文化祭1

昨日と比べて四時間くらい遅れて始めたので、つまり順調に進んだら月曜日の十一時くらいで文化祭は全員分になると思います。ところで内容がだんだん長くなってきている気がします。えーと……月曜日の日付のうちにはどうにかみたいな感覚でやってみるつもりです……まあやりたいことだけやってみたいだけです。

・麗
今日も良く晴れてよかったわね。
せめて雨でも降ってくれたら
行かなくてもいい理由ができたのにね。
姉様たちの学校で文化祭が行われる日。
日曜日なのにご苦労様。
わざわざ休日をつぶして見に来る人もいるっていうんだから酔狂だわ。
別に、私だって興味がないわけじゃないし
小雨ちゃんから吹雪ちゃんまでの年の子は生徒会印の食券も五枚もらって、
小さい子と分けて、どこのお店でも使っていいと言われているから
全然楽しみでもない、というわけでもない。
嫌だって言っても聞いてもらえないから
少しはいいところも見つけ出さなきゃ。
五枚の食券。
これで全部。
どうして普段から、家族ではなんでも素直に話をしたらいいって言うのに
学園祭なんて別に行きたくない、って本当のことを言ってもダメなの?
もういいわよ。
知ってるもの。
私たちの家は、こんなに家族が多いんだから
何より大事なのはみんなが仲良くできること。
けんかをしても泣かされてしまっても
いつも一緒なんだと、お互いを思うこと。
きょうだい仲良く、がルール。
わかってます。
本当は、私がどうしても嫌だと言えば
文化祭の一日がみんなの特別な日でも
人生に関わる大問題とも違うのだから。
行かなくてもかまわないって
本気で嫌だと伝えれば、海晴姉様もわかってくれる。
でも、小雨ちゃんと星花ちゃんの二人くらいしか頼りにならないのに
わんぱくな小さい子たちの引率を全部任せるなんてできないから。
嫌なことから逃げるのだって気に入らない。
本当に嫌なことだったら……
どうしても絶対に許せなかったら……
あなたはもし、ずっと昔の私がもう少し自分の気持ちを話すことができていたら
この家から出て行ったの?
でも、家族がいてほしいって話になったんだもの。
一緒がいいって言っているんだもんね。
文化祭のことよ。
楽しみにして待っているって。
氷柱姉様だけは、劇は見に来なくていいって主張していたけど。
どうしても見たいなら仕方ないって最後にはすっかり妥協もしていたけど。
実際は、学校に家族が来たら恥ずかしいものなんじゃないの?
私はみんなが運動会に来たときはそうだったけど?
気は進まないけど、
でも誘ってくれたんだから。
少しは打算もあるのは知ってる。
この機会に将来通うかもしれない学校に慣れておいたらいい、くらいならともかく
単にお客さんが多ければうれしいだけかもしれないし
もしもの時は、家族だから気兼ねなくお手伝いを頼めるとか
食券と一緒に渡されて、外さないで歩くようにと言われたのが
赤と白のストライプの目立つ色合いでできた
生徒会役員の文字がある腕章に
セロハンテープで簡単に貼り付けた紙の
案内・迷子誘導お手伝い係。
いいように使われそうなのはわかっている。
確かに毎年行ってるから学校の構造は少しなら知ってるわ。
もしも案内で困ったことがあったらどんどん他の生徒に頼っていいって言われたし。
億劫になる理由はいっぱいある。
まあ、年に一度のことだし。
この際、もらった食券で元がとれるかわからないけど
基本的に今日は小さい子の引率のついでと思って
もう何もかも面倒くさい仕事はまとめて任される覚悟を決めたわ。
少しは楽しめるといいけど。
一応、四時には小学生以下の子は揃って帰宅。
それまでは付き合います。
最後の大イベントってうるさいミスコンとキャンプファイヤーまで残らないでいいのは助かるわ。
霙姉様は、私なら特別にミスコンに出てもいい順位に食い込めるんじゃないかって言うけど
でも、家に帰る時間は守らないとね。
ルールはルール。
ミスコンとやらは辞退させていただきます。
私が木花に入学する頃になったら、帰宅時間の理由では断れなくなるか。
そのくらいまでには別の言い訳を考えておくわ。
今からこの学校に進むって決まったわけじゃないけどね。
もし仮に、今日の学園祭がそんなに嫌なことばかりじゃなかったとしても
一日くらいのことでは決め手にはならないから。
ほんの短い今日だけのこと。
だから私も
たった一日くらいなら、うんざりするお祭り騒ぎも我慢するわ。

