海晴

『プレゼント』
10月になって
そろそろ街中で見かけるのは
来年のカレンダー。
もうそんな季節!
急いで用意しなきゃ!
いそいそと選びはじめて
ほくほく家に持ち帰って、びっくりされる長女がいるのも毎年の光景。
こういうあわてんぼうを見込んで
お店は並べ始めるのね。
と思ったら、どうも氷柱ちゃんの意見では
まだお店に並ぶ候補を選ぶ段階で、そんなに今すぐ買わないものなんだ、
だって。
そんな氷柱ちゃんだって
ずらっと色とりどりの列が並んでいるのを見たら、
ついお気に入りを探してしまうはずなんだからね。
きっと。
とりあえず今日、ひとつ選んでみたのは
まずは無難な、景色の写真から、かな。
季節を伝える花模様。
カレンダーをめくるたびに、次の季節の到来を伝える花が咲く。
広がる新しい色あいが
鮮やかに目に飛び込んで来たらすぐ、
心は明日に向けて準備を始めていくの。
これなら、どこに飾っても困らないもんね。
来年になって、自分用のカレンダーを買い忘れたうっかり屋さんがいたら
はい、どうぞ。
いつでも目の前に、ぽんと差し出してあげられるもんね。
そしたらお姉ちゃんの評価もうなぎのぼり。
うわあー、さっすが!
危なく自分の部屋にカレンダーなしで新年を迎えるところだった!
命からがらのところを助けてくれるお姉ちゃん、
大好き!
って。
実際そういうことがあるのかと考えたら
カレンダーがないくらいでそこまで困るかというと
まあ、ないならないで
これがなかったら新年を迎えられない、というものでもないけど。
日付が気になったら
毎日やってくる場所に、リビングにもどこにでもカレンダーはあるんだし。
でも足りないよりは余るほうがいいか。
うんうん。
衝動買いじゃないよ。
役に立つかもしれないもの!
一応、今日選んだのは普通の絵柄だけど
これからみんなが自分の好みで選び始めたら
いざ飾ってみたときに
なんでこんな突飛なものを?
って首をひねっている子も、毎年一人くらいはいるもんね。
そんなときには
はい!
どんな毎日にも調和する
さわやかな朝を約束するお天気お姉さんに似た
素敵なスタイルの美人なカレンダーで
安心のお正月を迎えてね。
って、さっきは無難って言っちゃってたか。
まあともかく
きれいなカレンダーならあっても困らないものだから
キミも、自分の部屋に飾るカレンダーに迷ったら
一緒に買いに行こうね!
え? このカレンダーはどうするのかって
だって、大事な弟くんの毎日につながるカレンダーなら
腕によりをかけて選びたいじゃない?
目が覚めたらまず一番に私のことを思い出してほしいじゃない?
カレンダーひとつそどこまで願いかかなうかわからないけれど
好きな人に見てもらうんだから
思いを込めたいんだよ。
一緒にお買い物に行くのも楽しいし。
キミの好みを聞いてみたら
意外な面がわかるかもしれないし。
想像していると
カレンダーひとつで
夢がふくらむ!
それが、好きな人と暮らす日常。
だと思うの。
最近は買い出しのお手伝いも多いけど
手芸用品店についてきてもらっても、男の子はちょっと居心地が悪いんじゃないかと思って。
そうなの。
蛍ちゃんはまだあきらめていない、
というか
だいぶ熱が入っている、
というか
いっそう突き進んでいる、
と言ったらいいのか
今のところ、止まる気配がないのは間違いないわ。
いつもなら予算を考えて、ほどほどのところで収まる蛍ちゃんの趣味。
そうしたらその後は、手に入る布地でかわいく見せるほうに情熱を注いで
時には露出度を気にしないデザインに踏み込むようになるんだけど
今回は違うの。
いいのができたら事務所で使うよって
ママが言うものだから。
いくら蛍ちゃんの腕前でも、芸能界にはばたく実力なのかは今すぐわかるものじゃないけど。
やっぱりママも、自分の仕事に近いところでかわいい娘が盛り上がっていたら
それはうれしくなって舞い上がってしまうみたいで
さすがにドレスの材料を家族全員分そろえるには足りないんだけど
ハロウィンパーティ用に臨時予算を組んだらしいの。
蛍ちゃんのお小遣い一カ月分をまるまる進呈というんだから
気前がいいのかそうでもないのかはおいておくとして
やっぱり学生の身にとっては、おこづかいのやりくりは大切で
これはめったに考えられない驚きの展開。
特別のおこづかいを与える条件は
必ず、家族全員が楽しい日にすること。
それから、とってもいい作品ができたらママがもらいます。
テレビに使うかもしれない、だって。
それでもう
誰も止める人はいない! って感じで
蛍ちゃんがデザインをはじめていく。
どうやら今悩んでいる点は、
家族のひとりひとり
その子に一番に似合うデザインにしたい、って考えなので
他の誰かが着てテレビに使ってもらえるかどうかわからないよ、って
まだいいのができたわけでもないのに
気が早いんだから。
カレンダーも早いです、って
逆襲もしてきたり
蛍ちゃんも割と言うものだよね!
