氷柱

『できる女』
別に
泣いているわけじゃないし
泣いたってどうにかなるわけじゃない。
吹雪ちゃんは
いつか科学が発展すればって期待しているようだけど
今の時点ではどうにもならない。
私はあんまり
地球の活動に挑んで
冬の寒さを科学的に解決するなんて
そんなことに興味はない。
いいんじゃないの。
冬が寒くても。
私の知ったことじゃないわ。
我が家の良い子は
ちゃんと自分で考えて、
風邪対策と健康管理ができるんだから。
できないようなら
だらしない子のところには
ひょっとしたら今年のサンタも来ないんじゃないの、という
ただそれだけのこと。
ちょっと悲しいか、
よくあることか、
私は知らないわ。
今まではちゃんとみんな体を大事に
一人もかけずに笑顔でクリスマスを迎えていた。
今までと変わって、増えた分は
あさひはともかく
がさつでデリカシーに欠ける男の子でも
どうやら年上として
小さな妹たちの見本になるくらいは出来るようね。
私は何も
下僕から学ぶことはないみたいだけど。
まあ、こんな寒さの中でも
どうにかこうにか工夫してやっとのこと元気でいれば
それは立派なんじゃないの。
また今度の週末も寒くなるといっても
私がどうにかできることなんてない。
寒いからって悲しくなったりしない。
泣いているのはそんな理由じゃない。
泣いていないし。
困ったことなんて
何一つ起きていない。
私はサンタさんじゃないから
届ける人の事情なんて何も知らないけど
今の時点で用意してあるプレゼントを山積みにして運んで
普段は肉体労働なんてしないけど
これくらいはね、と
私じゃなくてサンタさんの話よ。
大掃除の準備にと
ツリーの横に新しい掃除用具が並び始める光景の中、
散らかりがちな家の中を
きちんと整理整頓。
あるべき場所へ
残らず片付ける。
なぜか私から上のきょうだいは
人並み以上の家事が自慢の蛍ちゃんまで
苦手意識があるらしいこと。
機能的に物を出し入れできるようしまっておく技術。
ヒカル姉様は単に物が少ないだけだから
片付いているのとは違う気がするの。
だから、私がそれなりの年になるまでなかなか捗らないまま
延々と解決を先送りにされ続けた
途中で全員の意見を合わせて
それなりになったということにして
まあいいか、とまとめる
年末のばたばた。
どうやら今年も次第に
忍び寄ってきたわね。
と思ったから。
やっぱりこれは
できる女が先頭に立たないといけないな、と
思ったのよ。
まあね。
本当にできる女は
あまり自分のことを
できる女だな、と言ったりしないわよね。
実際はどうなのか知らないけど
私の周りの少ないデータから推測して。
吹雪ちゃんほど
データ重視ではないけれど
参考にすると便利なときもあるの。
普段から家のみんなを支えたいと
しっかりできている人は
たまに活躍できたら
あれ?
私もできるんだ、と
つい調子に乗ったりはしないでしょう。
あ、
違うのよ、
サンタのことよ。
そもそも私は調子に乗ってないわよ。
誰にでも当然ある失敗をしただけよ。
サンタのことだからね。
ある時うっかり
珍しく力仕事をして運んだ荷物が
小雨ちゃんに壁の傷跡を発見されてしまうほど……
私じゃないの。
誰だか知らないけど
怪我をした子がいる様子はないし
柱についた傷の位置からして、もうそれなりに年長の子と考えられるわけで
何がぶつかった跡なのか
知らないけど。
もしもサンタさんがいるとしたら
この時期、いっぱい荷物を抱えて
受け取ってくれる子の顔を想像して浮かれてしまって
どこか遠い北の国で
うっかり柱に傷を残すこともあるかもね、
と、そんなたとえ話をしてみる気になっただけ。
だからあんまり
うちの柱に傷が付いていても、これ以上は気にしないほうがいいわ。
自分で対処できる大人なんだと思うの。
こんなこと人に言いふらしたってしょうがないし。
サンタさんだって
運んでいる途中で壊れてしまったら
自分のプレゼントを用意してもらう予算をまわして
今からでもまだ当日まではだいぶ時間はあるから
簡単に調達できると思うのよ。
サンタさんも。
ところで。
週末は寒くなるから
みんな外出しないで家にいるのかな、
何をしたら
大勢で遊べるかな、
もうクリスマスが来たみたいに
にぎやかになるかな、
なんて話し合っているみたいね。
せっかくだけど
私はちょっと用があって出かけてくるから。
小さい子たちには、そう伝えておいて。
大した用事じゃないから気にしないで、って。
寒くなってますます嫌になるなんてことは何もなく
心から、行きたくて行くの。
あーあ楽しみだな。
凍える風の中、
クリスマスが近づく街の
一人歩き。
早く寒い寒い日の週末が
来ないものかしらね!
何よ、怒ってないわよ。
だから私のことはかまわないで放っておいて。
強烈な寒さの中を出かけていくとしても
あんまり心配しないでいいわ。
どうしても仕方のないことだし、じゃなくて
ぜんぜん大した用事なんかじゃない
私じゃなかったら
面白くもなんともないつまらない外出。
好きで行くんだから
これ以上何も声なんてかけないでよね。