氷柱

『節操なし』
まるっきり何も考えていないみたいな
頭の中を空っぽにしてばかさわぎをするだけの
本来の存在意義を完全に見失った
名前だけのハロウィンパーティーもどきが
ようやく、すがすがしいことに
きれいさっぱり終わってくれたわ。
星の降る夜が過ぎ去って
魔法を失ったコスプレ衣装は
しばらくはもう、暗がりでひとりでに踊りだしたりすることもなく
クローゼットの奥に押し込まれて
また来年。
当分は、頭が痛くなるような
想像力豊かな衣装を目にしなくても済むわ。
片づけが済んでしまって
あとを濁さない、のはいいけれど
いつもより少しストックが多いおやつの棚だけは
おなかの限界を超えて食べ過ぎる子があらわれないように
ちょっと気をつけておくほうがいいかもね。
自分の体が必要としているエネルギーくらい
考えればわかりそうなものなのに。
歌と踊りを求めて
狙いを定めて、ここぞとばかりに機会を見つける
とにかく名目を決めて騒げたら
ハロウィンだろうとなんだろうとかまわないような
原始的なお祭りの観念にとことん忠実なタイプの人なら
きっとマンモスを狩っていた頃の記録を忘れられないで
獲物がとれなくなるおそれを抱いて
食べられるときに食べておかないといけない気がしてしまうのかもね。
でも、それを言ったら
厳しい冬の寒さに備えると
秋のおいしい収穫を必要以上におなかに詰め込むのは
単に自分に言い訳をしてごまかす意志の弱さばかりではなく
人類が狩猟民族だった名残も原因にあるのかもしれないわね。
本気で言ってるわけじゃないから
こんな変な理屈をよそで使わないようにね。
下僕の頭ではおそらく使いこなせない、
ほどほどに知性的な冗談だと思うから。
まあ、いいのよ。
私もこの時期は
日に日に増していく寒さを実感して
一時的に動物的な食の本能が蘇えるのか、
秋の味覚が食卓から転がり落ちそうになるくらい
春風姉様たちが斜め上の方向に盛り上がっても
大目に見ておこうと考える気持ちの余裕はあるの。
寒くなる季節だもんね。
お菓子の食べすぎは良くないけど
ちゃんと反省するなら
私が細かいことを言わなくたっていい。
うっかり食べ盛りがおやつを取りすぎて
自分の分がなくなって泣いてしまう子が出たら
誰も、悪気で食べ過ぎているわけじゃない
こんな寒くなる時期だから
足りなくなった分は私が譲ればいいだけで
暖かくして仲良く過ごしていれば
小さい子たちだって
それが一番いいはずだわ。
別にいつも私が押さえつけてばかりじゃなくても。
っていうか、最初から好きでうるさくしているわけじゃないし
本当なら自分たちだけでやればできるはずの自己管理は
本当に幼い子でもなければ
何も口出ししないで
任せておいてもうまく回るのが一番なのよ。
お菓子がいつもより多いからって
食べ過ぎたら反省するくらいの知恵は
今日の様子を見ていたらあるみたいだから
私が何もする必要は……
やっぱり、少しだけはまあ……
ううん。
歯切れが悪いのはなんとなく気に入らないから
やっぱり、明日は何も言わないことに決めた。
私だってすることはいっぱいあるもの。
ハロウィンだかなんだかわからなくなった妙なお祭りも
ちゃんと自分たちでお菓子を管理する習慣を育てるきっかけになるなら
恥ずかしくてやけになった記憶を忘れようとするだけの日じゃない
多少は意味のあるイベントになるのかもね。
まあ、ハロウィン本来の意味はどこにもないとしても。
そんなのはもう言っても仕方ないわ。
もともとの意味なんて忘れられて
いいように解釈されて取り入れられる風習なんて
ハロウィンなんてかわいいほうで
もっとひどいのが、あとふたつくらいあるもんね。
そのうちの
日本で二番目に誤解されているお祭りの気配が
うっとおしいコスプレ祭りがようやく終わった、と思ったら
秋らしい装いの街中からかぼちゃおばけがすっかり姿を消した隙間に
粉雪の絵に混じって現れだした
緑色をしたヒイラギと
赤いサンタの服。
見事な瞬発力というか。
変わり身が早いというか。
それ以上に
日本で一番ひどい誤解を受けているイベントなんて
もう、存在自体を忘れてしまうことに決めたから。
きっと、クリスマスはこの冬いちばん
我が家がまた盛り上がることになる日。
想像すると面倒くさいけど
これが終わったら、少しずつでも春に近づく区切りだと思って
前向きに受け入れて
少しは楽しもうと努力してみるわ。
ハロウィンなんかよりは
妙な解釈をされていても、まだましだと思うから。