春風

『カンフー・ファイティング』
大きな地震はあったものの、
私たちの家では
物が倒れて壊れたり
慌てた子が転んで怪我をしたりといったことは
なかったようで
一安心です。
見回りに参加してくれた
小学生のみんなも
しっかりしていて頼もしかったですね。
みんな立派に大きくなったものです──
たくましくて頼れる男の人の背中を見て育ったのが
いいのかしら?
それとも、あのママの子供たちだから
みんなしっかり
やるときはやる、ということなのかしら。
ウフフ。
星花ちゃんも張り切っていて
かわいかったですね。
あんなにかっこよく
大変な時にもくじけない姿を
見ていると──
もう私たちなんていらないくらいかもしれない。
子供の頃は──
春風がみんなを守ってあげようと
がんばっていたはずなのに
すっかり出番なんてなくて、
みんなの成長に
さみしいやら誇らしいやら──
ときどき、考えることがあるんです。
小さなころの私たちは
子供なりにがんばっていたと思うけど
でも、やっぱり子供だから
ママやお姉ちゃんたちの足を引っ張って
迷惑になっていなかったかな──
ちゃんとできていたなんて
自分だけの思い込みだったんじゃないかな、
小さかった頃のできごとなんだもの──
と、そう不安になる。
だけど星花ちゃんたちがこうして立派に
活躍して、みんなを助けてくれているところを見ていたら
あの頃の私たちもこんなに頼もしかったのかもしれないと──
そんなふうに思えてきます──
たぶん、そうだったんだろうな。
子供たちが教えてくれることはいつでも特別なことばっかり。
もしも一人で
地震の時を迎えていたら
頼れる王子様がいなくて──
みんながいなかったら、春風はどうなっていたやら。
とてもとても──考えるのだって難しいことです。
本当に何事もなくてよかった。
ゆうべの地震
ひとつ大変なことがあったとするなら、
点検で見回っている最中に見つけた、
いつのまにか裏庭の納屋に入り込んでいた子猫が
子猫を生んで居座っていたのくらいです。
うーん──大変なものを残していった夜になりましたね。
こういう時こそ春風がしっかりしなければと思います。
いつもみんなに助けてもらってばかりでは
いけない気がするんですもの。

星花

『大きな地震
だいぶ揺れましたね!
今日はみんなのかわいい
おやつの取り合いや、
じゃんけんと指相撲の戦いを
日記にしようと思っていたけれど
それどころではないようです──
わがやは全員無事でけがもなく、
怖がって泣いてしまった子も
お兄ちゃんのそばですっかり安心して
今は何もなかったかのように
穏やかな夜を過ごしています。
ひとまずは落ち着きましたね。
お姉ちゃんたちのお話だと、
明日の朝は早めに起きて
倒れたものがないか、
落ちて割れたガラスみたいな危険がないかどうかを
確かめてまわることにするとか。
子供には任せられない
大事な仕事なんだそうです。
そうして土日はもう一度、
安全の確認と避難の準備をみんなですることに
なりそうです──
きっと、今日は怖がっていたさくらちゃんもユキちゃんも
怖い地震に備えるためならばと
みんなを引っ張って、張り切って活躍してくれることでしょうね。
こういうときは──とても頼りになるんです。
それにしても、先月には防災のお話をして
それぞれのお部屋からの避難経路も
指をさして確認したというのに、
実際に地震が来た時には
とっさに身を守る理想的な行動というのは
なかなかできる人は少ないみたい──
子供たちは慌てて
いつも頼もしいお兄ちゃんのところへ
急いで駆けて行っては
震える手を伸ばして──
しっかり握ってもらわないではいられない。
何事も冷静に対処するなんて
私たちの誰もできないみたいに
わいわい大さわぎ──
お兄ちゃんも大変だったでしょう?
このまま、安心してゆっくり眠るというのは
なかなかできないかもしれないですけれど
いざとなったら
今は少し落ち着いた星花がいるから安心してほしい──
というのはだめですか?
みんな、お兄ちゃんのお部屋に布団を持ち込んでしまって、
でも、いざという時の安全確保と避難についてはしっかり聞いてくれました。
だから大丈夫だと思います──
明日もきっとみんなはお兄ちゃんのそばで
安心したいと思うの。
ちょっと──騒がしかったらごめんなさい。
大変だった時間も落ち着くものです。
どうか今夜はゆっくり休んでください──

