ヒカル

『ぼーっと』
連休の最終日は
特にすることもなく。
ゆったりと。
なんとなく手持ち無沙汰に。
言い方を変えたら
これはたぶん
かなり暇なんだろう。
このままでは
うとうとするかもしれない、
なんて思いながら。
まあいいか、休日なんだし
のんびり過ごしても。
明日からは学園祭の準備も本格的になるだろう。
キッチンでも、春風と蛍が並んで
海晴姉も小雨も、教えたり教わったり
くるくる立場が変わって面白そうに笑う声。
休日を利用して普段なかなかできない挑戦をして
湯船に入るときは変に気にして
そんなに食べ過ぎていない、
太ってないから、
お湯がこぼれないのが証拠だから大丈夫、と
こわごわ体を沈めて
いつもの量のお湯がなみなみ
ぎりぎりのふちにとどまって、ほっと一安心したところで
後を追いかけて、どぼんと子供たち。
体育祭も近いから、春風たちが体を動かす機会も多くなるし
そうなったら私も練習に付き合って忙しくなる。
体型なんて何も気にするようなことではないと思うけど
いつもより多く体を動かしたいのなら
これがぴったりのチャンス。
海晴姉も、体を動かしたいからたまに参加して
笛を響かせ大きく掛け声を出して指導するのが好きで
運動をしているのか何なのかわからなくなってしまう。
たぶんその先生役は、練習が始まる前は私に期待されていたんだけど
たいていの場合、みんなと一緒になって走ってしまって
後ろに誰もついてこないのに気がつくのは、みんなが疲れきって動けなくなった頃。
練習後にマッサージしてあげながら
よくがんばったな、
またやろう!
と声をかけても、慌てる顔が返事に帰ってくるだけ。
私はあんまり人を教える才能がないのかな?
少し考えたりもして
まあ、難しく悩むのは苦手だから
才能がないならないで、そういうものだと思って
仕方ないか、で済ませるいつもの短い考えごと。
今度は少しみんなに合わせて練習しようかな、とか
ときどき考えたって、どうせ動き出したらみんな忘れてしまうし
まあいいや。
そんなふうにしている毎年のこと。
たぶん今年も、思いっきり体を動かす時期。
もうそろそろ本格的に準備が始まるんだ。
こんなに暇でいられるのも今のうちだけだから
別にいいのかな。
急ぐ用事なんてひとつも思いつかないままの時間に
どっぷりつかって
手足をいっぱいに伸ばして
猫が背伸びするみたいにのどかな気分も
今日くらいだから。
ちょっと前の夏休みの間も暇だったけど
あれは毎日、探せばいくらでもやりたいことが見つかって
もったいなくてぼんやりとしてなんかいられなくて
すぐにオマエの手を引っ張って、走り出していた。
よく付き合ってもらっていたっけ。
他にちょうどいい相手が誰もいなくて
私が走り出したら、ついてきてくれるのはオマエくらいしかいないし
やっぱり、気がついたら自分ひとりで
他に誰も動けそうにないなんて寂しいから。
オマエなら、いつだって来てくれるし。
息が上がっても、疲れが顔に出ていても
そうそうへたりこんだりしないで
思いっきり私が走っている横に
すぐ追いついてきて、へとへとの顔でも楽しそうに笑っている。
やっぱり、負けるのが好きじゃないからなのかな。
相当、根性があるってことだろうか。
それとも、いつも顔を合わせたときに二人とも自然に浮かぶ笑顔みたいに
オマエも私と同じように
一緒に走るのが楽しいと思ってくれているのかな。
また今年も練習の時は
隣を走ってくれるのは、いつもオマエだけだと思うから。
いつも全力で走るから、ついてきて。
追いかけたり、追い抜かれたり
もしオマエが追い抜いていくようなら、私だってすぐに追い越してやる。
なるべく誘うようにするよ。
今年もせいいっぱい練習しよう。
体育祭も同じチーム。
私たち二人の活躍で勝利をもぎとってやるんだ。
なんだかこんな話をしていたら
明日からはじまる、じゃなくて
もう今日のうちにもオマエを誘って走ればよかったな。
考えるのが苦手だから
いいアイデアはたいていの場合、後になってから思い浮かぶんだ。
いや、後になっても特に何も思いつかないで
春風からせっかくヒカルちゃんは運動神経がいいのに
もったいないねって言われることのほうがずっと多いけど
まあそんなことはいいんだ。
悩むのが苦手なら
後悔とか、もったいないとかも何も考えないで
今できることをやるだけなんだ。
まだクラスの全員が集まるまとまった練習じゃなくて
自主的な活動だけど
あ、体育ではクラスで練習もするけど
放課後に集まって、校庭や体育館を借りるのは希望した生徒だけになるとして。
とにかく明日には体育祭の種目が発表されるから
全校で一気に盛り上がるだろうな。
本当は、文化祭の準備も必要なんだけど
昨日の図書館で慣れない調べ物をして疲れたのが
やけにのんびりしてしまった原因なのかな。
悪いけど、そっちはオマエに任せるよ。
頼ってばかりだけど
もし手伝えることがあったらいつでも言って。
オマエくらい頼りにできるやつは他にいないんだ。