『ちがうから』
そう。
ちがうの。
もちろんあなただって
わかっているはずよ。
それがありえないということ。
人の気持ちそのものは
クリスマスの贈り物で、靴下に入って
届けられるものではないのだし。
さくらちゃんは小さいから
ちょっとかんちがいをしてしまっただけなの。
よくあるわ。
しかたない。
子供がいっぱいで
にぎやかで
うるさくて
ひとときも落ち着くことがないような気がする
私たちの家だから
日常のこと。
不思議な言動に
ぶんぶん振り回されるなんて
いつでも、当たり前にあるんだわ。
クリスマス前の
高いテンションが交錯する
この時期に限ったことじゃないの。
謎のうわさ話が
元になった真実と別のところで発展して
あからさまに別物になっていくなんて
立夏ちゃんを見ていたら
誰でもよくわかってしまうことだと思うし。
だから、気にしないで。
そのまま、期待しないでいて。
それはまあ、クリスマスプレゼントに
電車と関係があるものを選ばなかったのは確かだけど。
つい数日前、春風姉様は
サンタさんから話を聞いたって飛び込んできて
どうしたの、熱があるのって
失礼なことを言って心配していたけど。
だいたい、サンタさんに手紙を書いたのはもう12月のあたま。
仮に風邪で朦朧としていたのだとしても、とっくに治っているし。
どんなに熱があったって
本当に欲しいものは、絶対に間違えない。
ただ今年は
なんというか。
こんなこと、いちいち説明する必要があるのかどうかわからないけど
よく聞かれるから。
だいたいね。
私だって、骨や血管や内臓まで
電車の部品でできているわけじゃあないの。
そうだったらいいなとは時々思うけど。
いえ、そんなこと考えるのはちょっとおもしろい人だから
別にぜんぜん思ったことはないけれど。
どっちなんだって?
いいじゃないの!
とにかく、ええと。
もっと穏当な表現をすると
私の生活が全部
線路の上で動いているわけではないのだから。
ただ、ときどきは……
もしかしたらそんな日だって来るかもしれない、と考えるのも
将来なりたい仕事に就く可能性はあるので
これなら、ありかな。
今すぐあこがれの電車のように!
と言い出すよりはまだ
大きくなったら。
なんて。
うーん、それもちょっと恥ずかしいかな。
もうわりと
それなりに大きなお姉さんだもんね。
大人になったら
うんてんしさん!
なんて夢みたいなことを言うよりも
将来的には
みんなの暮らしを支える
鉄道関係の仕事ができたらいいと考えています、
がいいわね。
堅実に。
今までより現実的に
一番興味を持っている
あこがれの世界をもっと知るために。
本当に好きなことは
仕事にしないで趣味にしておいたほうがいいなんて
迷ったときの言い訳だと思う。
知らなかったほうがいいこともあるなんて
つらくなって目をそらしてしまった自分へのごまかしじゃないのかな。
いつか私も、そんなふうに自分を慰めるしか思いつかない
厳しい環境を実感することだって……
これから進む長い道のりで、もしかしたらあるのかもしれないわ。
今は自分でも想像がつかないほど
はるかな距離を進むことになる
夢へと向かう道のりが
曲がりくねっているのか
延々と続く坂道なのかはまだ知らない。
でも私は
大変なことが続く嵐のような日々の中でも
平和そうに笑いながら
誰かと助け合っていけるということを
もう知っているの。
そんな人を
いつも見ているの。
そういうわけだから、もちろん
これまで通り、鉄道に憧れていることは何も変わっていないのよ。
やめろと言われてもやめられるものではないし。
人の心はそんなに簡単に動くわけじゃあないの。
クリスマスだって
私の心を誰かの思い通りに変えることなんてできないわ。
おそろしく着心地が悪そうなパーティードレスを製作している蛍姉様には申し訳ないけれど
そんなにすぐに淑女に変身したりしない。
なりたくたって、なれないし。
特になりたくもないし。
だから今年は
ちょっとした気まぐれなだけ。
別に、ゆっくり一人で落ち着いて飲み物を用意できる
コーヒーメイカーをお願いしたのは
ただ純粋に自分のため。
それは、大人の男の人に似合う飲み物かもしれないけど
あなたに淹れてあげるつもりだなんて。
うわさがうわさを呼んだ果てに行き着いた
みんなの勘違いなの。
私……
この家にいるんだから
そんなに一人でいる時間が増えるとは思わないわ。
きっと近くに、いつだって何人もいて
仕方なく飲み物を作ってあげることだってあるかもしれない。
別に、誰だったとしても同じなの。
私の家族なら
しょうがないから
いてもいいって。
ただそれだけのことよ。