『お留守番』
晴天の休日。
さんさんきらめくお日様も
あたたかいよ、出ておいでって呼んでいる声が
聞こえる人はなぜか聞こえるらしいわ。
そうね。
駅に行ってゆっくりできたらきっと楽しい。
でも今日はお留守番。
輝く日差しが呼んでいたって
まだ気温は間違いなく冬だから、ふっと日が翳ったら
さしこむ肌寒さ、こごえる気配。
朝から少し熱があるユキちゃんは
お楽しみが今週末に待っているのに、今から調子を悪くしたらいけないって
今日は大人しく
大事をとって家に残ったので。
いえ、それが理由というか
昨日から私も
予定なんてないから家にいようかな、
特に準備をすることなんてまるっきり何もないな、
ほんとに全然
みんなで手に手をとって
女の子だからうれしい、なんて言って出かける理由なんて
ちっとも何一つ思い当たらないな、
家でゆっくりしてるわ。
そのつもりだったから。
予定と違っていたのは
近くでばたばた
おかゆを用意したほうがいいのか
タオルをぬらして持っていったほうがいいのか
大人しくベッドで横になっている感心な小さい子のじゃまをするかのような
騒々しい大きな体の生き物が
どったんばったん
ちびちゃんたちの大暴れでもこんなに足音しないほど
あなた、普段はもうちょっと静かに歩けるでしょ?
もっとふつうに。
思っていたより騒々しい日になったのは誤算だったけど。
おうちの中でいつもにぎやかな声が止まらないのは
女の子がいっぱいいるからというだけじゃないとわかった。
そういえば、
あなたがこの家に来る前だって女の子が活動を始めると止まらなかったけど。
みんな考えられないくらい元気で。
何をして遊んでも無茶ばっかりして
ちっとも落ち着いていられない子ばっかりだった。
吹雪ちゃんだって
まともなときも他のみんなよりは多いというくらいで
夢中になっちゃったら。
知っているでしょ?
体じゅうから熱気がむんむんするくらい
ありえないほど元気なんだから。
だから、もうずっと以前からうるさい家だったし
一つのことに夢中になったら
もう他に何も見えないっていうほどだった。
前からそう。
まあ別に、言葉通り他に何も見えないってほどじゃないんだけど。
お留守番の三人のことを考えて
きちんとお昼ごはんを用意していってくれたし。
私と、ユキちゃんと、それから。
だから、バレンタインで盛り上がりすぎてもう何も他のことが考えられないというのは
私の目にそう見えるときもあるというだけで
実際はちゃんと
日常生活も大事にしながらだし。
今日のおやつのおみやげはチョコレートじゃなくて
おせんべいだから。
ちゃんと考えているみたいよ。
蛍姉様が言ってたわ。
もうみんな
毎日試食でチョコばっかりだから!
おせんべい。
……
研究の一環と見る意見も一部で噂されているのは
ひとまず置いといて。
一部って言うのは
比較的冷静な毎日を送っている、
霙姉様。
と、私。
もともと
こんなふうだったから。
盛り上がるときはどうしても
楽しくてたまらないんだ、みたいな。
確かに誰かが、家にあなたが来る前はどうしていたかもう覚えていないって言うときもある。
それはもう、ことあるごとに。
大切な家族の誰か、具合が悪くなってしまったときに
心の支えになってくれるのは誰だったっけ?
えーっ……?
それは今でも、落ち着いて対処できる海晴姉様や霙姉様でしょ。
昔のこと、
私は覚えているわ。
イベントで盛り上がって、落ち着いて過ごせなくなるのは前から同じ。
バレンタインもそう。
チョコレートだから
女の子だから
お料理のお勉強になるから
大好きなみんなで同じ目標を持ってキッチンに立つのは
うれしいから!
よくまあそういろいろ
はしゃぐ理由が思いつくものだなあって、あきれた毎日のことを
よく覚えている。
いつも通り、家族のみんなが盛り上がるバレンタインが近づいて
変わらずやっぱり
今日は本当に冬まっただなかなのかっていうくらい
うっとおしく蒸し暑い家の中で
ただ、わずかに
あの時と変わったのは。
それは、みんなが参考に持ち帰った資料の
プリンやシュークリームやマシュマロやどら焼きの中身をチョコにしてみる工夫やら
小さい子ばかりだった頃とは比べ物にならないくらい色とりどりのレシピ。
チョコレートボンボンの作り方を調べるのも、あの時にはこんなに熱心じゃなくて
ちょっとバラエティが出るかな、みたいじゃなくて
大人っぽい味を喜んでもらえるかな、なんて相談もここ最近。
あまりに種類が多すぎて遣いきれるかどうかわからないリボンも
赤やピンクの華やかな色だけでもこんなにあるものなんだな、って感心するほど。
もうひとつ、明らかに変わってしまったことは
繊細な看病が苦手で最後にはあきらめて
結局、ただユキちゃんの近くについていてあげて
ずっと隣でじっとしていただけで
安心できるからって。
この家に、こういうときどっしり頼りにできる男の人がいてくれてうれしいって。
ちっともどっしりしていなかったけどね!
みんながちょっと
安心できる部分が
私たちの家族に増えたのかもしれないということ。
そう考えている人も少し入るのかもしれないな、ということ。
それだけ。
私が悩んでいる理由は
ただそれだけ。
私の家族に、チョコレートをあげる理由は
単純に、いつも近くにいるから。
私は別に
お世話になっている感謝の気持ちとか
そんな七面倒くさいことより
私は。
家族に変化があったなら
ときどき、私もそんな気になることがあるというだけ。