・氷柱
文化祭の開会式なんて形式的なものがあっさり済んだらすぐ
私たちのクラスも、体育館ステージで劇を演じて
ばたばたしたスケジュールも、なんとかこなしたわ。
なんで文化祭ってこんなに開会式が形だけなんだろう。
あってもなくてもいいことを仕方なく、みたいな。
もう体育館に集まった生徒みんな、この日のために準備してきたことをついにって
ぎらぎらしているから、誰も大人しく開会式なんてやっていられないのかもね。
さて、聞くまでもないけど
どうだった?
ご主人様の勇姿に言葉も出なかった?
そうでしょう。
やっぱりね。
あ、それだけよ。
劇の話はもういいから。
この素敵なご主人様が、これから文化祭を一緒に回ってあげると言うんだから
あなたは幸せ者よね。
なに、おばけ屋敷
あなたは一生首輪をつながれている犬なんだから、主人のほうが大事に決まってるでしょ。
下僕でも連れまわしていれば
少しは気が晴れるかもしれないし。
ええ、劇はうまくいったわよ。
何一つ問題なく。
文化祭の劇は片づけまでがひとつの仕事。
全員で協力して、大道具小道具を教室に運び込んで
最後に隣で模擬店をするクラスに注文しておいた飲み物が行き渡ったら
全員で成功を喜び合い、これで私たちの青春の学園祭も、
今年はもうクラス発表は終わり。
後は自由行動。
暇じゃないし、誘ってくれる友達もいるけど、優しいご主人様は下僕と一緒にいてあげるわ。
というか、ついてきて私の言うことを何でも聞いて
全部忘れることに協力しなさい。
もちろん、このあと小さい子と合流するけど
それまでは何も文句を言わず付き従うように。
いつまでもこんな気分で学園祭を歩くつもりなんてないから。
立夏のネタバレで先に知らされたサプライズ計画。
考えたけど、本番間近になって配役の変更はさすがに無理だからって言ったら
そうだよね、練習どおりが確実だよね、
氷柱ちゃんは意外と急な事態に弱いもんね、だって。
どういうこと?
別に私は、苦手だから嫌だというつもりじゃないの。
ただ、普通に考えたら今までどおりが無難というだけで
やろうと思えばできないわけないじゃない。
ちゃんと説明したのに
それでも疑って、本当に? 無理だよ、なんてしつこいから
なんなら、実際に演じて証明してもいい。
いきなり配役の変更?
お姫様役?
やってやろうじゃないの。
そこまで言われて引き下がれるものですか。
この天使氷柱に不可能なんてありえないわ。
よく見ておきなさい!
って。
……
劇は完璧だったでしょ?
ただ、後で考えたら
うまく乗せられたような
まんまと策にはめられたような
そんな気が少しだけしないでもない……
ええ、きっと考えすぎよね。
さすが氷柱ちゃんだって大評判だったし。
最初の予定とは違ったけど
とても自分が演じるとは思わなかった、愛を長々と伝える恥ずかしいお姫様役も
なんなくこなせる自分の才能が怖いくらいだわ。
それだけ。
いいわね。
もう、この話はおしまいよ。
あなたのご主人様の恐るべき才能に対する畏怖だけを心に刻んで残しておけばいいの。
劇の内容なんてもうすっかり忘れてしまったわね?
ほら。
私が行くというんだから、黙ってついてくればいいの。
あの劇の内容は、
全部お芝居だから。
誰かに伝えたかったわけじゃない。
私なら、ぜんぶ想像だけで完璧な脚本を作れるの。
好きになった人がいるからなんだ、
王子様のモデルもすぐわかったよ、って
クラスの友達はみんな節穴の目をしているわ。
いったいどこの誰がこんな人を好きになるっていうの。
そんなわけないって
あなたもちゃんとわかってるでしょう?