観月

『全速力』
氷柱姉じゃと立夏姉じゃが
もちつきなのだから
ふかふか白いうさぎに似た上着を、蛍姉じゃが用意したのに
動きにくいと、たすきで締めて
りりしいのにかわいらしいお手伝い。
ちょっと変わった場面があるのも
世界でここだけの
我が家だけのもちつきだからこそ。
衣装が特別なだけではなくて
早くおもちができるまで待てない
小さき子が近づいて、
臼を振り上げている間はあぶないから、とあわてて抱き上げても
目を離したらすぐにちょこちょこしている
どうにも叱られても懲りない子がいっぱいのもちつき。
そんなにじっとしていられないほど?
楽しみなのは。
おもちがねばりはじめると
色まで変わってくる
あれは、やはり
もち米からおもちへと
変わり出したことを示す、
オーラも次第に別のものになりつつあると
伝わる合図。
見た目でわかるというより
ぺったんぺったん
胸の鼓動はもう少し早く
どきどきしながら見つめていたら
変わっていくのは
次第にのびていくおもちなのか
待ちきれない
うずうずする気持ちが増していく
膨らんでいくお楽しみ感なのか
おもちか
こころか
突いて突きつつ姿が入れ替わる年の瀬。
一年前にこうして同じように
できあがっていくおもちを囲んだときは
また、来年の終わりに
同じ顔が集まって
変わらず嬉しそうにしているなんて
なんだかずっと遠い
一年を重ねた後の
遥かな先のできごと、
と思っていたのに
毎日を過ごしているうちに
とうとうその日が来て
これから迎える来年が
また実り豊かに、長く続くのではという気がしてくるのだけど。
この一年は
どんなにいっぱいのことがあったか
思い出そうとしても、あまりに多すぎる出来事に
ぼんやりしそうなので
部屋に戻って広げたのは
くるくる丸めておいた記録。
はしっこを持ってころがすと
部屋の隅まで行っても、まだ全部は広がりきらない記録が
縦書きの列がずらりと並んだ一年分。
お気に入りだったおこんだての日や
姉じゃたちに小学校から上の学生のお勉強を教えてもらったときは
いつか役に立つはずだと書き留めて。
他にも
泣いてしまったことやら
楽しかったことやら
声をそろえた歌も、ついついでたらめにわめき散らしたさわぎも
数え切れないほどの出来事が
ここでは墨色の文字になってお行儀よく整列する
この一年を走りぬいたあかし。
といっても、墨をすると汚れてしまうような
長い袖の日には
書きにくかったらクレヨンの助けを借りて。
だから黒一色ではなくて色とりどりな字が
踊るみたいに飛び跳ねている
そんな巻物になったのじゃ。
別に、内容に合わせて色を変えたりするほど
気の利いた記録にするつもりはなかったので
あっちで汗をかきそうに真っ赤なお顔をしているのが
木の葉を落とす風に凍える冬の訪れだとか。
しかつめらしく襟をととのえた文字たちが
女の子の水着というものは
ちょっと見栄を張って詰め物を入れる前提で大きめにすると流れていくので注意!
と、どうでもいいお知らせを大切そうにしまっていたり。
いや、これはあんがい大事なことなのか?
大きくなったらわらわのデートにも
参考になるのであろうか。
うむむ……
なかなかそんな気がしないけれど
あっという間に飛びすぎていく感じもする一年を過ごした今、
もしかしたらたちまち兄じゃの肩に背が届く観月に?
考えてみて
うーん、でもやっぱり
どうなのであろう?
なかなか想像しにくい、大人の体型をした未来の自分。
それもやがては、並ぶ巻物のどこかに書き込まれる思い出なのか。
急いで書き付けた大事なことや、時間をかけてじっくりつづるお話。
部屋を滑っていく白い紙の上、表情いろいろの文字たちは
どこにゆかいな出来事があって
どんな面白かった記憶を探しているのか、寄り道ばかりになりそうなほど。
わずかになった今年は
あとどれくらい書き込みが増えるのであろうか。
明日の朝は、もしかしたら
冷えたら雪がうっすら積もるかも、という予報なので
寒さの心配や、電車が止まってしまわないか応援してあげたい姉じゃたちの気持ちをよそに
わらわはマリー姉じゃと話し合って
朝に積もった雪景色を
どうしても見てみたい!
早起きをする予定。
一生懸命走った、思い出す特別がいっぱいの年に
まだもう数日、
新鮮な色をした文字が増えていって
この部屋に転がすとき、これから長くなって
兄じゃの名前も、今年の分にまだいっぱい並ぶのであろうと思う。
朝になって、雪を見つけたら
一番に起こしに行くから
しょぼしょぼした目で引っ張り出されることがないよう、
今のうちから期待して
楽しみに目を輝かせ、
きっと駆けつけるわらわの楽しい知らせを待っているとよいぞ。