夕凪

『まいたけ』
8月も今日で終わり。
明日からは新学期。
最後に迎えたフィナーレが
町いっぱい染まったあたたかい明かりの色。
おまつりの張り紙やチラシには
去りゆく夏を惜しんで!
とか
納涼!
とか。
はたして終わるのか、まだ暑いのか
どっちだ?
とにかく、
夏休みの最終日に待っていたのは
町をあげてのお祭りの日。
こうなったらもう
いっぱいに楽しんでしまってもしょうがないじゃない?
だから、
昨日のうちに楽しみつくす勢いで
自分のおこづかいをついに使い切って
今日はもう、指をくわえて見ているだけだったとしても
別に夕凪に計画性がないとか
あまり先の難しいことを考える頭の構造をしていないとか
そういう理由だけじゃないはず。
ないはずだよ?
やっぱりスペシャルかき氷を頼んで
ちょっとぜいたくしたのがまずかったかな?
きんきんに冷えた氷にしみ込む甘さは12色。
数える前に半分食べたから確認できなかったけど
吹雪ちゃんが、残った半分の角度から計算してくれた
たぶん12色。
なんだったかな……たしか、
いちご、メロン、レモン、コーヒー、
ミルク、ブルーハワイ、マンゴー、かちわり、
オレンジ、バニラアイス、あずき、すい。
くもりの涼しい日だったからといっても
夏のおまつりには、かき氷。
浴衣で食べるかき氷。
いいにおいで甘くて
もう涼しい日に山盛りでも
でも、わくわく汗ばむ気分にはちょうどいいんだもん。
みんなで分けて食べたし。
夕凪のおうちの20色には何が足りないかなあ?
パイナップルとぶどうとなしと、あとはもも?
あ、かちわりはぶどうっぽい味付け。
ミルクとあずきを分けたのは
ミルク金時が実際あるのになんということだ、って霙お姉ちゃんが言ってたから
霙お姉ちゃんの分はミルク金時だね。
あずきの部分を一口食べて
ふーん、こんな感じなのか、だって。
ふーんって!
もっとあるんじゃないの!?
霙お姉ちゃんも今日はおこづかい尽きた仲間だったのも
あの後で自分も食べに行ったんだと思うなあ。
スペシャルか、あずき。
絶対、いつものクールな顔で、でもよく見るとちょっとにこっとして
うん、うん、ふむふむとか
なかなか、とかつぶやいていたんだよ。
特においしいときなんかは
お兄ちゃんに、ほら、って一口ぶんスプーンであげるんだと夕凪は知っている。
もっとこう、おいしいーってちゃんと言ったほうが
かき氷だってうれしいはずなのにね!
まあ、夕凪はかき氷がうれしいかどうかは別に考えないで
おいしいーってなってたけど。
だって、普通そうなる。
当たり前にあること!
氷柱お姉ちゃんに、夕凪は何を食べてもうるさいなあってあきれられたって
おいしいものがいっぱい!
そう、なんたっておまつりの日。
今日は眺めているだけだったけど
小雨お姉ちゃんと星花ちゃんが小さい子と一緒にいてあげている間、
おこづかいを使い切ったチームで話し合って
そうだ、おうちで作ればいいじゃない、
蛍お姉ちゃんと相談して、教えてもらうことになったおまつりのおいしいもの。
お兄ちゃんにも、先に帰って作ってるねって伝えたけど
なぜかうどんを作って待っているとは思わなかったでしょ?
夕凪も思ってなかった!
立夏ちゃんも、吹雪ちゃんも、霙お姉ちゃんも
このメンバーには任せられないってなんかついてきた氷柱お姉ちゃんも
かつおぶしのおだしのいいにおいを囲んで
不思議そうに見つめていた
まいたけとさといものおうどん。
まず帰って焼きもろこしを作ろう、って話していたんだけど
もう冷蔵庫に残ってなくて
ないかな? ないかな? って
蛍お姉ちゃんが、浴衣を着替えなきゃって言ってうっかりそのままエプロンを付ける
いつものくせ!
見つけたものは
まいたけ。
誰でも見つけたらうれしくて踊るから、まいたけ。
やったー!
きのこ!
って。
でも、夕凪はよく踊ってるね?
やったー、さといもだ!
って。
まいさといも。
なんでもすぐ踊ってしまうのが
よく喜ぶ夕凪の日常。
この季節なら、つい出てしまうぼんおどり。
はー、ちょいと。
まいたけだよ、ちょいとな。
フラダンスも踊るし。
ふりふり。
きのこをいれるなら
おうどんだね、ふらふらふらり。
いいね、おいしそうだね。
ソーラン節も
密着してダンスも
もっと何か見つかっていたら踊っていた?
立夏ちゃんたちの昨日までのがんばりはこの時のためにあった?
いやいや、お礼にお弁当を作るからでしょ。
氷柱お姉ちゃんが言ってた。
いや、作らないわよ。
氷柱お姉ちゃんが。
作らないの?
お好み焼きも作ったし
今年最後になるかもしれないかき氷も、
下僕がいっぱい食べるでしょって言うから
いっぱい作って待ってたよ、
おうちおまつり。
帰ってきたお兄ちゃんが喜んでもりもり食べてくれて、
みんなで食べるとおいしいよね、
家で踊りながらおまつりだーって喜んでいたら
そのうち、お兄ちゃんがおなかいっぱいで苦しくて動けなくなって
夜からの花火大会に行けなくなっちゃった!
ええー!
お兄ちゃんが行かない花火大会なんて
楽しくないよー!
……うーん、楽しいかもしれないけど。
でも、一緒に行くのが楽しみで
夕凪が、うわー花火だね、って当たり前のことを言ったりしたときに
お兄ちゃんしかちゃんと聞いてくれる人はいないんだから
やっぱり一緒に見に行きたいよー。
それで、夕方は少し厚着をしなくちゃいけないから
手をつないで帰ってきたみんなの意見で。
今年の花火大会は、おうちのえんがわから見る
えんがわ打ち上げ花火。
自分たちで作ったお祭りメニューを並べて
近くに行って見るのと比べたら、ちょっと小さいけど
迷子になる心配もないし、疲れて眠くなってもぜんぜん問題なし。
庭で花火に合わせて跳ねても、迷惑にならないし
お兄ちゃんに、どーん、花火だぞーってぶつかっていってもいいし。
花火じゃないけどね!
お兄ちゃんは、夕凪が花火だったらよかった?
ちかちか、ぴかぴかあんなに夜空いっぱいだったらいいのになあ。
お兄ちゃんとか花火みたいに大きくないまだ小学生の
明日は新学期のはじまり。
夏休みがもっと長く続くようにのマホウは効かなかったけど
てことは、ずっと続くのが無理なら、新学期はもっと楽しくなるようにって使ったマホウが
効果があるってことなのかな。
夜が明けるまでの
花火むすめになる遊びも、朝まででおしまい。
宿題もちゃーんと済ませたし
明日から、いよいよ秋の新生活の始まり。
どんなことが待っているのかまだわからないけど
帰ってきたら、お兄ちゃんに全部話してあげるからね!
行ってまいります!