ヒカル

『おみとおし』
ほら──
みて!
一日ごとに早く、暗くなる
日暮れに追われるように
家に駆けこんでくる子供たちの足音。
精一杯遊んだはずでも、
表にぜんぶやりたいことを置いてすっきり帰ってきた子、
あるいは何かやり残したことのあるような顔──
小学校では放課後の野球が
最近の人気なんだって。
よく晴れた空に向かって
吸い込まれるように飛んでいく白球!
追いかける子供たちと
鳴りやまない声援。
そうしたらその次は
ホームランをかっとばした、
強打者をうまく打ち取った、
力を合わせて一点をもぎ取った──
ならいいけど、
試合に負けていたり
あと一打席で逆転の目があったのに
暗くなってひとりまたひとり
背中に勢いよくランドセルを乗せて
家路につくメンバーたち。
よくある、
そして意外と
大きくなっても忘れることのない
楽しかった日の出来事──
でも、あんなに
勝った負けたが大人からは
一目でわかるほどだったのかな。
私たちの頃も──
オマエだって──
持ち帰ったお話を
子供だったらちっとも隠せないもので
ママや海晴姉たちには丸見えだったのかもしれない。
うーん、私はどうも
ママや長女に生まれたことがないから
そんなものなのか
わからないな!
いっぱい打たれて帰ってきた日だって
たくさんあったのに──
あっ、年上から見たら
何もかもばれてしまうんじゃあ
もしかして、
今この年になっても私の持ち帰ったあれやこれは
筒抜けだったりするのかな?
うーん、でもまあ隠すような大変な秘密もそうないからいいか。
それにもう私だって
全部顔に出るほど子供じゃないと思う──
ま、細かいことはいいや。
ボールを投げる
相手になるなら──
多少の心得がある。
今すぐっていうわけにはいかない
また明日! っていうのが
もどかしくって
眠れなくなりそうだけどね!
ん?
こんなことじゃあ──やっぱりまだ
ヒカルもなんだか子供みたいじゃないか。
今日も全部
朝にオマエと顔を合わせてからの
あれもこれも
全部まるまるとばればれなのかな?
変なの!

綿雪

『にこにこ』
シャンシャン
キラキラ──
どこかから聞こえる
この澄んだ音。
きれいで優しいのに
情熱的で
胸がどきどきするような──
これはお祭りの時の音?
太鼓が遠くまで鳴り響いて
笛は踊るように楽しく、
お祭りに使う道具の
鈴の音が
夏の夜に広がっていくと──
世界は清らかで
祝福に満ちていく。
この街にも、またお祭りが来ましたと
告げているよう──
はじまりと、
楽しいことと
怖いことも、
いろんな出来事があったけれど、
今日こうして
お祭りはやってきたと──
でも、今はもう
ときどき風が冷たい
季節は秋。
本当にお祭りの鈴なのでしょうか?
ユキのかんちがい?
まさか、もしかすると
聞こえてきたのは
まだ遠くにうっすらと見えているだけで
だんだん近づいてきたと
大人たちのお話にときどき聞こえる日、
いつかもしかすると訪れる
鈴の付いたそりに乗る
トナカイの気配では
ないでしょうか。
もう、お店のカタログで
クリスマスケーキの
予約も始まったっていうの!
ユキはとても驚いてしまう──
胸はまたドキドキするみたい。
寒くて雪の降る季節を
待ちきれないみたいに
顔をのぞかせた子がいるかもしれないだなんて──
でも、やっぱり早すぎるかな。
かといって鈴虫の面白くて生き生きしている泣き声と聞き間違えるには
だいぶ違う気がするし──
まだユキの知らない秘密が
世の中に隠れていることだってあるのかもしれないし。
耳を澄ませると
幻だったかのように
消えてしまったけれど
ユキは確かに聞いたの──
とってもきれいな音。
胸はどんどん高鳴っていく。
このままだと、何かいいことがあるかもしれないって
早くお兄ちゃんに
そんな気持ちを聞いてもらわなくては
いられなくなってしまいそう──
たいへん!
もうすぐ、そうなりそうな気持ちです。

真璃

『マリーと一日』
今日も暖かい日でよかったわね!
寒くもなく
暑すぎるわけでもなく。
お外で泥んこになって
帰ってきた子供たちがいたら
すっぽーんと脱がせてぱーっとお風呂に入れて
あとは日なたに転がして一丁上がり。
何にも難しいことはなくていい
のどかで優しい
穏やかな季節。
少し前までは、
暑さでテンションの上がった
夏のお嬢様や
河童や半魚人みたいなプール好きや
汗でできた水たまりの中に倒れてへばった子や
もう気の落ち着く暇もない
エネルギー前回の毎日だった気がするけど
ほんの少しの間に
変われば変わるということなのか──
縁側ではあくびも出るわ
なんとなくお庭を眺めて
気持ちのいい風に──
にっこりするやら。
繕い物がすすむホタお姉ちゃまのそばで
晩ごはんの下ごしらえに
さやえんどうのすじをとって──
こんなふうにあわただしい世界から隔たったような時間が続くと
みんな、苦労もなくて
気楽なのかもしれないわね。
まあ、そんな夢のようなことは
我が家に限ってありえないに決まっているんだけどね!
そうしたら、ホタお姉ちゃまは
ばたばた駆け回ってみんなに振り回されていた
懐かしい真夏のあの日々も、
またあってもいいんじゃないかも──しれないんだって。
そういうものなのかな?
ホタお姉ちゃまはいつだってチャレンジャーね。
山が近いこのあたりだと
最近は、日が沈むとずいぶんと寒くなることも多いから
今夜は野菜たっぷりの
おいしいラーメンでみんなに温まってもらうんだそうよ。
聞いた? おいしいって!
うれしいな!
フェルゼンもうれしい?
マリーだって手伝ったのよ──
ぽかぽかして、力がみなぎって
また真夏みたいに
エネルギーが湧き出す子がいっぱいいたら
たいへんね──
フェルゼンも一応は対処を考えておいてね。
こんな毎日でも──我が家はきっと油断なんてできないと思うわ。

