立夏

『びりびり』

びびび。
流れるパワーはどれくらい?
ぴこぴこ結んだあたまの先から
ふっくらやわらかな足の指まで。
はだしで庭を走り出したら砂まみれで
ましてや雨の後は泥だらけになるような
肉球のついた野獣みたいなかかとまで
たっぷり満たされているエネルギー。
最初の出会いで吹き込まれて
食卓に並んで座ったらその時にはもう気がついている
どんな言葉より説得力のあるはにかみ笑顔。
これからずっと一緒に生きていく人。
寒い日にコートを脱いで、しまったら
おかえりの合図。
あっためてあげる!
そんな出会い。
今は暑い日に帰ってきて
うちわを拾うのを見かけたら
あおいであげる!
駆け寄って、ますます暑苦しいって回りにみんなに笑われる。
いつもの生活。
リカの毎日に、オニーチャンがいる普通の生活。
そんなふうに過ごしていたら
一日に必ず出会う
びびび。
びゅびゅーん。
優しい目から飛んできて
リカの体を突き抜ける電撃は
一回きりじゃない。
朝に出会って
ああ、うれしいな。
いやいや、その前に
朝に目がさめたらすでに
もう起きているかなあ?
胸の中の記憶がときめきにぷるんぷるんとろけて甘い。
アリが寄ってくるのは
おかしの食べかすなんかじゃなく、スイートメモリーのせいだヨ!
いやいや待て、
さらにその前があったぞ。
あれはリカが目を閉じて浮かんでくる
人に言わせればただの夢。
でも実際のところは
吹雪ちゃんの言う記憶の整理整頓なんかじゃなく
当然、起きたら消える幻なんかじゃなく
リカの体の全部にある力を使って
すみからすみまで詰まった気持ちフル回転で
会いたいよう、
いつでも会いたいよっていう願いなんだもの。
そうに決まっている。
だからオニーチャンは夢の中でも優しい。
おとこまえ。
それでやっぱり、肝心なところでもう一押しが足りなくて
ここで勇気を出したら
絶対かっこいいのにな。
いつもおうちのみんなを守っているときみたいに
大好きが伝わってくる感じ、
好きの気持ちのために止められないみたいな勇気。
リカひとりの前で見せてほしいのにな!
いつもそう。
だからリカは夢の中でも足りなくて
こっちからつかまえに行くんだよ。
ぎゅうっ!
そしたら胸の中までいっぱいにあふれる、あまあま電気。
たまんない、
いつでもちょうだい!
一生ちょうだい!
だってこんなに楽しいんだもん。
抱きつくだけで届いて来るんだもん!
あきれられても
たまに怒られても
体中に伝わる刺激が、勝手に体を動かしている。
いつもはしゃぎすぎて
ああ、またやっちゃったって
自分を見つめなおしたら
でも、そりゃそうだ、
どう考えてもそうなっちゃう。
全身のどこに聞いてみても
こうなるのが当たり前で
他のことは何も考えられないって言っている。
かみつくみたいに飛びついて
いつもこっちを見ていてね、
ずっと見つめあっていられないならせめてくっついていてね、
もしもどうしても距離が離れてしまうなら
おねがいだからリカのことで頭をいっぱいにして
次に会ったときまでに
会えてうれしい気持ちをどうやって届けようかって考えて
そして、ついにまた一緒にいてもいい時間が来たら
頭の中にあったことが全部吹き飛んで
やったー!
もう何があっても止められないぞ!
って本能にまかせてしまおう!
リカはいつまでたってもこどもっぽくて
はしゃいでばっかりで
体の中で暴れだす何もかも全部をひとつも抑えられない子なのかもしれないの。
オニーチャンもそんなふうに
リカのことを困った子だと思うときがある?
たとえば、ほら。
今日から参加する吹雪ちゃんと、それから氷柱ちゃんとも話し合って
新人たち三人でばんごはんのおしたくのメインをどーんと受け持ったら
あんのじょう、ぎょうざの半分以上が焼いてる途中で次々崩れだして
なんとか皿に乗せて出してみたら
みんなの反応はぬるめで
わーい?
にら炒め?
こういう料理があるのかな?
ほどほどの評価で終わった時のこと。
結局、人気メニューは
春風おねーちゃんの春雨いっぱいのボリューム中華スープだった晩ごはんのこと。
だけど、新人三人組は
一応は食べられるものに仕上がっただけでも成長した、と
明日からも挑戦を続けたくて燃え上がっていること。
ぜんぜん思ったようにいかなくても
心の奥から熱くなっている炎がちっとも小さくならないままで
こんなので本当にいいのかな?
迷惑ばっかりかけてしまったらいけないって、本当はちゃんとわかっているのに。
うまくいく希望はそんなにないって
三人で話し合っても分かっている。
このまま続けてもあんまりうまくいく未来が見えない。
絶対成功するよ、って最初から掛け合っていた言葉は
今はなかなか出てこないようになっていても。
あきらめたくないよね。
こんなところで終わったら悔しいもんね。
食べてほしい人がいっぱいいるよね。
一番みんなのことを思っている大好きな人に
おいしかったって最高の笑顔になってほしいよね。
リカたちが全然できなくたって
まだ夏休みはちょっとだけど残っているんだから
もう少し時間をかけてがんばってもいいよね。
湧き上がってくる力の全部を使うしか考えられなくて
ぶつかっていく。
こんなに負けない気持ちにしてくれる力が
悪いはずなんてないもの。
オニーチャンがくれた熱い気持ちなんだよ!
とてもいいものをもらっているんだって
本気になって伝えなくちゃ。
でも、もしもおなかが痛くなったら
その時は言ってね……
うえーん!
今度こそがんばるからね!