ヒカル

『ぎりぎり』
女の子は
大きくなれば誰でも自然に
美しく女の人らしくなって、
今は苦手な料理や裁縫を
逆上がりが出来るようになるみたいにいつか克服して
やがては計算も得意になってお買い物上手に変わり
貯金箱からあふれそうな一円玉で
たまにはぜいたくなおいしい幸せを家で用意するのも
楽しみのひとつになり、
と、この場合の楽しみとは
おいしさばかりが中心ではなく
みんなが喜んでくれることが大事なんだって
自分で説明が必要な気がするらしい立夏の夢は
どうも、私を見ていると
怪しくなってしまうようで
なぜまだなのか、
蝶になって羽ばたかないのか、
もしかして本当は男の子じゃないのか、
と触って確認されてしまうこともある
のどぼとけをさがすとか。
あと、胸の確認。
私から見たら
立夏のほうがとっくに蝶みたいに華やかな女の子に変わっているようで
オマエなら心配しないでも大丈夫だよ、
と言ってあげたいけれど
それでは、私がどうしてこうなのか、
春風や蛍と
いったい体を形作る何が違うのかと
説明を求められても
私は違うみたいだとしか言えないけど。
いや、胸の話じゃなくて。
そんな勘違いしないか。
氷柱がやけに効きたがっていたみたいだから
あの子もあんまりはっきり言わないけど
まだ、自分の中身が子供のような気がしているのかな。
それにしても、何度見ても
説明が難しい……
できないわけでもないけど、わかってもらえるかどうかはわからない
とにかく、予算をオーバーした財布には
次回も買い出しに行く担当としては
計算してみるとなかなかきわどいライン上の数字が残っているばかり。
これからしばらくは
共犯の人間と、新聞のチラシをすみまでチェックしていかないと
少しばかり、おかずのリクエストもきいてもらえるか難しそう。
どうしてこんなことになったのかと考えると
吹く風がだんだん冷たくなり
日が暮れる時間が早くなったから、
としか言いようがないんだけど。
コンビニの肉まんはがまんしたんだ。
家のみんなのため、
任された大役の
買い物。
荷物が多くなっても
二人なら大丈夫だって
安心していたら。
夕暮れが近づいて
薄暗くなると
テニス部の練習に参加しても
曇り空ではボールもよく見えなくなるし
練習試合も途中で切り上げて
早めに解散。
だから曇り空もいけなかった?
冷たい風には注意。
曇り空にも注意。
そこに潜んでいた危険は
予定の時間より早く向かうスーパーへの途中に
立ち止まって話をした橋の上。
明日が晴れならここから夕焼けが見えるのにな、とか
二人でダブルスを組んだ練習試合は
もうあといくつか連勝記録を作れたかもしれないのにな、とか
私と組むと練習になるからって、ダブルスを希望する子が多かったのに
せっかくの試合なんだから
本気でやってみたくて……
やっぱり男が参加するのは
体力的にちょっと差ができてしまったな? とか。
私だったらオマエと互角だから気にならないって
いつもの気分で引っ張り出してしまったら
普通の女子が相手なら、厳しい試合になってしまって
やっぱり、私は男なのかもしれないと疑われるくらいだから
そういう細かいことはわからないのかな。
自分が本当は男なのだろうかっていうのは
帰ってきてから立夏に不思議そうにぺたぺたされたあとで
今になって考えたこと。
だからこの日記を読んだオマエと
次の買い出しに、同じ橋を通るとき
他に話すことがなかったら
ひょっとして話題になるかもしれない
共犯者たちの、悪だくみの相談
あの時、二人で見た寒そうな曇り空に
冬の兆しを感じて
ぬくもりが欲しくて早く家に帰りたい気持ちなのか。
小さい頃、まだ遊んでいたかった夕暮れに
もしもオマエが私の隣にいたら
今、青空たちが無茶を言うみたいに
お兄ちゃんなら何でもできるから
太陽くらいひょいって力で引っ張りあげて
まだまだ外で遊んでいさせて、
なんてことを言い出すかもしれない。
もう、すっかり大きくなったつもりだったのに
こんな物足りない日の夕暮れには
オマエならできるかもしれないと思ってしまった
いつもより暗い夕方を二人で見つめた、橋の上。
だから、冬の新商品なんて書いてあるチョコレートを
みんなで分けようって言い訳をして買い込んでしまったのは
暮れるのが早い季節の夕暮れがいけないんだと思う。
これからやって来る冷たい時期を乗り越える準備としては
だいぶ予算オーバーだったかな。
冬が来ても、オマエといられるはずだから
二人で一緒に選んで
お菓子をいっぱい抱えて帰って
喜ぶみんなも楽しくいられたら、
と考えていたような
何も考えていなかったような。
やりくり上手の得意なお嫁さんにはなれそうな気がしないまま
大きくなってしまったのか
これでもまだ子供なのかは、私にはわからない。
ともかく、次の大事な買い出しに備えて
チラシのチェックと
献立の相談。
予算オーバーのツケを払うまでは忙しくなりそうだけど
オマエも同罪なんだから
しばらくはよろしく。
これからもずっと
寒さが増してきても
いつも隣に引っ張ってきて
頼りにしてしまいそうな気がしているよ。