『テレビ』
なぜかあさひが釘付け。
画面の奥から遠い距離をだんだん近づいてくる車両だとか
青い空と緑の地上を細長く切り分けて伸びていくレールの上を走る
力強い姿とかが映るたびに
待ってましたと届けるみたいに
きゃっきゃとはしゃいでいる。
何かきっかけがあったの?
やっぱり家族旅行で乗ったから?
そんなにはしゃいでいたかな。
どちらかというと、旅行先でも家に帰ってきても
森の中からセミが鳴く声がミンミン聞こえてくるとうれしそうだったけど。
電車の中ではお姉ちゃんに甘えたり普通にしていたけど、
実はあの時の揺れる音と流れる景色が、ひそかにお気に入りだったのかも。
私も小さい頃は、こんなに全身で喜んでいた?
今にも飛びつきたくなるくらいに。
まさか、それはないか。
小さい頃はあまり鉄道の情報に触れる場面は多くなかったはずだし。
こうして、録画した映像や、クリスマスの贈り物にお願いしたDVDだとか
そんなになかったと思う。
たまに偶然見かける線路沿いの出会いがあると
そんな時間があまりに特別で、どうすればいいのかわからず立ちすくんでしまう。
喜んで声を出すなんてことは知らず、息をするのも忘れたようになって
向こうは何も気づかないまま言ってしまう遠い姿を、じっと見つめている。
自分の体が自分のものでなくなったように、動けなくなる。
目を吸い寄せられてそれきり、離れることなんて思いもよらない。
こんなふうに気持ちを体で表現するのは不可能だった、
忘れたくない一瞬をなくさないように大事に胸に抱えていようとした幼い頃。
今よりずっと臆病で、大切なものが身近になくて
こぼれそうになるまでこらえた涙と一緒にいた、よちよち歩きで踏み出した時期のこと。
好きなものに囲まれているなら、あーちゃんはあの時の私よりも少し幸せなのかな。
なんて考えていたら、海晴姉様が言うには、
こんなにはしゃいで昔の麗ちゃんにそっくりだね、だって。
昔の私はたぶん、こんなに全身を使って大げさな動きをしたりはしなかったと思うけど。
あーちゃんが呼ばれたみたいにやって来たのは
少し暇ができた忙しい小学生の夕方。
新学期になってだいぶ経って、戻ってきた日常にも体が馴染んできたけど
私立だからなのか、夏休み明けに宿題で身に着いたか実力を見る試験が続いて
別に、私だってさぼっていたわけじゃないから普通にできるし
力を発揮する場面が多いのはかまわないけど。
もうすぐ小学校の生徒会長選挙もあってざわざわしているのもあって
ちょっとのんびりする時間もほしいかな、と
ふとつぶやいたら、氷柱姉様に子供っぽくない悩みだと笑われたりする今日。
氷柱姉様だって、私くらいの頃は机に向かってときどき伸びをして
あんまり子供らしくもない場面だってよく見たのに。
木花の特進クラスを目指して、宿題だけじゃなく教科書を開いて
私も氷柱姉様くらいの年になったら、
あんなふうに真剣に追いかける目標が出来るものなのかな? って
少し遠くからのぞいてどきどきしていた。
ふう!
今は、自分で望んで忙しいわけじゃないんだけど!
なんだか生徒会長選挙も、今まで経験してきた人のほうがいいはずなのに
そういう人を補佐にして会長は学校を元気にする人を、とかそんな話も出ている。
小学校の生徒会くらいで学校に貢献できることなんて別にないと思うわ。
遠足の行き先や移動手段を決めていいと言うわけではないって聞いたし。
そういうのが無理なら興味ない、と断っても
なぜかまだ誘われるし……
というわけで、ちょうどいい具合に今週末は三連休。
春風姉様はみんなでどこか良さそうなところにでもおでかけできたらって
曖昧な希望があるみたい。
でも、たまにはゆっくりしてもいいと思うわ。
連休はお気に入りの録画を見直す時間を作ってもいいと思うから。
自由研究に提出したのは、小雨ちゃんと育てた緑のカーテンのゴーヤ観察記録だけど。
夏休みの間から、空想の旅行計画を綿密に立てていたら
あんまり緻密な書き込みに見えたらしくて
一緒に宿題を白夕凪ちゃんたちは、こっちを提出するものだと思っていたみたいで、
関係ないって言ったら驚かれたけど。
吹雪ちゃんも、これは誰にでも書けるものではないから
見てもらえばよかったのに、って。
いや、このくらい少し経験があれば簡単だから。
それはまあ、時間はかかったけど
そんなに大変な苦労をしたというものでもないから。
苦労と言ったら
日記!
この日記!
まだあなたに伝えることなんてあるのかと言ったら
それはまあ、いざ書くとなればいろいろあるものだし
なんでもいいから伝えてもらえればうれしいなんてあなたは言うし
でも、なんとなく気ぜわしいときまで書くことになるとね。
まあ家族の決まりだから
とりあえず今日は録画した分を眺めながら、なんとかここまで。
終了!
あとは、しばらく一人にしておいて。
あーちゃんはまあ、仕方ないからいてもいいけど。
もしもあなたがまだ物足りなくて話をしてもらいたいなら
私も話がないわけではないし
連休に時間をかけてみる予定のお気に入りの場面とか
あーちゃんがずいぶん喜んで大騒ぎだし、
これ以上興奮してうるさくする人が増えるわけじゃないと約束するなら
隣に座って静かに見ているくらいなら許してあげるけど。