『おてつだい』
私の学校は私立校。
通っている子も、お嬢様が
少しくらいならいないこともない。
別に大多数ではない。
それに、お金持ちといっても
いいところの育ちなら、むしろ厳しいおうちが多い。
習い事をして、家事一般を身につけて。
裁縫も料理も
私の家みたいに、人数が多い家では経済的だからではなく
将来立派に嫁いで行くための手習い。
親から押し付けられた習い事でいいのかしら?
クラスの友達は不満もないらしく、忙しそうに見えるけど楽しいみたいで
一緒に通えたらいいのに、って。
私は器用ではないんだけど、
わかってもらっていても、それでも。
友達といられたらうれしいだろう、とはその子の主張。
悪いところではないと言う。
花嫁修業の場。
そんな先のことはまだ分からない、
でも習い事は楽しい、とそんな意見もあるみたい。
学校ではなかなか学べない知識、
あまり接することのない世代の先生たちと親しくなる経験。
うまくできるようになるともちろんうれしいし、
同年代の違う学校の子もいるし。
でもそれは、
うまくいかなかったらどうなの?
と思ったんだけど。
そんなに誰とでもすぐ友達になれるわけじゃない、
とも。
だいいち何より、私は家の手伝いでやらされて
決して自分が得意な分野ではない、ということはうんざりするほどよく知っているんだし。
花嫁修業。
なんて名目で駆り出される家事の手伝い。
小さい子が多いから私はどちらかというと頼りになる手数の一人になっている。
19人姉妹の9番目としては、ぎりぎりのラインでお姉さん。
苦手でもやらなきゃ。
いつも逃げてばかりなんてこの家では許されないの。
私だって、そんなに苦手ばっかりあるほうではないわ。
お姉さんチームに数あわせで組み込まれて
はしっこに形だけぶら下がっているように思われたら困るの。
少しはわかってもらわないと。
いつまでも小さい子ではないんだということ。
もう家で任されている仕事も多いから
習い事までは難しいかな!
まあ、苦手だから断るというのも体裁が悪いし
少し見栄を張ってみたのは確かだけど
それ以上言わなくてもよくわかってる、
みたいな顔でにこにこしていたのは
やっぱり友達の目から見ても
家であんまり頼りにされているわけではないと自然に想像できるからなのか……
いえ、考えすぎよね。
他の人の目からどう見られているかなんて
いちいち気にしていたら日が暮れてしまう。
ただでさえ夜が早くなる時期だもの。
悩むより、やることは他にもっとあるわ。
ともかく学校の生徒たちの間で、結構おなじみの基本的な技能としては
針仕事もその一つ。
そういうわけで、蛍姉様のお手伝いに呼ばれて向かった手芸用品店で
店員さんも目ざとく制服に気がついて
あの学校の子なんだ!
これからごひいきに!
なんて想像以上に期待されてうろたえたのは
別に、私が苦手を意識して逃げ腰だったのが理由じゃなくて
学校の子にできる子が多いから店員さんの思い込みがあっただけ。
常連客の蛍姉様と一緒だったから
きっと教えてもらったらすぐ上達する、と保証してくれたのは
まったく信用できないとして。
一応、蛍姉様は私を連れて行く理由としては
既製品よりも家族の成長に合わせて作るほうが便利だから、
と、ある程度の技術をこれから身につけてもらえたらと考えているとのことでした。
小雨ちゃんができるくらいに、と言われても
私には無理だと思うけど。
自分にできるだけのことをする、というつもりでも
無駄にしてしまう布が増えるだけだとわかっているんだし。
これから寒くなる季節に向けてのお手伝い。
ずっしり重い覚悟を決めて
できないからとすぐに逃げないで。
何一つうまくいかないって簡単に予想できるのに
決して逃げることのできない挑戦。
もしも、少し上手になったら
やっぱり私でも、こういうお手伝いを楽しいと思えるようになるのかしら。
そんなあてにならない将来を想像しても何にもならないけどね。
だいたい、手伝うのはまあ仕方ないけれど
経済的だからとか、それぞれの子に似合う色や柄を選びやすいとか
もっともらしい説明の合間に挟まって
どんな服を着せてあげるのが夢だとか
クールな服ばっかりじゃなくて、新しい魅力も見つかるはずとか
蛍姉様の趣味でやりたいだけのことに
私まで巻き込まれているような……
応募を考えていたというラブライブの衣装募集も
あれもいい、これもかわいい、似合いそうなのがいっぱい、
そうだ! 自分で作って
世界で一番かわいい私たちの家族に着せてしまおう!
さすがに歌って踊るのは無理だとあきらめていた優雅なお姫様ドレスも
自宅で開催する予定の特別なハロウィンパーティーならぜんぜんOKだよ!
盛り上がってきている。
このままでは
きっと……
そう、止めるなら今のうちよ。
あなたの意見は蛍姉様も耳を傾けてくれるはず。
……
蛍姉様の妙な勢いに
押し流されてしまわないように気をつけてね。
相談を受けていた店員さんのあの笑顔は
微笑ましい小さな子を見守る
静かな慈愛に満ちていたような。
さて、秋から冬にかけて
ハロウィンはともかく、季節の服を用意するためにはたぶんお世話になる手芸のお店。
私も、せめてお使いくらいはこなせるように
お店に慣れておかなくちゃ。
店員さんが言うようなタイプの
小さなごひいきさんには、私はたぶんなれないとしても
でも、ちょっとは役に立つ買い出し要員くらいを目指して。
お針子として大成できるかは
あまり過剰な期待ができるとは思えないから。