春風

『じっとしていられない』
聞きました!
話してきました!
春風のヒカルちゃんを
とらないで!
春風の大事な王子様のこと
責めるのはやめてください!
そんなことをしたら
誰が相手だって許さない!
あ、話したというのはつまり
夏休みくらいに、たいていの運動部は引継ぎをして
いま部長をしているのは二年生。
春風の同級生なんです。
よく知っているお友達だって
ふだんは、あんまり運動に力を入れている学校じゃないとか
新入部員が少ないままだと不安だとか
むしろうちの部は、新入生が優秀すぎて追い越されそうだとか
これは自慢かもしれないけど
休み時間に集まったら話に花が咲いて
春風の知らない新鮮な世界を覗かせてくれることもある
運動部の責任ある部長さん。
ちょっと不満があっても
先輩たちから受け継いだ役目を
立派に果たしていくために
下級生を引っ張って走っていく大変な役目を
不安交じりに、でも張り切って始めることになった
運動部のリーダーたち。
秋の新人戦が
あまりいい成績を取れなかったから
喝を入れるために!
ごほうびのために!
ヒカルちゃんの参加がどうしても必要なの!
と、主張しながらも
目をそらそうとするのは
やましいからだと思います!
あわよくばこのまま部活動中心に過ごしてもらえたら
運動部合同のクリスマス会に
一度くらいはヒカルちゃんを招くことができるかもしれない、
なんて本音を漏らしたりするし
そうなったらうれしいのは
下級生ががんばれるごほうびで
これからの運動部に絶対必要なスターなんだってごまかして
本当は、自分たちがヒカルちゃんともっとお近づきになりたいだけだってこと
ぴーんと来て
春風はちゃんと
見抜いてしまったんだから!
おうちのヒカルちゃんは
そんなとげぬきにご利益があるお地蔵さんみたいな扱いは
絶対喜んだりしないわ。
だいいち、昨日ヒカルちゃんを囲んで詰め寄ったときに
いつも一緒にいる男の人は何なのか、
本当にただの家族だけであんなに仲がいいのか、
家族なら年末の予定にまで口を出す権利はないのではないか、
クリスマスを一緒に過ごす恋人じゃないなら
自分たちにもチャンスをもらってもいいのではないか、
なんて質問攻めにしたそうだから
それってつまり
クリスマスの約束を交わす恋人たちみたいになりたいって言ってるんですか!?
信じられない……
ヒカルちゃんは春風のものなのに!
王子様も春風のものなのに!
それなのに、ヒカルちゃんは
家族だよってそれだけしか返事ができなかったから
そのまま押し切られてしまったみたいなの。
いいじゃない!
家族がクリスマスの予定を決めたって!
それに、
春風にとって王子様は
ただの家族じゃないんです!
ヒカルちゃんもちゃんと言えばよかったのに。
王子様のこと。
誰よりも特別な人なんだって。
でもそうしたら
こんなにややこしい事態にはならなかったかもしれないけど
王子様とヒカルちゃんがそのまま学校公認のカップルになって
そうだったんだーってまわりに受け入れられてしまったら。
前からお似合いだと思っていた、なんて誰かの声が
春風の耳に届いてしまったら
自分の気持ちは他の人なんて関係ないってずっと前に決めていたんだけど
それでも……
ヒカルちゃん、
運命が変わってしまう瞬間に立っていたのね。
いいな!
春風もそんな場所に立っていたら
私の王子様はただの家族じゃない、
世界で誰よりも一番愛している人なの、って
堂々と叫ぶことができたかな。
その瞬間に、春風の世界が全部変わってしまって
もう、今まで過ごしていた学校生活に戻れなくなる。
友達と仲良くいられる時間を全部犠牲にして
あなただけに飛び込んでもう何もなくなる
そんな決断がすぐできるのでしょうか。
と思っていたら
今日は部長のみんなから
いったい春風ちゃんはヒカルちゃんの話で抗議に来たのか
王子様を愛していると伝えに来たのかどっちなのかさっぱりだって
まわりみんなで落ち着かせようと背中をさすって
どうどう、
わかったわかった、
とにかく王子様を好きなことだけはよく伝わったと
まわりじゅうで納得していたみたいだから
もう、春風のたった一人の大切な人なんだって
世界中に向けて全部伝えてしまったんです。
ああ、どうしよう。
明日からもう春風は
恋だけに生きる乙女なの。
二度と今までの穏やかな学校生活に戻れません。
みんなも応援してるよって言ってくれたし
まあいいかな?
そういうわけで
ちゃんと部長さんたちと話し合って
話を決めてきたから
安心してください。
王子様一人が全ての部活動と相手をするのは大変だし
ヒカルちゃんを大事にしているのは
私たち家族みんなだから
ちゃんと春風たちが王子様の助っ人に参加できるよう
認めてもらってきました!
帰ってきて、みんなの前で発表したら
海晴お姉ちゃんが
結局、対決はするのねって驚いていましたね。
あ、春風がお友達としてお願いすれば
対決しないでヒカルちゃんから手を引いてもらえたのかな?
でもいいんです。
この機会だから
私たち家族みんながどれだけヒカルちゃんを愛しているか
たっぷり見せ付けて
もう二度とおかしなことを考えないようにしてもらわなくちゃ。
中学生の氷柱ちゃんたちが助っ人をするときは
体格差で不公平にならないように
ちゃんと中学生の子を相手に出すって約束をしたので。
今日のうちに家族会議で、おうちの誰がどの部活を相手にするかメンバーを決めて
明日、春風が交渉をしてきます。
決めているときにヒカルちゃんが
私はどの部活との決戦に出ようかなあなんて
ひとごとみたいなことを言うの。
もう!
賞品のお姫様は大人しくしていてください!
春風たちと王子様が協力して
ヒカルちゃんを守り抜くから
今度こんなことがあったら
ちゃんと、愛している人のことを
一番誰よりも大切で
いつもいっしょにいたいんだと
不安もためらいもなく言える
勇気ある女の子になれるように
決闘が終わったら、今度はヒカルちゃんの特訓。
ちゃんと大人しく
待っていること!