『寒気』
果てしない真空の宇宙に
浮かぶように、漂うように
頼りなくふらふらと揺れるかと思えば
確固たる意思が動かしているともとれる
輝くものは
私たちを包み、大きく広がる一つの星、
そこに形作られていく
一つの世界。
しかしそれさえも
限界を知らないまま膨張を続ける宇宙では
ほんの小さな灯火でしかないのだけど。
寂しそうに広大な宇宙の中で
孤独を感じながら回転を続けているのは
静かな暗黒の中で光を放つ
砂粒のようなかけらでしかない
色とりどりの輝きばかりではなく
冬型の気圧配置がもたらす強烈な寒さに
それぞれの明かりに集いながら
暖を取り、顔を寄せて
触れ合う温度、つなぐ指先に
お互いが大事だと知る営み。
この家を囲む厳しい宇宙の寒さは
あるいはまた、私たちの輝きを
さえぎるものなく伝え合う。
光が届くその距離を教える
私たちの家は
今日も賑やかな会話に満たされていた。
さえずる小鳥、
咆哮をあげる獣、
甲高く仲間を呼ぶ未開の地の巨大生物の鳴き声か
悪巧みに忍び笑いを漏らす野狐の気配か
とにかく二十人きょうだいがいる家庭の休日は
ひとときも休むことなく
奇声が響き渡り
エネルギーに満ちた
新たな巨星を生み出し続けている。
今日はずっと氷柱とオマエが留守だったから
事情はよくわからないままなのだが、
どうも一日オマエを独占するつもりで
きのうから観察を続けていた夕凪探偵団の報告によると
その報告は多くが吹雪の調査によるものであったけれど
話をまとめた夕凪の推理でどうやら
氷柱が断っても
無理をしてついて行きたいと言って
最後には氷柱も折れて
結局は二人連れ立っての出発であったと
そのように見えたらしい。
休日も家族の中心になるはずのお兄ちゃんを
家中ひっぱりまわったりひっくりかえしたりするはずだった
子供たちの意見に多かったのは
寒くてもいいから
一緒にお出かけしたかった、
どんな状況なのか知らないけど
氷柱ちゃんだけいいな、
いったいお兄ちゃんの心を動かす何があったのか?
というそれぞれが感情の色合いを込めた嘆声であったが
やがて中心に立ったマリーが
自分はフェルゼンの愛を信じている、
何か必要があって二人きりの外出になったとしても
氷柱お姉ちゃまもフェルゼンも
その愛が二人だけ向き合うものではなく
いつも私たち家族を思っていてくれるのだと
何度も教えてくれているのだから
もうすぐ私たちの元に返ってきて
また自分たちの中にあるいっぱいの愛情を分け合える日を待って
今日はおうちにいるみんなで仲良く過ごしましょうと
寂しそうに元気をなくした春風を
優しく慰めてやっていたものだ。
はじめは、このまま放っておけば何か面白い展開になるかと
期待して見ていたのだが
ほとばしるエネルギーの渦は
強い寒さが包み込むこの場所で
土日を大きくかき回し、未知なる激しい輝きの誕生をもたらす──
というところまでは行かず
丸く穏やかに
収まるべきところへ収束していったようで
今から考えれば
もうちょっと事態をややこしくするような方向に話を誘導して
それぞれの輝きが干渉しあう様子を眺めても
冬の休日、一つの部屋の暖房に集まる
仲良し家族の楽しみ方としては
なかなか刺激的なものとなったのではないだろうか。
とはいえ、今日一日お預けされた子たちが
明日をどのように過ごすのかと考えると
それもまたこの長い夜の退屈を慰めるには
格好の材料となることは間違いない。
星たちは影響を与え合い
気の遠くなる距離の真空を飛び越えて
それぞれの輝きを届けていく。
心の中に燃え盛るエネルギーを抱く我が家の子供たちも
美しくきらめく情熱的な輝きを
愛する人に届けようと
遠くどこまでも放とうとしている。
近くにいるものはその光に照らされ
まぶしく喜びを受け止めようとしていると
見つめる私たちもまた
あの愛しいものたちに伝えることができるのだろうか?