かわいいの。
そういえば、このごろはお店でもハロウィンの飾りを見かけることが多いね。
楽しみにしている人が今ここにいるから、注目してしまうのかもね。
カラフルなかぼちゃのおばけがのそのそ這い出す場所は
夜の墓地や悪い子がいるおうちばかりじゃなくて
どうやら、かわいい小物やお菓子のお店に多いかな?
ハロウィンの夜に、おばけが紛れ込みそうな仮面舞踏会を開催するのは
どうもそれらしい過ごし方なのかどうかよくわからないね?
蛍ちゃんの提案がどこまで通るかは
他の子の反応を見ていると、五分五分というくらいに見えるわ。
ドレスじゃなくてもいいんじゃないかな、といった意見もあったり
そもそもハロウィンの仮装そのものが納得いかない、
日本に馴染むような習慣じゃない、
と主張して完全に関わる気がない子も一部にいて。
楽しめるなら何でも楽しみたい派の勢力が
いったいどのように、消極的な子を引きずり込むか
腕の見せ所なのよね!
蛍ちゃんは、かわいい衣装のデザインを見たら
女の子ならきっと着てみたくなる、
氷柱ちゃんの意見も変わる、
と言うけれど
本当にそうなると思う?
私の意見としては、
蛍ちゃんが提案するみたいに
女の子が一生で一番かわいい日!
の、そのうちのひとつ!
みたいなウェディングドレス、にも全然負けない華やかなデザインを
みんなに似合うデザインでばっちり実現できるなら
それは私も一足早く花嫁さん気分になって
大好きな人に尽くしてあげたい、
とは思うし
いくら女の子いっぱいの家でも、全員まとめて
あなた一人のところにお嫁に行きます、みたいな夜は
なかなかないし
ハロウィンってそういうものなのか、便乗して別のイベントになりかけているのかはともかく
この機会を逃したら、人生で一番かわいい姿が全員そろう華やかな夜なんて
次はいつになるかわからないもんね。
これは、カレンダーを気にしてる場合じゃなかったかな?
来年の気配がまだまだ近づくその前に
もしかしたら、大切な日が訪れるかもしれないの。
なので、私はどちらかというと、蛍ちゃんには協力したいんだけど
かといって、縫い物がそんなに得意なほうではないし
実力派は春風ちゃんと、あとは未知数の小雨ちゃんしかいないとなると
いざとなったら出番も来るとしても
まだ今は、どこまで力になってあげられるか自信がないな。
今のところは言われたとおりに、お店をチェックしながら
地道な宣伝活動を行うくらいです。
というわけで
もし、家族のきれいな姿を見たい、
ここぞとばかりに見たい!
という気持ちになったら
今こそ、自分の意見を
男らしく伝える時が来たのかもしれないよ。
なんちゃって。
ううん、冗談みたいになってしまったけど
でも、本当にどんな時でも
どんな言葉でもいいんだよ。
私たちはいつでも待っています。
キミの素直な
本当の気持ちを。
それがたとえどんなものであっても
私たちは家族。
これからずっと愛し合いながら、長い時を重ねていく。
ちょっとした意見の違いがあっても、どんとこい! です。
ただ、全部を受け入れてもらえるかどうかは
キミの情熱次第かもしれないけど。
がんばって!
私も、せっかくの機会なんだから
キミの輝く姿を見たい気がします。
ドレスじゃなくてもいいよ。
たぶんタキシードかな?
蛍ちゃんの華やかなデザイン画の女の子たちの横に
ときどき立っている姿は
やっぱり、そうなのかな。
身長も
ヒカルちゃんと同じくらいで、ちょうどキミみたい。
でもこれって
まさか?
そうなったら、私としては競争率が下がるからいいのかしら?
というわけで、私の隣に立っているのはキミで決まりね。
ハロウィンだけじゃなくて
私の大切な日の全部を
誰より近くにいて、触れ合いながら
すぐ隣で分かち合ってくれる人は、たった一人だもの。
もう、決めてしまったんだよ。
その時はよろしくね!
特別な時間と、何事もないような当たり前の
そんな大切な日々と。
私の毎日に
いつも笑顔と声が届くくらい近くにいて、
素直な気持ちを伝えてください。
私はいつも
愛していると、本当の心の中を言葉にして──
変わらないこんな時間を
私たちはずっと続けていくと信じている。
だって、家族なんだもの。
理由はそれだけで十分よ。
明日も、明後日も
大切なこと、なんでもないこと、
キミに聞いてもらいたいことがいくつも増えていくんだと
私はもう、カレンダーの日付が来る前に
すっかり知っているんだよ。
海晴お姉ちゃんの
これだけは絶対当たる予報。
どうなるかまだわからないハロウィンの日も
まだずいぶん先のような来年も
これから先に何があっても
あなたはいつも、私たち家族に愛されているんだと
珍しく自信がある
必ず当たる予報だよ。
覚えておいてね。