真璃

『もうすぐだけど』
材料のしたく
心の準備。
もう、すぐそこまで来ている。
冬の真っ只中に
どんな寒さも忘れたように
胸の奥から、熱い炎が巻き上がる日が!
明日、帰ってきたら
ついに心を込めたチョコ作りは佳境を迎える。
これまでの話し合いの様子を見ていたら
前日に作って済ませておく
きっちり用意周到な子もいれば
当日になるまでぎりぎりまでもがいて
最後の最後になって
もう、チョコ作りなんてお兄ちゃんのお嫁さんになるのに
そんなに重要じゃないもん!
もっと大事なこと知ってるもん、
お兄ちゃんのかわいい妹になるんだもん、
ちゃんとしたチョコが作れなくたって
気持ちは込めたもん!
と、いうところまで追い詰められて
やっと心を決めて
失敗した中からどうにか食べられそうなものを
こんなになってしまったけど
せいいっぱいの気持ちを乗せて
ちょっと涙目で。
みたいになりそうな子も
いそうな……
そんな様子。
夕凪ちゃんとか。
練習風景を見ていたら
誰もがびっくりして
代わりに作ってあげようと思っても
それじゃあだめなんだって踏みとどまって。
バレンタインのチョコは
自分の力で、で心を込めるものだから。
夕凪ちゃんも女の子なのに
目覚めはまだなのかしら?
お兄ちゃんのことあんなに好きなのに
ある日大人っぽく
お料理の腕があがりはじめる。
もうすぐ
お嫁さんになるんだな!
というときが。
まだなの。
こーんなに小さくて
うでずもうでも両手でどうにかいい勝負の
幼いマリーのほうが、もしかしたら早く訪れるかもしれない
恋の叶う日。
それは、結ばれる日。
人それぞれで
たぶん、誰にでも必ず訪れる
誰かを思う幸せな時間を
器用に指先に乗せて
形にして届けることができるようになる。
たったひとりと心に決めた人のところへ運んで
ときどきは
とっても喜んでもらえるようになる
女の子のうれしい特別な日。
まわりの世界より少し早く、春の暖かさが胸の中にやって来るかもしれない
バレンタインに。
ほのかちゃんから見たら
ちょっと大人っぽいところもある、ああ見えて頭の回る早熟ちびっこ夕凪ちゃんだけど
あったかくてやさしい腕自慢のお姉ちゃんたちに混じってキッチンに立ったら
さすがに。
落ち込むというか
元気がないというか
ごはんものどを通らないということはないみたいだけど
いろいろ忘れておいしいうれしい楽しくご飯を食べていて
まだまだ上手じゃないけど、がんばる!
お兄ちゃん見ていて!
その時にはやる気充電完了みたいに見えるけど。
冷静になって思い返すと
静かに不安が忍び寄ってくるらしい
夕凪ちゃんには珍しく、ぼうっと悩んでいるような黙り込んでいる顔。
うつむいて。
みんなが一生懸命に準備している毎日。
まわりを見ていて比べたら、何もできない自分に気がついて
心配になるときもある。
だけど、
着実にその日は迫っている。
仕方ない!
だけどあげたいんだから仕方ない。
そう開き直って
一番したいことだけを。
愛していますと告げることだけ目標にして
多少不恰好なチョコを手に
体いっぱいに勇気を詰めて
世界でただ一人愛する人のためだけに
興奮ではちきれそうな思いでバレンタインへ向かっていく
心の準備が整う最後の瞬間まで
きっと、もうすぐよ。
そんなわけで
マリーのバレンタイン
進行状況。
フェルゼンは気になる?
どれだけおいしくておしゃれに凝った
マリー好みの華やかなチョコレートをいっぱいあげたくて
おうちじゅうの広いテーブルをどこもかしこもフェルゼン一人のために
愛情を並べて積んで埋め尽くしてしまうのか。
あるいは
まだ小さい子なので
あれもあげたいこれも喜んでもらえそうってお料理の本をながめても
ぜんぜんできる気がしないことに気がつくと
がっかりしたり
立ち直ったりで
まだあんまり準備はばっちりと言い切れない
マリーもその仲間の一人で、勇気を出す瞬間を待っているのか。
そこのところは
まだひみつ!
だってまもなく。
きっと間違いなく、このおうちの中にも訪れる
マリーがフェルゼンに胸いっぱいの気持ちを告げるバレンタインまで
もうほんのわずかになった!
焦ってしまう気持ちもあるけれど
それでもやっぱりマリーは、フェルゼンを愛しているから。
バレンタインに
かわいいマリーにチョコをもらえないなんて
そんな寂しいことはさせない!
おぼえていてね。
愛する人に心からの本当の気持ちを受け取ってもらう
その日を待っているのは
好きな人に伝えたい言葉を
抱えきれないほどいっぱい
まいにち増やしている
世界中の恋する女の子で、
そしてもちろん
自分の気持ちが世界一だという自信があって
家族がみんながんばっているのを見たって
ぜったい、
フェルゼンを一番愛しているのはマリーだわ!
そう思っているマリーが
きっと、世界で一番バレンタインの
愛がいっぱいにあふれる日を楽しみにしているということ。
本番のその瞬間が来たら間違いなく
マリーが誰より
フェルゼンを幸せにあげるんだから。
女の子は
がんばっているの。
愛し合う二人で一緒に
誰もがうらやむような幸せな日を過ごしましょうね。