氷柱

『雪道』
今年も雪が何度も。
うんざりするほど。
このあたりはまだ積もった雪が残るほどじゃないから
まだマシなほうだけど。
雪の予報があると、
またなの?
あーあ、
また我が家のあわてんぼうたちが
町のどこかでバランスを崩して
おしりをじっとり濡らして帰ってくるわ。
怪我をしたら大変なのに。
いくら口をすっぱくして足元に気をつけるように、
雪が降るくらいで浮かれないようにって言っても
ちっとも聞かないで、
予報で言ってた時間を待って
もうすぐ降りそうな曇り空を見つめている。
それほど魅力的な色合いだとは思わないけど?
一面、灰色の雲。
いいものを見つけたのか知らないけど
それとも、探しているの?
じーっと一点に吸い寄せられるように
その目はまっすぐ、
光の切れ目が生まれる気配もない
どんよりどよどよ厚い雲へと。
すっかり足元がお留守。
絵に描いたような注意散漫。
心配している自分がばかばかしくなるほど。
転ぶでしょ!
しっかりしなさい!
耳元でさわいでも
軽い音のする頭をはたいても
ほんの一瞬反省したような照れ笑いを浮かべた
やんちゃな子たちはまた
いつのまにか探している。
いったい、本当に見つかるものなんだろうか。
そこまでして探している
冬のすてきな贈り物っていうのは。
ちらちら白い粒は
ひとひら落ちるとそれだけで
見慣れた景色をたちまち冬そのものに変えてしまう。
たとえしばらく暖かい日が続いても引き戻すみたいに
いじわるに。
冬になったら当たり前に降る雪。
やがて私たちが、ほころぶ桃の枝を飾る頃には
たぶんもう、気配は消えている。
風が強く吹くだけで頬がジンジン痛くなることもなくなるし
裏山の深い森の奥から降りてきた雪女の影を
小雨ちゃんが見つめてびっくりすることもない。
いえ、寝ぼけていたらまたあるかもしれないけど
その時には、彼方の木の陰にいるのは長い黒髪の雪女じゃなくて
何かこう……
春を告げる……
何?
桜の精?
とにかく、天気予報に踊らされる日々もあとわずか。
あと少しの辛抱ね。
もうすぐ、冬なんてたちまち過ぎ去って
よっぽどの雪でもなければすぐ忘れる記憶。
どこそこで転んだという恥ずかしい話だけが毎年の冬になるたび何度も繰り返されるばかり。
気をつけなさいって
海晴姉様は笑いながら
氷柱ちゃんも、こんなに真剣に自分より人の心配ができるようになって
月日が経つのはあっという間だ、
と。
このままお嫁に言ってしまうのもすぐのこと。
今のうちに
かわいかった氷柱ちゃんの全身を覚えておかなくては!
後ろから乗っかってくるし。
大きくなったね、だって。
私だって成長するのはこれからだけど。
まったく冬なんてろくなことがないわ。
寒いから暖めあうのも当たり前、みたいになる家の中を放っておくと
ぜんぜん無関係の人にも思わぬ影響があるらしい。
今日の雪はしだいに雨に変わって
やがて晴れ間ものぞくわけのわからないお天気。
あんな気まぐれな雲に振り回されて
雪が降るのはまだかなあ、
積もらないかなあって目を輝かせている妹たちを見ていたら
ちょっとは心を動かされる場面だってあると思うの。
雪が積もったら
どんな感触だろう? なんてみんな言う。
さらさらしてたら
さわりたい!
もう何度も触れて、感触も知ってるはずなのに。
変なの。
飽きないのね。
そろそろ冬の寒さも一番きつい峠を越した感じだし
今年はたぶん積もらないでしょ。
別に寒い思いをするより
家の中にいたほうがいいじゃないって
話しかけても。
もうすぐ雪が降り始める前の
息を白く染める街並みはよほど魅力的らしいから。
足元の道がまだましな日なたに誘うときや
暖かい部屋の中に連れ戻そうとしたら
別に、まだまだ寒いから暖めあうなんてつもりがなくても
仕方ない。
冬なんだし。
こっちを見なさいって
手を引いたり
寄りかかって、腕にしがみついてしまっても
たまにはそういうことがあっても仕方がないの。
なんとなく慣れてしまった
今の時期だけのことだから。