星花

『おさんどん』
かけっこに
キャッチボール、
かくれんぼや
たかおに──
きょうだいがいっぱいの
わがやでは
遊ぶ相手に困らないのが
いいことなのだけれど。
もちろん、家族が多いと
大変なこともあり
やることも──
いっぱいある!
全員集合!
雨の後の
洗濯物の時間が
ついに今日もやってきたの。
傘をさして
濡れながら帰ってきた子も──
雨が強くなる前に
傘を持ってお迎えに行った子も、
おうちのなかで
走り回って怒られて
いっぱい着替えを増やした子も
みんなみんな
忘れないでいてほしいこと。
洗濯物の
お手伝いは、
必ずやって来る。
協力し合って
のりきろう!
それしか──
雨の日の後を乗り越える方法は
ない、こともないけど
晴れたらその時にやっておいたほうが
いろいろと便利です。
しかも、こういう時って
もしものことを考えると、
今が一気に洗濯物を片付ける
わずかなチャンスかもしれないでしょう?
子供のころから
お手伝いを重ねてきた
経験豊富な大家族の一員は、
できることは
よし、やっておこうと
はりきってしまうときがあるんです!
洗濯機から次々と吐き出される真っ白な洗い物、
日差しを照り返し、ぴちぴち水をはじく着替えを
次々に広げていく物干し竿──
この忙しさ、騒々しさが
やがて落ち着いた大人の人へと導く
大事な力になるに違いない──
そうなるといいな、と
家族が心を一つにして
雨の日の翌日を
駆け回って過ごす──
春風お姉ちゃんとホタお姉ちゃんは、
よく働いたみんなに
力の付くおいしいものをたくさん作っておいてくれるんです。
星花が大きくなった時に
みんなのために同じように元気を付けてあげられるかなあ──
というわけで、お兄ちゃんもお疲れさまでした。
いっぱいお仕事をしましたね!
おいしいものを
どれだけたくさん食べたって、
誰も何にも文句は言わない、
手を取り合った仲間でテーブルを囲む時間が
そろそろやってくるはずです──

春風

『あのね』
今日もお腹の底から笑って
楽しくてたまらない
あなたと過ごす日々。
家族と一緒の毎日。
だけどこんなに
幸せで、
うれしくてたまらないのに
あなたがそばにいる
ただそれだけで──
なぜかぽつりと
頬を伝うしずく。
私があなたに伝えたいことは
たくさんあるのに──
私は──
むかし、どこかの場所で
知らない誰かが
今ではわからないきっかけによって
世界で最初に言葉を作り出しました。
それにあこがれた人たちが
美しいことを──
すばらしいことを
積み重ねてきたといいます。
ときどきは
歌にして──
ときどきは詩に託して。
またあるときは
ノートの切れ端に隠すようにして描いた落書きで
人間はいつも、
大切なことを伝えようとしたといいます。
そんなすべての人の
全ての積み重ねが
今日のあなたの何気ない
ふつうのただ一言を
私に伝えるためだけに
存在していたと私が言ったなら
あなたは──どんな顔をするでしょう。
神様が、今日の私が経験した一瞬のためだけに
この世界を作り上げたのだと言ったなら。
本当はそんなことがあるわけないってわかっている。
全部私の身勝手な思い込みだと知っている。
でも、そんなふうに
勝手なことを心から信じられる瞬間を
あなたのおかげで何度も重ねていると言ったら
あなたは──
本当は、いつももっと
たくさんのことを伝えたいと思っているんです。
あなたがいてくれてどんなに感謝しているか──
あなたと出会えた喜びがどれほど大きくて
今も膨らみ続けていることとか──
当たり前のように過ごしているあなたの
重ねてきたすべてが
どれだけ私を幸せにしているのかと
わかってほしい──
この気持ちを伝えたい。
だけど、いつもあなたへ届ける言葉は
ただひとつだけ、
ありがとう──と
それしか思いつかないんです。
もっと言いたい気持ちはたくさんあるのに、
いつかそれを伝えられる日は来るのでしょうか。
それとも先に
いつか二人のどちらかが目を閉じる日は──来るのでしょうか。
今日も、あなたに伝える言葉は
いつもと同じありがとう。
いつもと変わらない感謝の気持ち。
もっと──どうか、もっとたくさん
私のそばにいて
ありがとうと言える瞬間をたくさんください。
ありがとう──あなたと出会えて私は本当にうれしいんです。