真璃

『かっぱ尽くし』
昔の人は
面白いことを考えたもので。
変わった生き物の言い伝えが残っている。
今を生きるマリーたちが
かっぱやおには
一つ目入道なんて
本当にいるのかしら?
さくらや観月がまじめな顔で話しているのを見ると
ちょっと子供っぽい話題じゃないの?
とは、なかなか言えないで
こっちもなんだか真剣に聞いてしまう。
ようかい──
観月は詳しいのよ。
なんでも、かっぱの言い伝えの元になったのは
頭の上のほうだけを剃る
外国のお坊さんだって説もあるとか。
おには赤や青の顔をして、もじゃもじゃ頭。
やっぱり海を渡ってきた人を見間違えたんじゃないかな、
これも有力な説。
うわさがうわさを呼んで
やがておひれがつくパターン。
一つ目入道は
どこの国でも
鉄を鍛えるために
ぎらぎら炎を使うお仕事は
昔は目を守るめがねもないし
目を悪くしやすかったんだって。
あまりにも光が強い夏の浜辺で
海晴お姉ちゃまが
焼けちゃうよーって
身につけていた
あのサングラスは
最近になってできたもの。
もともとは
流行の発信基地から
届いたわけではなく
必要があって
発明された
強い光から身を守る
心強い援軍なの!
神様に捧げられるおまじないの品物は鉄でできていることが多かったから
鉄を加工する集団は
一つ目として、時に恐れられ
うやまわれてきたとか。
これはつまり
話が大げさに伝えられてきたということね。
そして、現実のものが語り伝えられていく
そのすきを狙って
人々の隣で生きてきた別の存在もまた
よくある伝説に混じって
どうにも解釈が難しいうわさになって
ときおり顔を出しているらしい、
というのが
観月の説。
そうなのかしら?
かっぱの正体は
お坊さんと見せかけて
その噂が広まったあとも陰に隠れて
やっぱり本当にいるんだって。
でも、なんだか面白いわよね。
元を辿っていくとその正体はなんと!
みたいな。
いろいろこじつけっぽい気もする説もあるけど
よく考えるものね。
この調子だと、サンタさんもやっぱり
マリーたちの家に来るまでに
飛んでいるところを見つかったら
うわさをたてられてしまうかもしれないわね?
たった一晩だけ
世界中の良い子のところに
プレゼントを配る人。
狭い煙突も、あのふとっちょの体で
するっと通り抜けてしまうのも
なかなかの技術だと思うわ。
クリスマスの星空を、寒さにも負けずトナカイが
ひらひらと舞い落ちる雪を踏みしめながら飛んでいくのも
普段はあんまり見ない光景よね。
なんとサンタさんとは
実は!
みたいなうわさ話、
どこかにあるかもしれないわね。
誰に頼まれたわけでもなく
良い子がいるというただそれだけの理由で
寒さにめげず
奇跡の夜の力を借りて
世界をめぐり、プレゼントを配る
その正体はいったい何なのか?
マリーはもう
知っているの。
サンタさんの元になった
本当の話。
それは
こうしてクリスマスを楽しみにして
良い子にしているだけでプレゼントを届けてもらう
そんな体験をしたマリーたちが
いつかもう少し大人になって
今走らない魔法の力を身につけて
今度はプレゼントを贈ってあげたい良い子のために
変身するのだろうということ。
昔、世界のどこかでサンタさんというお仕事が誕生したときは
いったい素質がある人を集めて試験で選んで資格をあげるのか、
それとも付きっ切りで鍛え上げたのかはマリーは知らないのだけど
そこはプレゼントを届けたい気持ちで目を輝かせた
情熱あふれるおじいさんたちの熱気でいっぱいだったのでしょうね!
もしかしたら、やがていつか
サンタさんが後継者にすてきなお仕事を譲り渡すことがあるとしたら
プレゼントを受け取って喜んでいるだけだった
小さなマリーが
その時はもう少しすらっと伸びたしなやかな手を上げて立候補するかもしれないわ。
私がいるからもう大丈夫、
安心して後を任せてね、
そんなふうに言ってるのかもしれないな、
って考えたから。
今年もマリーのおうちの良い子さんたちに
サンタさんが来るといいわね。
そういえば聞いた話なんだけど
サンタさんが赤い服を着ているのは
お仕事を始めた最初の瞬間からではなくて
どこかの会社の広告で赤い服のサンタさんが登場してからなんだそうよ。
本当かしら。
サンタさんも、いつまでもおしゃれに飾ることを忘れない
すてきなおじいさんなのね。
クリスマスカラーのイメージは、たいてい赤と緑。
真っ赤な仕事着にこの日は丹念にブラシをかけてやって来るサンタさんを
楽しみに待っている人がたくさんいるのかもね?
それで、どうして
子供たちが急にかっぱの話を始めたのかと言うと
クリスマスカラーに合わせたおすしは
鉄火巻きとかっぱ巻きかな?
という蛍お姉ちゃまのひらめきで
大量の試作メニューが
このごろ食事の席に並ぶから!
マリーはおすしも好きよ。
かっぱ巻きだっていけるほう。
いつまでも子供みたいな舌じゃないんだから。
大人の味も覚えなきゃ。
マリーは小さい子の中では特別に
わさびも少し入れてもらっているの。
このつんと来る刺激も
なかなか悪くないわ。
でも、フェルゼンは、刺激的なクリスマスと
キャンドルの明かりが揺れる穏やかなクリスマスでは
どちらが好み?
みんなで過ごす夜だから
マリーだけの意見じゃなくて
素敵に楽しめる夜を、どうしても期待している
大人も子供も、この日を夢見るならちっともかまわない家族たちで
それぞれが込める思いを伝え合い、
今か今かと、誰もがその日が来るのを待っているの。