『一週間』

ちくちく
ふう。
もう一回。
ちくちく
ふう、ふう。
まあ、
今のところは
問題なし。
お昼を過ぎてから
友達の家に行って、
帰ってきてからですよって
決められていた、仕事の割り当て。
このくらいは
私でも失敗なくこなせる。
家庭科の時間の宿題だって
雑巾だけなら一応、うまくできた方だから。
それは、普段から縫い物を手伝っているわけではないけど。
私でもちゃんと
平均的な成績もとれるんだから。
家庭科だって
こわくないわ。
本当よ。
この針仕事にしても
そんなに失敗ばかりしないもの。
他にいっぱいもっと上手な子がいるのに、っていうのは
ずっと疑問を感じていても。
ここを縫わないのはどうしてだろう、
一見わからない妙な隙間を
ちゃんと帯でぴちっと締めてくれるのかしら。
なんでこんなところに穴が?
こっちを縫うの?
謎はいつまでも尽きないといったって。
指示されたとおりにしているだけであって
もし製図の段階で間違っていたら私のせいではないし。
なんだかおかしい浴衣ができたら
もともと、私はそこまでどうしてもお祭りに行きたいわけではないし。
それにそもそも
蛍姉様の製図が間違っていることなんてほとんどないのだし。
ついでに採寸も手を抜かないし。
にっこりしてメジャーを伸ばして
てきぱきサイズを記入したら、大事そうに胸に抱えるメモ用紙。
サイズを測らせてくれてありがとう!
とってもうれしい!
私は測ってもらってもそんなにうれしくないんだけど。
とにかくそういうわけで、
たぶん私は自分で縫った浴衣を着て
夏の終わりのお祭りに行くのね。
ミシンで縫ったほうが
絶対早いのに。
確実で、縫い目もきれいで。
文句を言っても仕方がないから
私は、早さと縫い目の美しさは
無骨で頑丈で、確実さだけはとりあえず。
ほつれたりしないように堅実に、
丁寧に──
あっ!
……
もう!
だからなんで
ぜんぜん得意じゃない私がしているの?
自分のことを自分で、って
こういう意味じゃないと思うの。
夏休みは、あと一週間。
次の土日がお祭りだから
立夏ちゃんと夕凪ちゃんは、お祭りに行きたかったら
宿題の期限がますます短くなるわね。
今のままのペースで進めば全然余裕。
きりなく遊んでしまうなんてことがなければ
浴衣作りだって手伝うことはできたけど
もう時間もそんなにないし
かわりに、蛍姉様と小雨ちゃんが着実に進めている現状。
ふたりとも手際がいいのね。
余裕があるんだから、私の分も作ってくれたらいいのに。
でもまあ、私に任された仕事だから
泣き言なんかこぼしても意味がない。
氷柱姉様も、ユキちゃんの分まで作るんだって
少し指をちくっとしたくらいではめげないし。
いえ、そこは氷柱姉様は少し落ち着いて進める方がいい気がするけど。
私だって、裁断された布をもらってあとは縫うだけなんだから
これなら浴衣くらい作れると思う。
たぶん。
帰りが遅れたのは予想外で、少し縫い物の時間が少なくなったけど
このくらいなら影響はないわ。
あなたや氷柱姉様と同じ電車で出かけたときに
買い物の手伝いもしてもらえたら助かるし
もし時間が合って、一緒に帰れそうなら
駅で少し待ってもらっていても大丈夫?
と、言われたときに
駅にいたらいくらでも時間をつぶせるし、いいよって
軽い気持ちで待っていたら
帰ってきたのは、あなた一人だし。
また氷柱姉様が機嫌を悪くするような
余計な一言のせいに違いないし、
まったく、いつもいつも何をしてるんだろう!
と思ったら
氷柱姉様の用事があって
先に買い物を済ませて待つことになっただけだって。
でも、買い物のあと、駅で合流した氷柱姉様が
怒ったみたいに赤い顔をしていたから
何があったかはっきりわからないけど
やっぱり何かデリカシーのないことをしたんだと思うわ。
氷柱姉様が何か言おうとしたときに
びっくりするような音でおなかの虫が鳴り出したのも
顔を見て安心した、なんて言ってたけど
隣にいて恥ずかしかったもの。
くいしんぼうで、のんきで
何も考えてないみたい。
しょうがない人だな、
三人で笑いながら帰ってきたっけ。
通り道にある、日が暮れかけた小学校は
まだ生徒がいない休みが続いて、さみしそうで
広い校庭と人の少ない校舎は心細いような、ちょっと怖いような気がする
灰色の雲が流れていく、いつもより少し涼しい帰り道。
あと一週間したらまたにぎやかになるね、
学校も早くその日が来てほしいって待っているよね。
明日は雨の予報で、ますますさみしいかもしれないけど
もう少ししたら子供たちの声が、夏の終わりの晴れた空にまで届くほど響き渡る。
その時がもうすぐ来るって、どっしり待っていてくれるんだから
おうちの小学生のみんなも、夏休みを迎えたときよりずっと元気に
新学期に向かっていけるよね。
そんな話をして通りすぎた、
もうすぐにぎやかになる小学校の前。
みんなが、夏休みにいろんなことがあったよ、
宿題もちゃんと終わらせたよ、って
胸を張って通る新学期の校門は
今はまだそんな時が来るのかわからないくらい静かで、
ここは私が通う学校じゃないから、その日どんな様子になるのかは知らないけど。
私もちゃんと宿題をすませて
いろんなことがあったのだから、
胸を張って学校のある生活に戻っていけるはず。
その前にはせめて
浴衣を縫うくらいのことはできましたって
堂々としていられるようになったらいいんだけど。
あ、やっぱりそうだ!
またここは糸をほどいて、縫い直し。
はあ……
浴衣を仕上げて気持ちよくお祭りを迎えて
胸を張って飛び出していく新学期、なんて時が
本当に私に来るのかな?
なんだか心配になってきたわ。