりしません。
氷柱お姉ちゃんもよく褒めてくれているのに
忘れちゃったの?
からかってしまう。
甘えているユキに
忘れてなんかいないよ、
ちゃんといつも見ています。
いい子のユキのことを
いつだって。
何をしていても
目を離さないで、すぐ近くにいるよ。
ユキ、
ほんとうは
あんまり落ち着いていないほうでしたね!
そわそわ。
氷柱お姉ちゃんが
まったくもう、って笑ってしまう
夕凪ちゃんに近いタイプ
なのでした。
気がつかなかった……
本人だって何も知らない
それが自分のことでした。
落ち着いたら
いいかしら?
できないかな?
土曜日に
ユキのためだけじゃないと知っていたってうれしい、
ただの休日だっていう理由だけど
でも必ず
家族が一緒にいてくれる日に。
うろうろ
どうしよう、
こうしていていいの?
ただ、ぼうっとする時間を過ごしているだけでも
自信をなくしている。
だって、氷柱お姉ちゃんがいないんだもの。
ここ何日もいてくれなかったの。
お病気だから仕方がないこと。
でもやっぱり
さみしい気持ちは
抑えても浮かんでくるみたいに
気持ちの水面にぷかぷか揺れる。
お兄ちゃんがいてくれて
吹雪ちゃんが励ましてくれても
ユキにはいつも
氷柱お姉ちゃんが
いるんだもの!
ずっといつも
子供のときから
やさしくて、明るくて
きれいなお姉ちゃんが
すぐ近くにいてくれたんだよ。
ユキ、
今度また氷柱お姉ちゃんが
みんなのところに帰ってきたら
走ってとびついて
だきついて
もう、
これからずっとユキがこうして
抱きついて
あったかくしてるから
風邪引かないよ!
もうずっと離れないでいるって決めたの。
どうしちゃったんだろう?
いつのまにこんなに
やんちゃになっちゃったんだって
あきれられる?
おしとやかじゃなくて、女の子らしくなくて怒られる?
氷柱お姉ちゃん、まだかな?
お病気の後のつらそうなお顔を見ると
ちょっと苦しい気持ちになりそうでも。
でも、すっかり元気になったって
春風お姉ちゃんが言ってたよ。
それで、
素直に伝えられるかどうかわからないけど
お兄ちゃんに聞いてほしいことがいっぱいあるみたいだって。
もうすぐだよ。
お兄ちゃんも
氷柱お姉ちゃんも
もう、どこにも行かないように
ユキが手をつないで、いつもあたためてあげて
これからはもう
何があっても、お病気なんかにならないでねって
お願いしながら
ずっと離さないでいるんです。