海晴

『ここにいる』
この冬一番の寒さの町は
お休みの明日には暖かくなりそう。
節分が過ぎたら
春の予感──
にはまだまだ全然早いみたいだけど。
お天気番組では花粉の予報もはじまりました。
こごえながら。
手を擦り合わせて
白い息を吐きかけながら
迎える、まぶしい朝日の時間も。
少しずつ春を迎える準備をはじめて
私たちは、もうすぐだよねって
その日を待っている。
気がつくと、きつく守った襟元を吹き抜ける風も
もう、耳まできんきんさせるあの厳しさを緩めて
日が昇るとあたりに広がる光も
すっかりあたたかな街並みを照らすの。
まだかな?
もう、すぐそこなのかしら?
それとも、
ふと、日々の生活をがんばっていたら
風邪を引かないようにあったかくして体を守っていると
何気なく顔を上げたときに
春の気配を知らせているピンクの花に
驚いたりして
そうしてやっと、
ああ、
伝えたいことができたよ。
家で待ってくれている、私の愛しい人にも教えてあげなくちゃ。
雪解けの道を、ぬかるみの足元を気にしながら
でも弾むステップで
うれしい報告を届けたくて、歩いているその日。
あまりの寒さに、眠りに落ちた白い町も
そろそろ目覚めかけてくる頃が近づいた。
もぞもぞして
何か夢を見て、つぶやいている小さな子のよう。
もう起きそうかな?
そっと声をかけたら、またたく目を薄くひらくまでたぶんもうすぐ。
でも、厳しい冬の過ぎ去るときを待つ帰り道の風景に
今日の私が見つけたものは、
というか、知らないうちに小さな鼻歌を口ずさんで探していたのは
見慣れた街並みに
デパートでも
お菓子屋さんでも
書店の棚でも
一番最初に目に付く。
そう。
明日は私たちは
愛するたった一人の男の子のため。
たまたまこの家族に一人きりで
そうして、みんながいっぺんに好きになって
日ごろから愛を伝えようとしている。
愛を届ける一日には
特にいちばん幸せになってほしい人。
こんなに愛している人がいるよ。
きっと自分が誰よりも届けられると
心の底でみんなが信じていると思う。
ぜったい、伝えられるよ。
普段からいつも
気持ちを言葉にしている子だって
どきどきしながら、ちょっぴりの不安を胸にして手渡す気持ち。
なかなか素直になれない子には
高い高いハードルか
見上げるような壁を乗り越えるか
でも、たったひとつ心から湧き上がる勇気だけで羽が生えて
心の奥に今までは自分だけのものにして秘めていた気持ちを
とうとう、届けたい人に向かって。
私たちみんなが
真心だけを胸に、まっすぐに
精一杯に飾ったラッピングと一緒に
届くかわからない本当の気持ちを
この日こそはと
小さな贈り物に、とても詰めきれない思いを乗せて渡したいから。
というわけで
バレンタイン直前のお休みに
最後の材料の買出しと
がんばってきた練習の総仕上げをして
本番に備える一日を
おんなのこまとめて19人
力を合わせて、手に手をとって
助け合って
みんなで素敵な日を迎えるためにがんばります。
なんだけど。
せっかくのお休みに
愛する弟クンと遊べないのは寂しい!
あーちゃんも青空ちゃんも
そわそわして選ぶのを楽しみにしているお買い物なんだけど
キミをおうちで一人にしてしまうなんて
そんな悲しいことさせられない!
うーん、バレンタインの贈り物に
誰にも負けたくないのは本当なんだけど
でも愛情って
事前の準備ただそれだけで決まるってわけじゃないよね。
たぶん早めにおうちに帰る小さい子たちをまとめて引き受けて
もう邪魔が入らない二人の大人が
結婚して子供ができたらこんなふうかもしれないね、
なんて時間も?
バレンタインに一番ほしいものを
このチャンスに聞き出したりもして。
だいじょーぶ!
おねーちゃん、お菓子作りと
手作りに愛情を込めるのは年季が入ってるし、
姉妹で一番。
そう言えるのも、長女の特権だもの。
だから明日は
たったひとりの世界一愛する人の休日を
まかせてもらっちゃおう
そうしちゃおう!
ちゃお!
あっ、はじけすぎちゃった。
よろしくね。
ふつつかものですが。
と思っていたら。
あ、ふつつかものはまあお嫁さんには少し若いかもしれないからまだそうなんだけど
予想外の事態があったのはそこじゃなくて。
明日は麗ちゃんは特にお出かけする予定がないって。
お気に入りをあげたくて
当日に鉄道関係で何かお気に入りを買い出し?
かも。
だから、私もお買い物から早く帰ってくるつもりだけど
しばらく麗ちゃんとおうちにただ二人きりになりそうだから
ちょっとさみしいかもしれないけど
ちゃーんと二人いい子で
仲良くしてあげてね。
おみやげ買って帰るね!