星花

『形から』
格好は、トランプの兵隊。
廊下の向こうから列を作って、
列はきちんとまっすぐにはなかなかならないけど
小さい子にできる精一杯で。
ぴしっと背筋をまっすぐ伸ばして
今日は、自分たちが童話の登場人物のつもりで
楽しそうに声を出してなりきり遊び。
右足、左足の順番も
ちっとも足並みが揃っていなくたって。
マリーちゃんの女王の王冠は
いくら胸を張って姿勢よく歩いていても、急いで作った紙製だから
バランスはいまひとつで、手を添えて直し直し
なかなか位置が決まらなくたって。
着替えてその気になった瞬間にもう、新しいことがはじまっている。
蛍お姉ちゃんのクラスでは
学園祭の出し物は占い。
と、簡単に説明してしまうと
ありがたみがないみたいと蛍お姉ちゃんが首をひねるので
神秘の魔術!
世界各国に古くから伝承された秘法で
未来を目の前に見る、
その名も耳にとどろく
占いの館!
とか大きく出てみたら
今度は星花たちのほうで
蛍お姉ちゃんが?
謎のあやしい術を?
ふんわり優しい笑顔で
南の方角が吉です!
それも、神秘的かなあとちょっと迷っている。
なかなか落としどころが難しい、
初挑戦のわからないことだらけ。
トランプの兵隊の衣装を試作してみても
かわいいのは問題なしとして
確かに不思議の国だけど、これは秘密の魔法っぽい?
元気な行進を応援してあげたり、よくできたねって抱っこしたくなったりしながら
ちょっと占いの館とは方向が違うような、と
グリフォンの着ぐるみを作る前に気がついたのでほっとしている蛍お姉ちゃんです。
魔法使いなら、だぶだぶガウンと三角帽子に星の付いた杖。
すごい力を持つ女占い師のイメージになると、エジプト風の魔術師みたいに薄着っぽい感じかな。
ベリーダンスのように、どこか秘密めいた外見で
妖艶な身のこなしが似合いそうな
闇の奥から現れ、闇に溶け込む魔女。
夜の星空から降りてきそうな謎めく乙女です。
なぜかちょっとだけ
スタイルがすごく良さそうなイメージも。
蛍お姉ちゃん、
そんなに怪しい占い師になれそうだと思う?
でも、ちっちゃい子たちが着ただけで
普段の日常とはなんとなく違う景色。
いざとなれば着てみれば意外と、占い師らしく見えるようになる?
蛍お姉ちゃんも真剣に水晶玉を見つめてうつむいて
優しく微笑む表情も、黒い瞳の奥に深い謎をたたえているんです。
ちょっとすてきな気もしますね。
でも、今のところは試行錯誤の段階みたいで
星花にも何かそれっぽい衣装で希望があったら作ってくれるって。
9月も終わりになるとおそらく風も秋めいてきて、薄着は厳しくなるかもしれない。
いろいろアイデアを出してクラスで話し合っていくんだそうです。
うーん、もしかしたら星花も着るものによっては
だいぶ神秘的な美女に……ならないかもですけど……
本当は蛍お姉ちゃんは、わりと普通の占い師のイメージよりも
どちらかというと、ここだけの特別、
自分が一番自信を持って似合っていると言える
せめて気分だけは世界一かわいい占い師になりきりたい、とのこと。
お兄ちゃんが来てくれるかもしれないんだから、
大事なこれからの運命を占ってしまうなら
これと決めた一番の
全身全霊をかけて挑まねば!
やるぞ!
という熱い気合の掛け声。
むむ、これは……
学園祭って燃える内容がいっぱいあるみたいで、なんとなくうらやましい!
もしかしたら、星花だってちゃんとした占い師の衣装をしたら
ちょっとでも学園祭気分を分けてもらえたりする?
まだまだもう少しお姉さんになるまでの楽しそうな学園祭だけど
ちらりと自分も体験しているみたいな
そんな気分になれる瞬間が
思い切った占い師の服に挑戦してみたら、もしかして。
星花でも、夜空の星みたいにきらきらと神秘的に
深い知性をたたえて、困っている人を助けてあげられるような奇跡の魔術。
というか、この想像だと星花はどんな占いをしている設定なんだろう?
水晶玉もたぶん何も見えてこないと思うし
トランプ占いも、ちょっとしてもらうことがあってもあんまり覚えていないし……
深みのある言葉を届ける静かで落ち着いた人の魅力も身につけたいけど
とにかく尊敬する人を守るために
ぶつかっていく勇気がある人になれたらかっこいい気もします。
アチョー!
まだ学園祭の日でもないし
自分が参加するわけでもないのに熱くなっちゃった?
本番の日がやってきたら
見に行くだけの星花がいちばん盛り上がってしまっても許してね。
お兄ちゃんたちの学園祭を、
星花も楽しみにしています!