夕凪

『サイレントナイト』
さむい!
ううーっ
どうなってるの?
冬だから?
ぴょんぴょんはねて
足踏みして
体の内側から暖を取る
風の子でも厳しいこんな日に
ぎりぎり元気な子供っぽい動きでも
手が寒い
耳が寒い
なんのこのくらい
夕凪を負かすほどの寒さなんてどこにもない、と胸を張っても
気がついたら鼻がたれている。
はずかしい!
お兄ちゃん見た?
夕凪が袖でごしごししたところ。
女の子なのにね!
もうちょっと
優雅な表情を崩さないままで
そう、女の子は誰もが
生まれながらのお姫様なのです、
みたいな顔で
冬の町を歩いてみたくても
もう
がまんできない!
うわうわ
きゃーって
並んだ友達みんなで
好きなように声を出して
寒さをごまかそうとしているうちに
なんだか楽しくなってきて
おかしな騒ぎ方へと変わっていく
乙女の放課後の過ごし方。
これでいいのか?
さむい!
ぎゃー!
って、つぶれた声で合唱するなんて。
はしたないのは
寒さのせい。
早く帰って、風から逃げて
いつもの夕凪に戻ろう!
たすけを求める
おそろしい叫び声も
すぐにとろけて
ふわーんって響きになる。
ふーっ。
湯気の立つコップひとつで
とろーんとした声が出るよ。
夕凪も
星花ちゃんも
ストーブの前を占領して
ふわー、
とろーん。
このまま今すぐケーキに入れたら
味がまろやかになりそうな
そんな小学生ふたりです。
お兄ちゃんが帰ってきたら
場所を譲ろうね。
さあさあ
寒かったでしょうって
冷たい手をつかんでみたら
うぎゃーって声を上げたりしながら
ここまで引っ張ってこようね。
こんなに寒い冬なのに
夜の街を駆けていくという
サンタさん。
大丈夫なのかなあ。
本当に今年も来ると思う?
いったいどうして
こんな時期を選んだの!?
エス様も、せっかく神様の奇跡なんだから
そこはついでにもうひとつお願いして
もっと過ごしやすい季節のお誕生日にしてもらえば良かったんだよ。
奇跡が世界中に溢れて
全てが愛でいっぱいになる日。
今からぶるぶるクリスマス会の準備を
外に買出しに出る必要ができたとたん
手をこすって息をはーって
勇気を出す必要が出てくるより
もうちょっと心もゆったり
当日まで楽しみにできそうな気がするんだよね。
それでもテンション上がって
時々変な声を出すけど
寒さに耐えないと、って
ぬおーってうるさく
気合を入れる必要はなくなるし!
これはあれかなあ。
やっぱり、どこにもない奇跡の日は
厳しい試練を乗り越えてこそ得られるもの、
っていうイエス様の教えかなあ。
サンタさんも
このくらいで負けていられない、って冬空を飛んでいくんだもの。
夕凪だってがんばって
家族で楽しいクリスマスパーティーを過ごすために
飾り付けの準備するぞ!
おー!
クリスマスで食べきれなかった分が残ったら
忙しい年末の簡単料理に使いまわせるようなメニューにするのもいいね、
なんて夢のないことを話し合っている
蛍お姉ちゃんたちには
ロマンティックのきらきらは絶対
楽しみすぎて夢いっぱいでがんばっているぶん
夕凪たちが上なんだから!
クリスマスの寒い季節は
がんばってみようって言ってるみたい。
そうやって夕凪たちのハートはドキドキしながら育っていくの。
夢見る力を鍛えるんだ!
と思って納得していたら
オーストラリアのほうのサンタさんは
こっちとは季節が反対で
クリスマスはちょうど夏まっさかりだから
サーフィンしながら陽気にやってくるんだって!
なんだかずるいー!
どうせなら夕凪も
そんなクリスマスだったら面白そうなのにー。
いつかみんなで行ってみたいね。
夏真っ盛りのクリスマス。
お兄ちゃんの手を引っ張って
夕凪、こういうの大好きなんだよって
すぐわかっちゃうように教えます!
そのうち真ん中あたりのところで
寒すぎたりも暑すぎたりもしない春みたいな季節に
一回くらいクリスマスしてみたいよね。
そしたら帰ってくるとき、寒いーって大変そうだけど
ここが夕凪の家なんだもん。
やっぱり家が一番だな!
寒すぎるクリスマスばっかりじゃつまらないよーって
自分で言っておいて
帰ってきたらすっかり落ち着いている夕凪が
今からもう自分でも見える!
というわけで
そのうち行こうね!
冬ばっかりじゃないクリスマス。
今年の厳しい寒さは
サンタさんのお仕事が大変そうで
ちょっと心配です。
夕凪が待ってるよって
大きな声で教えてあげたいのにな!