海晴

『9月』
今日は、ついたち。
そうなの、いよいよ9月になりました。
もちろん、8月が終わったあとなんだから当たり前だけど。
古い昔の暦では30日だったらしい8月は
この月の名前のもとになったアウグストゥスさんが
2月から1日をもらってきて31日にしてしまったせいで
短くなった2月は、お天気お姉さんの仕事も来年度に向けてやけにあわただしかったり
一方で、なんとかなるって後回しにした夏休みの宿題に焦っている子なら
もらったのは、涙が出るほどありがたい一日だったり。
こんなことで涙を出すのもちょっと! とは思うけど
それからもっとうれしい
夏休みにもう一日。
学生みんなが楽しみにしてる夏休み。
氷柱ちゃんは、もっと学校に通いたくて夏休みも補習に行ってたけど。
でもまあ、たいていの人は楽しみな長いお休み。
かんかん暑くって、
この季節だけのイベントがたくさんあって、
海に白く反射するまぶしい輝きと同じものが
きっと同じだと実感できるほど
ぎらぎら燃えながら
私たちのいるところにも降り注いでる。
まだ見たこともない体験がいっぱいやって来るような気がしていた
夏まっさかりで迎えたお休みの、8月。
最後の31日もついに過ぎて行って
夏だけに見つかるいろいろ、
そんな何かが起こりそうな予感にも
ギリギリまで引き伸ばして焦ってしまう宿題の山も
また来年。
今度また夏がやってくるときは
もう少し、計画的に過ごせるようになるのかな?
来年までと笑顔で約束して
別れていった季節に、次に出会うときに
私たちは、今年よりもっと楽しめるくらい成長している?
全部残さず楽しみつくした気がしていても
まだ少しもう何日かあったらと物足りない気分でも
まとめてみんなの8月は終わって
新学期を迎えるときが来た。
いつも通りの通学路を辿って、これから毎日顔を合わせる親しい人たちに挨拶して
慣れた日常に戻っていくのに
今度は、新しい秋を迎えるんだといつのまにか自分の中で決めたらしくて
次に起こる新しい何かを想像して胸がときめいている。
こんな感覚で迎える月の始まりなんて
9月だけの特別だよね。
10月が始まった、と言われたら
あ、おいしいものを食べているからちょっと運動する時期かな、と思うくらいだし
11月になったって
クリスマスとお正月の準備を始める街並みに
時間が過ぎるのは早いなーって感慨があるくらいだと思うし。
でも12月になったらちょっとわくわくしてくるかな。
今年はどんなクリスマスになるのかな、みたいな。
でもやっぱり、
夏休みがもうちょっとあったらなーなんて言いながら
でも本当は、なにかとにぎやかな毎日の生活に戻っていく感じと
学園祭や秋の味覚だとか、紅葉も、静かな夜のお月見だってあるし
夏休みとはまた違った、ちょっと大人っぽい時間を迎える期待。
もう、夏休みを楽しみにしている子供じゃないんだからね、とでも言ってしまいそうな。
夏休みはもちろん楽しかったけど
9月だからだよね、
この季節がやってきたな! という感覚。
私たちは、今年の秋も家族みんなで楽しく過ごせるかしら?
こんなに個性的な子がいっぱいいるんだから
わいわいちっとも黙ってなんていられない日が続くのは間違いなし。
いったい、どのくらいうるさくなるんだろう?
どれだけいっぱいの思い出ができるんだろう。
いつもにこにこばっかりはできなくて、ちょっと疲れたり、ずいぶん泣いたりもしながら
でもたぶん、みんなで一緒に過ごしている。
私たち家族の秋。
9月になって迎えた新学期のはじまり。
よーし!
一家の長女として、私もがんばるぞ!
夏休みにだれてしまって、なかなか規則正しい生活に戻れないなんて
そんな情けない妹たちがいたら
私がしっかりして、こんなふうにしたらいいって見せてあげなくちゃ。
もうお天気の仕事も始まっているから、9月になって区切りがあるわけでもないんだけど
そこは気分ということで。
みんなの頼れるお姉さんだってところを
たるみがちな夏休みのあと、まさにこの機会にばっちり見てもらわなくっちゃ。
と思っていたら
いきなりお天気は雨。
かなりの雨。
9月の始まりだからと気合を入れて選んだ服が……
きりっとした大人に見えるように時間をかけたおしゃれやお化粧が
音を立てて地面を打つ雨の路上を見つめていると
なんだかちょっとしおれていくよう。
気分の問題。
へこみがち。
なんだかいまひとつ
しゃきっとしなかった、9月の初仕事。
みんなにいいところを見せたかったのにー!
海晴お姉ちゃんが今日もきれいだから
僕もがんばれるよ、
と言ってもらえるかなと想像しながら
うきうきしながら開けた玄関の先に雨。
まあ、だいぶ音がして降ってるなとわかってはいたんだけど。
一日中、あめふりのでだし。
新しく迎えた大人っぽい季節の、すてきな予感に張り切るきれいなお姉さんは
今日のところはおあずけ!
弟くんも残念でしょ?
けどまあ、仕方ないか。
お天気だし。
張り切って歩幅も大きく踏み出そうとしたはじまりだけど
雨の日には、雨の過ごし方があるんだもの。
こんなお天気の時は、家族みんなの帰りも早いのはいいところ。
湿った裾をつまんで帰ってきても
家の中でまた泣き声がしている!
あらら、けんかしちゃったかな。
まったくしょうがないな、私がいなきゃだめなんだから。
なんてね。
いつまでも沈んだ気分でなんかいられないわよね。
ぜんぜんたいしたことない話で意地を張っている子たちに
大丈夫、どうしたらいいか知ってるよ、
お姉ちゃんもそんなふうに
みんなみたいに大騒ぎしながら成長してきたんだよ、
って言ってあげられる、
子供の頃から、家族のみんなと同じでいつも目の前のことに一生懸命で
小さなことで大声を出して泣いたり、もううるさいくらい笑ったりしてきたよ。
今も、ちょっと天気が悪いくらいでへこむけど
たぶんまだ、子供みたいに一生懸命なままだからなのかもしれないね。
でも今、ちょっとはお姉さんをしているの。
だからみんなも、泣いてしまってもいいんだよ。
私の妹なんだもの。これからきっと少しは立派なお姉さんになるよ。
弟くんは、もう立派なお兄ちゃんかな。
でもちょっとは頼ってね。
私の弟だから、泣きそうになったりすることがあっても
もっと今よりとっても優しくてかっこいいお兄ちゃんになれるんだよ。
困ったときはいつでも相談してください。
そういうことみんな、お姉ちゃんの楽しみなんだよ。
雨が降る日のうれしい特別は、
ちょっと早く帰ってきて余裕がある蛍ちゃんが、
じっくりおいしい紅茶をいれてくれること。
あったかくて、ふんわりして。
こんなにいいことがたくさんあるなら
きりっとした一歩を踏み出しそこねた9月や
雨の日のちょっとむくれてしまう早い帰宅も、全然悪いものじゃない気がします。