吹雪

『サイエンス』
意見が分かれて
事実がはっきりしない場合、
本来目指している目的と
そこに至るまでの理論を
まず求めるところから始めなければならない。
正しい答えを導き出すことだけが目的なのではなく
理論が間違っていたとしても
思考を重ねる過程そのものが
科学なのだと
そういった考え方もありうる。
魔法の呪文のひとことだけで
散らかった部屋も一瞬のうちに整理整頓が済んでしまう
その可能性が本当にあるのか、
ただ疑うだけでは話は前に進まない。
いま、明らかにわかっていることは
私たちが大晦日に済ませた大掃除の定義について
それは、新たに来る新年を快適に過ごせるように
ものを適切な位置にしまっておく作業であるとする意見と、
散らかった部屋で年越しを待つ時間が歓迎できないとして
とりあえず、全てを奥に詰め込んでおく作業であるとする意見があって、
もしも、快適に過ごすということを考えるなら
見た目は散らかっているようでも、住人が大事なものの位置を把握していれば
その部屋は片付いているとする理論も
当然成り立つのであって
散らかっている部屋の見た目をきれいにすることは
必ずしも過ごしやすくなるとは限らないという
霙姉の主張は
誰も反論ができないままで。
納得行かないらしい顔も並んでいましたが。
旅行の荷物をそれぞれが抱えて
帰ってきた、冬休みの家の中。
久しぶりの掃除で、住んでいる家がきれいになるのは
気持ちのいいものだという話が交わされていながらも
霙姉が部屋でのんびりしていたのは
年末の大掃除を張り切りすぎて
お正月が過ぎたこれからの生活に必要な着替えや日用品、
新学期の準備もいろいろ
見つからないものが多くて困ってしまったからだという。
また、海晴姉の推測では
あれでも外出先では気を使って
疲れたのだろうという
霙姉が部屋にいても特に片付けもせず、のんびりしていると後から聞いたときの
そんなフォローも混じっていて。
霙姉は、あれでもなんだかんだで次女だから
意外と大事なときには責任感を持って
家族が安心して過ごせるかどうかいつも見守り、
旅行でお世話になった人たちにもあいさつをして
快適なお正月旅行を陰からも日なたでも支えた
お疲れ様の功労者なのだと
途中からは
霙姉本人が話に混じってきて、そのように主張していたので
おそらくそうなのでしょう。
大掃除の影響については
新学期に向けて、時間をかけて準備する必要があると主張する
立夏姉と夕凪姉が
霙姉と意見を交わし、
家族で一番の力持ちであるキミの取り合いをしているので
明日からの状況がどうなるかは
私にはまだ予測ができない。
科学的に話を進めるとしたら
今は充分な情報が出揃っていない状態、
と言える。
特に、話題の中心になっている
キミの意見で変わる部分が多い、
と考えています。
海晴姉は明日から、お天気お姉さんの仕事がはじまり
家の中の用事に参加する時間は減るとのこと。
残念だなーと言っていました。
自分も取り合いに参加したい、
キミに片づけを手伝ってほしいのに、
と。
大掃除とはいったい
なんであろうか──
海晴姉は
明日の朝の天気予報が
雨の予報になりそうで
一年の始まりを
晴れやかに迎えたかったのに、
と、わずかにへこんだ時間もあったけれど
キミの顔を見ていると元気が出るという。
かわいい弟にもテレビの向こうからさわやかな朝を呼びかける笑顔、
落ち込んだところは見せられない!
いっぱい力をもらったから
本当は独り占めをしたいけれど
でも少しの間なら妹たちに貸してあげるから
ちゃんとお姉さんの相手もすること、
明日の朝の天気予報も見ていてほしい、
という。
早起きをする日の多い私が
明日の朝、キミを起こす役目を
海晴姉からじきじきに任され、
新年最初の晴れがましい仕事姿を
目に焼き付けてもらう
その手助けをしてほしい、
と頼まれました。
そういう理由なので
よく見せてください。
つまり、この顔が
元気が出る顔なのですね。
明日の朝、キミを起こす
大事な仕事で
力のもとに変わる顔……
なのでしょうか。
気持ち良さそうに布団をかぶっていても
ちゃんと起こして
お天気お姉さんの笑顔で朝を迎えてくれるように、
遠慮なんてしないで起こしてやってほしい、
あんまり無防備に眠っていても
つられて一緒に布団にもぐって眠り込んだりしないように、
との話しなので
それはどちらかというと
気持ちが安らぐ顔ではないのか……
いったいどちらなのか、
それらすべてが無理なく同居しているような海晴姉の言葉が
不思議でなりません。
もし、元気が出る顔なのだとしても。
私の意見ではお掃除は
快適に過ごせるようにする過程だと思うので
今すぐ元気が必要だということはありません。
もし、安らいでのんびり朝を過ごしたいと考えているなら
私は無理をして起こしたりしないし
同じベッドで眠ってしまう気持ちになってしまうかどうか
その実験を
キミの協力のもとで行える可能性は残っている。
いえ、仮に協力がもらえないのならば
私の考えで実験をするつもりなので
あまり気にしないでください。
何かが実証されると確信があるわけではありませんが
推論を立て、実行する過程において
必ずしもひとつの結論が出なくても
私に何か重要なものをもたらすという考えは
誰にも否定はできないはずです。