春風

『ふくらむ』
春風の胸の中にあるもの。
やわらかで大きくて
熱くて波を打って
あなただけに向かって
手に負えないままあばれまわっている
抑えることのできない感覚は
今もどんどん膨らみ続けて
出会ったときから大きくなるばかりでした。
やがて春風の胸に収まらなくなり
あなたと住んでいるこの家の中を
ところせましと飛び回っては
さらに成長して戻ってくる。
また、すぐに弾けるように
どんどんスピードを増して
あなたを探す。
見つけたものがたくさんあって
何もかもが大事だから
丸ごとほおばるみたいにして
あんまり食べ過ぎたせいで
すっかり、もうどれだけ大きくなったのか。
春風の体よりもずっと巨大に育ったのは確かだけれど
おうちの廊下を
ちゃんと通れるのかしら、
不安になるほど。
ため息と一緒になって
窓から飛び出して
あなたを探しに行くことが
できている?
そう、今も間違いなく
あなたに向かうの。
あなたを求めている。
あなたがいなくては世界が成り立たないと知っている。
私を包みこんでいる全てが
あなたでできていると
私は知っている。
二人でいるときに
見つけたものは
とっくに私の胸には収まらなくなって
街よりも
星の大きさよりもふくらみ続けて
果てしないくらいなのに
今もなお。
ただ一瞬、同じ場所にいて
二人がそれぞれに何かを見つめている
同じときを共にすると
さらに変わっていく。
でも……
私が見つめているのはいつもあなただけなのに
いったい、その目は何を見つめているんだろう。
私にとって、あなたが全てだと
知っていますか?
あなただけでできている世界のはしっこのほうで
うれしそうにしている女の子の存在に
気がついているでしょうか?
私が見つけるもの
とっくに胸に中に収まりきらない全部は
いつでも、あなただけでできている。
ああ、
私の中から出て行く
おっかなびっくりなのに
どうしても小さな春風に収まりきらない
冒険を我慢できない心は
またあなたの気配を探して、
どこでも見つけて
集めて帰ってきて
まだまだ抑えようもなく
大人に憧れるみたいに
背を伸ばしている。
はたして、
春風がクリスマスにもらえたらうれしいプレゼントは
いったいなんだと思いますか?
あなたに見つめてもらえる
美しい宝石のティアラ?
でも、
ピンクのリボンより
星のように輝く指輪より
あなたに見てもらいたい、
ここにあると知ってもらいたい
浮かんでくるたったひとつのねがいは
いつもあなたを見ている春風がここにいます、
どうか気がついて、
ただそれだけ。
あなたの目をうばいたいものは
ちょっと自信がない子ががんばろうとしている時の
勇気をもらいたいきれいな衣装や飾りではないの。
それでは、贈り物は
自分を磨き上げる
やさしいボディクリーム
肌にいい入浴剤
なんてどうだろう?
ハンドクリーム、
リップ、
ほんのきもちくらいのコスメで
つやつやになったら
喜んでもらえそう?
それとも
いっぱいおいしいお料理を用意できる
自慢のうでまえ、
だとか。
一学期よりもちょっと手ごたえのある成績表を届ける
あなたの助けになりたい知恵だとか。
小さな子たちがかわいくて
お世話をしてあげるのが好きでしかたなくて
もしかしたら、誰かを守れる優しい気持ち
春風にもあるかな。
つらいときに
少し涙を流しても
それでも必ず
前向きになれる強さだったり。
誰か特別な人だけを見つめている
変わらない思いだったり。
あなたが悲しいときには
きっと支えてあげたい、
力をあげたい
とめどない気持ちと
元気を出してもらえるまで
ずっとそばにいると信じてほしい
あなたを愛していると伝えている
あなたにもらっていると教えてあげたい
春風のいちばんの笑顔。
ああ、でも。
愛しているこの気持ちは
言葉で届けるほうが喜んでもらえる?
うーん。
いつもいつも同じように
愛している、ばかり言っても
本当に気持ちに届いているか
不安になるときもあるかな?
こんなに愛しているのに
伝わると信じているのに
なんでかな?
あなたがいつもまぶしすぎて
まだまだ自分が小さすぎる気がして
ふくらんでいく気持ちも
あなたでいっぱいのこの世界と向き合うには
実は、
まだまだ
なんです!
求めているのは
あなたのこと。
願いがあるとしたら、
あなたをもっと知りたい。
でも、願う前から
止まらない気持ちなのだけど。
それと、ときどき。
あなたに、わかっていてほしい。
春風はあなたを愛しています。
伝えたいとき
言葉よりもっと上手な方法があるなら
あなたをいつも見つめていれば
いつかわかる、
かな。
そんなことをねがう時もあります。
あなたに、こんなにいっぱいの愛が届くことを。
そうしていつか
お互いの愛が
通じ合うことを
夢見ているの。
クリスマスに、どんな夢もかなう奇跡が起こるなら
春風のいちばん大きな夢、
たぶん世界中では
そんなに大きくないほうかもしれない
この街の端っこで首を伸ばして、あなたを探す
かわいい小さな春風だって
叶ってもいいのではないかと思います。
サンタさん、
お願いします。
春風の心からの愛を
清らかな夜の鈴の音に乗せて
どうか王子様に届けてください!