観月

『残暑』
今日は暑い日になった。
汗をかきかき帰ってきて
マリー姉じゃとさくらと話して
今日はお洗濯をしてもらえるであろうか?
であるならばお手伝いをせねば、
家ではいい子で待っている虹子たちもいるし
帰ったら、幼稚園で教えてもらったおゆうぎで
いっぱい遊んであげなくては。
と。
さくらも、いい天気に晴れたら
すっかり機嫌がいいらしく
昨日あんなに泣いていたのも忘れたように
遊んであげなきゃ!
足取りも軽い帰り道。
自分より小さい妹がいたら、しっかりせねばと気合が入るのか。
お手伝いもして、お子守もして
さくらのかわいい妹たちにいいところを見せたくて。
いっしょにおやつを食べてあげながら
こぼしていたらふいてあげる! と
自分の服からぽろぽろこぼれる食べかすも忘れて。
虹子も青空も、元気な声でありがとうを言ってくれるし
あさひもあっばばーと言ってくれるし
こんなにお姉ちゃんらしくなったのは
せっかくの月だからと、夜更けまで根気強く曇り空を見上げて
付き合ってくれた兄じゃに
さくらも何か思うところがあったのか。
みんなが帰ってきたときのお洗濯待ちの
汗まみれのスモックを脱いで
見つけたのは
おやつは冷蔵庫の中です、
帰りは遅くなるから仲良く食べてね、の書置き。
お手伝いでいいところを見せたかったようだが
そのあとも妹の世話をしてくれた、よいお姉ちゃんのさくら。
明日のスモックのお着替えは夜に用意するね、という書置きの
おしまいのほうにあった短い追伸は
蛍姉じゃの占い。
今日のみんなの運勢に
水晶玉が映し出したのは
なかなかの中吉。
ラッキーアイテムはおいも。
南の方角には注意が必要かも。
思いやりの気持ちに、運気を開く鍵あり。
みんなで楽しくおやつを食べたら
大吉です。
むむ。
なるほど。
いつの間に蛍姉じゃは
占いの技を身につけたのであろう。
水晶玉に未来を覗く、神秘の目。
長い時間をかけた祈祷なり
お天道様やありがたい神様たちを感じる修行によって
やがてそういった力を借りて
危険でもあり、
人には制御が難しい、
しかし人である限り求めている、神秘。
あんなに忙しそうにしている毎日に、
いったいいつ、これほどまでに。
うーむ。
やっぱり、大人のお姉さんは違うのかもしれぬ。
時間の使い方が、わらわでは思いもよらないほど。
それとも、生まれ持った力が意外と?
わらわが未熟で気がつかなかっただけで、
本当は巫女の才能が眠っていたなんてこともありえるのじゃ!
マリー姉じゃは、よく当たるようなら宮廷占い師のお仕事もできるかもと
期待しているよう。
そんな未来もまた、ありえる可能性なのか。
ふだんはみんなの笑顔を見たくて家事に大忙しの蛍姉じゃが見つけた
新しい可能性は
兄じゃとマリー姉じゃがお仕事をしているその横で
わらわと並んで、他の誰にも真似できない力で支える大事な役目。
と、いうか
二人並んでそれぞれ別々に占いをするなら
どちらか片方でかまわないような……
これはやっぱり
わらわも負けてはいない、と言っておくべきではないか?
おばけが出たときや
進む道にわずかに迷いがあったとき、
暗い雲の下を歩むようなときに
不思議な力に助けてほしい気持ちになったら
それは観月の役目だと真っ先に飛んできてもらいたいと思う。
わらわも、修行を積み重ねる力で。
おばけが出たりでみんなの役に立てそうなときも、まだ力不足を感じているであろう
長い修行の途中に間違いなくとも、
家族みなを守ってくれる神様たちへの祈りはいつまでも終わりがなく、
ずっと修行は終わることなく、それでも
わらわの力が必要になるときは
今あるだけの術を尽くすはず。
愛する家族のために
わらわも、何かしたいのじゃ。
喜んでもらいたくて
ついでに、ほめてほしいのじゃ!
わらわも占いは得意でな、
今日は兄じゃたちが帰ってくる前に占ったのは
プリンをこぼしすぎてあまり食べられなかったさくらも足りないようだったので
もうちょっと何かないかの?
筮竹を試していたら
そうそう、南の部屋の
立夏姉じゃがこの前しまっていた戸棚。
あそこにポテチがあったのじゃ!
と、思い出したのは
やはり占いによって霊感が得られたからだとわらわは考える。
兄じゃも、ちょっと小腹がすいたときなどは
まずわらわの占いを試してみるのも良いはず。
何も見つからなかったなら
おねだりも得意な小さい子。
姉じゃたちのところへみんなで走って
その時に、兄じゃがどんなエプロンを着ておやつ作りを手伝ったらいいのかも
わらわの目はたちまち見抜いてしまうのじゃ。