綿雪

冬の妖精
お昼から広がった黒い雲が
しとしと雨を運んでくると
すぐに寒くなってしまう。
ユキたちの近くに
もう、冬のはじまり。
傘を傾けた
帰り道の角から
さみしそうにこっちを見ているみたいに。
遊んでほしくて
寒さに赤くなった頬をこすりながら
友達を探そうとしているみたいに。
ときどきは、気がつかないまま
すぐそばをすれ違う
重ね着の上からでも染み込んでしまう寒さに
おうちの玄関であたたかい声のお迎えに
やっとはじめて、思ったより冷えきっていた自分を見つけて
変わっていく季節に気づくの。
もうまもなく
このあたりにも、本格的な冬が訪れます。
しっとり服を湿らせてしまう
冷たい雨も、
ずっと先だと思っていた真っ白な雪景色の一色に
すぐに通り道を染めてしまうのでしょうか。
学校とユキのおうちをつなぐ
広がる大きな世界は
いつか、もうすぐ。
どんな音だって吸い込んでしまうような
静かな色に。
夕方の天気予報では
明日には持ち直す天気。
それまであたたかく
体を大事に
急な冷え込みに負けないように
ちゅうい
なんですって。
きをつけなくちゃ!
富士山の近くでも
だいぶ雪が降って
もう、寒さの厳しい本当の冬は
いっぽいっぽ
確かに近づいているそうです。
夏にはヒカルお姉ちゃんが部活動の合宿に行った
涼しい快適な富士山のあたり。
すごしやすく、
きもちよく
青春の汗を流した
あのあたり。
ユキ、知っているの。
このあたりとは、そんなに遠くないということ。
こどもがいっぱいでは大変な距離だけど
お姉さんたちなら
立派に合宿を果たして
どんな素敵な思い出だって
胸の中に残して持ち帰ることができる
そのために
少し足を伸ばしてもいい距離。
この前は、ヒカルお姉ちゃんの
おみやげ話のいっぱい山盛り。
もう少し前は、麗お姉ちゃんの遠足で
私たちの知らないレールの上、
いつもがんばっている特別な電車を見た場所。
おぼえているよ。
話を聞いて
想像してみたんだもの。
いつかもう少し大きくなったら
お兄ちゃんと手をつないで行けると思ったもの。
いつも守ってもらわなくてもいいだけ
からだが丈夫になって、
もう目を離したらふっと消えてしまって
探すのに大変な思いをするなんて
そんなことがなくてもいい
大きなユキに育ったら
今度は好きで
手をつないで。
小さいからとか
何の理由もいらないで
行けると思ったの。
もう少しだけ
お姉さんになったら。
それまでの間、
体を大事にしてじっと我慢しているのも平気なくらい
短い時間のあとだよね、
大空へ飛ばすような空想がかなうのは。
それまでは、思い出をかばんに乗せてお姉ちゃんたちが戻ってくる
行ったことはなくても
よく知っているあたり。
今年はもう冬が来たんだって。
ちゃくちゃくと近づいているんです。
寒さを運ぶ北風は
なんだか、かけあし?
気がせいてしまうのかな。
早く、真っ白な景色を届けないと、
なんて。
静かな白い景色の似合う記念日に
間に合うように?
でもまだ、ずいぶん先のような気がするクリスマス。
楽しみに待っていても
冷たい窓に触れて、澄んだ星空を眺めながら
気持ちが冷たい空気の中を果てしなく走って行っても
そんなにすぐにはやって来ない
待ち遠しい、楽しみな日。
さむーい冬が
あせって近づいてきても
まだもう少し
ゆっくり。
本物の寒さがやって来る前に
想像してみる時間がもうちょっとあったら
それもきっと楽しいはず、
だから。
布団を重ねて
上着をそろえて
寒さに耐える準備をしたら
今度は、気持ちをだんだん
急ぎ足が苦手な
ユキはほんのりペースで
ときどき、冷えすぎた体をゆっくりあたためて、休めてあげながら。
冬を本当に楽しむ準備を
進めていけたら
それでもいいですよね。
お外に出られない
お庭が泥だらけの雨の日に
今日はみんなにせがまれて、いろんな絵本に囲まれた氷柱お姉ちゃんが
その場でつじつまをあわせたおとぎ話では
雪が音もなく積もる街並みを
ひらひら白い羽と一緒に残していくのは
冬を待ち望んで
冷たい風のにおいに乗る子供たち。
きっとユキたちみんなと同じように
わくわくほっぺたを赤くして
変わっていく次の季節を待っているんだと
そう言っていました。
夜空を見上げて空想しているみたいに
冬景色をうれしそうに飛んでいくユキが
今日も、どこかにいるでしょうか?
本当にそうだったら
今日のユキは
いつもよりも少し想像を羽ばたかせて
今まで見たことがないほど遠くへ行ける?
優しい氷柱お姉ちゃんと
大好きなお兄ちゃんと手をつないで、
どこまでも飛んで。
もうすぐやって来る本当の冬を
楽しむ方法のぜんぶを
たくさん見つけて
運んできてくれる
白い翼が見えるのかな、と
くもりぞらに目をこらして
探しています。